表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とこしえの2人  作者: 雪月影
第三章:ひとりぼっちが愛をしる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/80

第六十九夜:愛おしいは可愛くもなるということは、可愛いも……?

皆さんは何かを愛おしいと思ったことはありますか。

好きと愛おしいの違いがよく挙げられますが、今回は可愛いと愛おしいのお話です。



 瞬きをすれば、あの夜と同じ植物園が目に入る。



 ソレイユ邸に戻ってきたのだ。



 「おかえりなさいませ。リオ様、シンシア様」



 周りに誰も居ないと思っていたところに、すぐ近くからライの声が聞こえて驚く。



 ライの隣にはエミリーも居て、2人ともきっかりとお辞儀をして出迎えてくれた。



 「ただいま。夕食は食べてきたから用意しなくて良いよ」



 リオがそう言うと、ライはリオのそばに、エミリーはシンシアのそばに歩み寄る。



 「シア、湯浴みしておいで。明日からはきっと疲れるからね、今のうちによく寝て身体を休めておくと良いよ」



 リオがシンシアの頭を撫でると、エミリーの名を呼び、湯浴みへ連れて行くように命じた。



 シンシアはエミリーに続いて浴場へと向かう。



 「どうでしたか? シンシア様」



 「今日はこの前ソレイユ邸の外に出た時にできた友人とチェーロの街を見たわ。旅に出ると言ったら、泣いてしまったの」



 「まぁ、良いご友人ですね。お名前はなんと言うのですか?」



 「ココとレイアよ、ココは私の肩くらいの身長の小さな女の子で、レイアはその母なの。ココ、すごく可愛いのよ」



 エミリーはシンシアの身体をほぐしながら話していて、シンシアの頬が緩んでいることに気がつく。



 「そうなのですね、良かったです」



 浴場にはシンシアとエミリーの他に、数人のメイドがいて、それぞれがシンシアの身体や頭を洗ったりしているが、会話に入ることはない。



 しかし、彼女らもシンシアとエミリーの話に興味津々なのだろう。



 皆が話を聞く雰囲気を作っている。



 「一緒にお出かけしましょうって言ったら、ココがオシャレしてくるから待っていてって言ったの。そうしたらね、あの子大きなリボンのポシェットを身につけて出てきて、私のリボンみたいだからお気に入りなの、かわいい?って。……可愛いってああ言うことなのね、私、きちんと分かったわ」



 頭をメイドに預け、リラックスした様子で目を瞑るシンシアは、脳裏にあの時のクロエの様子が浮かんで笑みを浮かべた。



 あんなに心から可愛いと思ったことはない。



 心に可愛いと言う言葉が思い浮かんだのは初めてだった。



 「ふふっ、それはまた随分と懐かれましたね」



 エミリーが施術するマッサージは力が自然と抜けてしまうほど心地良い。



 気を抜けばそのまま眠ってしまいそうな心地良さを感じながら、返事をする。



 「ええ、ココにとって私はお姫様のように見えるんですって。いつも可愛いと言ってくれるけれど、本当の可愛さはあれだと思うわ」



 「シンシア様は比類ない美しさですし、立ち居振る舞い、ドレスだって全て上品ですもの。お姫様と思われるのも無理はないでしょう。あら、私は本気でシンシア様を可愛いと思っていますが?」



 着飾ったシンシアより、クロエの方が可愛いと言うシンシアに対し、エミリーは聞き捨てならないと言うように言葉を返した。



 「ふふっ、貴方たちのおかげよ。だってエミリー、言葉で大好きを伝えるのではなくて、物で大好きだって伝えてくるのよ? 意図してそうしているわけでもなさそうで、心からそう思ってるんだって思うと愛おしくて。あら、もしかして愛おしいって気持ちなの? でも、その後すぐに可愛いか聞いてきた時も可愛かったわ」



 言葉で気持ちを伝えることは誰にでも出来るだろうが、物を選ぶときに自分に似ているからと言う理由でお気に入りにすると言うのは、本当に自分のことが好きなのだと直球でわかる。



 どれだけ好きかなんて言葉にすることはきっと大人でも難しい。



 この世界には様々な意味を持つ言葉があって、自分の気持ちと1番合う言葉を選んで口に出すのだから、相手に伝えるまでの間にその気持ちの本当の濃さが薄まる事だってあるだろう。



 だが、考えや行動は自分の気持ちの濃さそのものを表せるのでは無いか。



 誰が見てもすぐに分かる気持ち。



 エミリーに伝える言葉だって、ありきたりな表現でしか説明できなくて、きちんと伝わっているか自信がないけれど、確かにクロエのあの言動は、シンシアの胸に刺さったのだ。



 するすると言葉が出てくるが、途中ではっとする。



 今、愛おしくてって言葉が出た。



 あの胸を突き刺すような気持ちは愛おしいと言う気持ちなのではないかしら。



 シンシアはなんとなくこれが正解だと思った。



 「ふふっ、どちらも合っているのでは無いですか? 元々、可愛いという言葉は愛おしいと言う言葉が転じて出来た言葉だと言いますから。きっと、ココさんの行動がシンシア様にとって強く心を動かされるほど可愛らしかったのでしょうね」



 愛おしいが転じて可愛い。



 可愛いという言葉のもとである愛おしいという気持ち。



 たまらなく可愛がりたくなる気持ちだと読んだことがある。



 あの時、ぎゅっと抱きしめたくなったのは愛おしく思ったからだと思うと、納得が行く。



 「そうね、愛おしいという気持ちだったのね。なら、愛おしいは可愛いの一個上でしょうから、さっきの言葉は少し意味が異なってしまうわね? 私はお姫様みたいに可愛くて、ココは愛おしい、これが正解ね」



 せっかくエミリーが可愛いと言ってくれたのだ。



 彼女たちにも彼女たちのプライドがあるのだから、大切にしなくては。



 「ふふっ、そうですね。シンシア様はもちろん可愛いです。じゃあ、シンシア様にひとつ良いことをお伝えいたしますね。シンシア様がココさんを愛おしく思うように、もしかしたらリオ様はシンシア様を愛おしく思っていると思いますよ。ふふっ」



 周りで世話をするメイドがくすりと笑みをこぼす音が聞こえる。



 どうしてリオの話が出るの?



 今は可愛いって話じゃないの?



 シンシアは一瞬、エミリーの言う言葉の意味が分からなかったが、リオの口癖が思い浮かぶ。



 可愛い、面白い。



 かわいい。



 その日シンシアは湯浴みが上がっても頬の火照りが治らなかった。


 



最後まで読んでくれてありがとうございます。

誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ