第六十七夜:魔法使い
苺のタルトが食べたいです。
「ふふっ、良かったわー褒めてもらえて! ほら、シンディちゃん。リオにも食べさせてあげなきゃ」
レイアはにこにことリオとシンシアを見つめると、リオに目配せをした。
「うん、それは良い!……あーん」
リオはレイアと同じようにいたずらな笑みを浮かべ、シンシアがカナッペを口に運ぶのを目を閉じて待っている。
リオだけでは無く、レイア、クロエもにこにことしてこちらを見つめるため、シンシアは雰囲気に呑まれてカナッペを手に取る。
「……あー、ん」
ゆっくりとリオの口元へトマトを落とさないよう慎重に運ぶ。
リオの開いた唇が、カナッペを受け入れる一瞬、ちらりと目を開いたリオと目が合う。
「うん、美味しい。シアが食べさせてくれたからかな、ふふっ」
カナッペを一口食べたリオは、親指で口を拭い微笑む。
たった数秒のことなのに、シンシアにはスローモーションのように見えた。
綺麗。
いつ見ても見惚れてしまうほどの美貌に、シンシアは見入ってしまう。
「あらあら!」
「きゃっ」
リオのうっとりするほどの顔に見入っていると、突如レイアとクロエの声が聞こえて、はっとする。
レイアは口元に手を添えて微笑み、クロエは両目を小さな手で隠している。
2人の反応に首を捻る。
何かしてた?
「シンディとリオ、仲良しだ!」
「ふふっ、そうだよ」
小さな手で頬を覆うクロエに、リオはにこにこと微笑んで肯定する。
その様子を見てレイアは、またもあらあらと声をあげる。
「私とリオが仲良いのはいつもでしょう?」
今更そんなことで盛り上がる必要があるの?
自分だけ3人の会話を理解できていない気がする。
「ふふっ、そうね? シンディもいつか分かるわよ。さ、デザートはどう?」
こてりと首を傾げるシンシアに対して、レイアはフルーツゼリーを勧める。
苺をふんだんに使ったフルーツゼリーは、食卓に彩りを与えている。
「食べたーい! はいはい、ココも食べたい!」
クロエはびしっと手をあげて存在を主張していて、彼女がずっとデザートを心待ちにしていたことわかる。
「いただくわ、ありがとう」
カップをレイアから受け取り、皆の手元にゼリーが行き渡る。
「おいしーい!……ココ、苺だーいすき!」
シンシアが一口を口に含む前に、クロエは一口食べ終わったようで、早速頬を綻ばせて感想を言っている。
リオに内緒で苺を食べた時にすごく甘かったから、きっと美味しいだろう。
シンシアも食べてみる。
スプーンでゼリーを掬ってみると、ぷるんっと揺れ、ゼリーの光沢が揺れ動く。
苺の甘みとは別に、ゼリーのみずみずしい柔らかさが口に広がる。
そのまま苺を食べているようだ。
「美味しい?」
うんうんと頷くシンシアに、隣に座るリオがそう問いかけた。
「……おいしい」
きちんと呑み込んでから答える。
シンシアの嬉しそうな様子に、リオは微笑んでから自分も一口ゼリーを食べると、満足そうに微笑んだ。
「うんうん、美味しいね」
リオの様子は、クロエが何かを食べているのを見守るレイアの様子に似ている。
リオにとっては、わたしは小さい子供なのかしら。
「良かったわ、まーま頑張った甲斐があったわね!」
そんなことを考えていると、レイアが胸をトンっと叩いて得意げに頷いて見せた。
「まーま、すごーい!!!」
「レイアは料理の腕も良いね」
クロエはぱちぱちと拍手を、リオは賞賛を贈る。
「レイアは魔法使いみたいだわ」
魔法を使っていないのに、こんなに美味しいゼリーやポトフを作って、悩みを解決してくれる。
心からすごいと思う。
「ふふっ、嬉しい! ほらほら、タルトレットも食べて良いのよ!」
皆からの賛辞に気分をよくしたレイアは、タルトレットを勧め始める。
よっぽど嬉しかったのだろう。
「わーい!……うんうん、最高ー!」
まだゼリーを食べ終わっていないと言うのに、タルトレットを口に含んだクロエは、それはもう幸せそうな顔をしている。
タルトレットを手に取り、リオの口に運ぶ。
リオやレイアの気持ちが知りたくなったから。
同じことをすれば分かると思ったのだ。
「はい、口を開けて」
自主的にタルトレットを食べさせてきたシンシアに、リオは何度か瞬きをした。
「シアから食べさせてくれるのかい? 嬉しいよ。……あーん」
一口でタルトレットを食べたリオは、にこにこと微笑んで咀嚼している。
「おいしい?」
レイアとリオは、こうしていた。
「もちろん、美味しいよ」
リオはシンシアの様子を不思議そうにしつつも、そう答えた。
「……そう」
よく分からないわね。
分かったのは、タルトレットが美味しいと言うこと。
食べている時ににこにこと見つめるのも、美味しいと答えるとことさら嬉しそうにする理由もよく分からなかった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




