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とこしえの2人  作者: 雪月影
第四章

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第七十三夜:もう少しだけ

前話と、このお話が今までのお話で書いていて1番ドキドキしました。自分で書いていてあれですが、こういうお話が好きです。



 春も終盤に入り、もうそろそろ次の季節へと巡り変わる時期の今日、涼しい風が春の存在を伝えてくれるとはいえ、日差しはじりじりと肌をあたためる。



 「こうも日差しが強いと、長く歩くのは大変ね」



 日傘を消して真っ直ぐと道を進んでいたシンシアは、隣で余裕そうな表情を浮かべて疲れを感じさせないリオを羨ましそうに見つめた。



 「わたしはシアと違って普段から外を出歩いたりしているし、旅には慣れているからね。最近出歩くようになったシアにはきついね、ここまで沢山歩いて良くできました。そんな顔で見つめられても、何もしてあげられないよ。ふふっ」



 汗ひとつかかず、息切れもない。



 1時間強歩いてもまだにこりと微笑んでいて、リオはもしかしたら体力がとてもあるのかもしれない。


 

 羨ましい。



 「私もお散歩していたのに、こんなにも差があるなんて。これからはもっとお散歩を増やすべきね」



 オリンピュイア森林の屋敷にいた時は、毎日庭のお散歩をしていたし、時々森の様子を見に行っていたと言うのに、リオとの差は大きい。



 リオとそんなに歩いている量は変わらなそうに思うけれど、もしかしてリオは日常からもっと歩いているの?



 「シアとわたしでは身長が違うのもあると思うから、そこまで気にすることは無いと思うよ。それに、旅はまだ始まったばかりだろう?ゆっくりで良い、それくらいがちょうど良いよ」



 納得いかないという表情をしたシンシアを、リオはそう言って慰める。



 少し休もうというリオの言葉で、休憩を取ることになった。



 周りは次の街に続く大きな道以外には草木しかないので、リオが魔法でピクニックシートとフルーツ、飲み物を出した。



 2人はピクニックシートに座り込む。



 座り込んだ途端、身体がほぐれていくのを感じる。



 腰から足元にかけて、すっと身体の力が抜けていくのが気持ち良い。



 「ふふっ、長く歩いてみてどうだった?」



 あからさまにほっとしたシンシアの表情を隣で見ていたリオが、飲み物を差し出しながらそう問いかけてきた。



 リオから飲み物を受け取って一口飲むと、優しい甘さの果実水が喉を潤した。



 冷たくて甘くて美味しい。



 枯れた花壇に水をやった時のように、身体に潤いが染み渡る。



 「どこを見ても見たことのない景色だから、外の世界を感じられて新鮮ね」



 疲れは置いておくとして、一面に広がる緑は森の屋敷にいた頃とはまた違うものだし、この何もない道でさえシンシアにとっては珍しいものだ。



 自分の足で進んでいくことで、違う人とすれ違い、空の雲を追うことが出来る。



 一見どれも同じ景色に見えるが、一つとして同じ物は無い。



 すれ違う人の声や顔、目的が違えば行き先も違うし、草木を通して見つめる空の色や雲の形も、数歩進めばまた違う物になる。



 ずっと同じ場所から同じ景色を見ていたシンシアにとっては、新鮮に感じた。



 「シアにとってはどれも初めてだから、余計にそう感じるだろうね。……ふふっ、実はね、空を飛んで何処かに行くのも楽しいんだよ。もう少し歩いて、もう良いかなって思ったら次は空を飛ばないかい?」



 リオの持つ果実水が、頬にペタリとくっ付けられて冷たい。



 日差しで暑くなった頬が、冷えた果実水によって溶けていく。



 当たり前のように徒歩で進んできたけれど、魔法で空を飛ぶことも出来るらしい。



 フォルトゥナ王国まで全て徒歩で行くのかと思っていたけれど、そうでは無いようで少し肩を撫で下ろす。



 空を移動……徒歩でこれなら、空を飛ぶのはどれほどなのかしら。



 きっと、今以上に風を感じて景色も一瞬で変わっていくんだと思う。



 「楽しそうね。風が気持ちよさそうで、やってみたいわ」

 


 頬に当てられた果実水で心地良さそうにしているシンシアに、リオは優しく頭を撫でる。



 「だろう? ふふっ、決まりだね。もう少し休憩したら行こうか」



 力の抜けた身体に、火照った頬を冷やす果実水、リオの優しい声と頭を撫でる手。



 このままでは溶けてしまいそうだ。



 身体の疲れが良い感じに力をほぐしていて、夢見心地のような心地良さを感じる。



 サーっと通り抜ける風が頬を撫でて、リオの香りとピアスの揺れる音を運んでくれる。



 右隣にいるリオににじり寄って、肩に頭を預ける。



 「きゅうけい」



 リオはきっと、きょとんと瞬きをしていたけれど、休憩だと言ったら包み込むようにして支えてくれた。



 頬に当てた果実水は何処かへ消えて、肩を抱き寄せる腕に代わってしまったけれど、優しく頭を撫でる手はそのまま。



 「もう少しだけね」



 耳元で囁くような声が聞こえてくる。



 伝わってくる体温はほんのりと温かかった。




最後まで読んでくれてありがとうございます。

誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。

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