第六十五夜:内緒だよ?
どうしても毎日母として頑張るレイアをシンシアに手伝わせたかった。親はいつも子供のために頑張ってくれてるからこそ、お手伝いされると嬉しい気持ちになりますよねー。
「さ、出来たわよー! ココちゃん、お皿運ぶのを手伝って」
街での買い物から帰ってきた4人は、レイアとクロエの自宅にて、晩御飯の支度をしていた。
レイアはシンシアとリオ、クロエに遊んで待っていてと言ったのだが、レイアの料理に興味があったシンシアが手伝いを申し出た。
レイアは喜んで受け入れてくれて、シンシアは野菜を切ることになった。
シンシアは料理をすることも、魔法を使わずに食べ物を切るのもしたことがなかったが、それでもレイアとクロエの普段の生活がどんなものか知りたかったのだ。
「シンディちゃん、包丁で切るときは指を切らないように猫の手をすると良いわ。……こんなふうに」
「そうそう! ゆっくりで良いからね、手伝ってくれて助かるわ、うれしい! ふふっ」
手伝うと言ったのに、慣れない様子で野菜を切ろうとするシンシアに、レイアは怪訝な様子を見せるでもなく、優しく一から教え、きちんと切れた事を見せると嬉しそうに微笑んでくれた。
シンシアが魔法を使わなかったのは、レイアたちが魔法を使う様子が無かったから。
魔法を使う方が早いのに、自らの手で料理すると言うことはそれだけ真心がこもっているような気がして、シンシアは魔法を使わなかった。
レイアはシンシアが自らの手で料理をしたことがないのが分かっていたのだろう。
きっと1人で支度をする方が早いだろうに、ゆっくりで良いと優しく教え、慈愛に満ちた様子で見守ってくれた。
「普段2人がどんな生活をしているのか気になって手伝いを申し出たのだけれど、結局時間を取らせてしまったわね」
はぁとため息をつき、肩を落とした様子のシンシアに、レイアはふふっと上機嫌にこう言った。
「そうね。でもね、シンディちゃんがお手伝いをしたいって思ってくれることが嬉しいの。それに、私たちのことが気になって魔法を使わないでくれたでしょう? シンディちゃんは転移魔法を習得するような子だもの、きっと魔法で切ることだって出来たわよね。なのに、自分の手でやろうとしてくれた。その歩み寄りが何よりも嬉しいのよ。だから、ありがとう、シンディちゃん」
小さな子供を褒めるかのようにポンポンと優しく頭を撫でるレイアに、シンシアはされるがまま受け入れる。
レイアの言葉は、シンシアの胸にじんわりと広がって行ってどこか満たされる気持ちにさせた。
「……ありがとう」
「ふふっ、それじゃあパパッと作っちゃいましょ!」
こうして2人は共に晩御飯の準備をしたのだった。
「わー、すごーい! 今日、たくさん美味しいのある!」
レイアに呼ばれて厨房に来たクロエは、目についた料理を見るなり目をキラキラと輝かせて嬉しそうに笑った。
それもそうだ、サラダにポトフ、カナッペとフルーツゼリー、タルトレットが用意されているのだから。
「ね、一口だけ味見してあげても良いよ! あーん!」
もうすぐに夕食だというのに、可愛らしくおねだりするクロエに、レイアとシンシアはくすりと笑いをこぼす。
「そうね、一口だけ。……みんなには内緒よ?」
レイアはタルトレットを作る時に余った苺を一欠片手に取り、クロエのそばにかがむと、ぽいっとクロエの口に苺を入れて、口元に人差し指を立てた。
苺をぱくぱくと咀嚼したクロエは、うんうん! と勢いよく頷いて見せると、小さな両手を頬に当てて声を漏らした。
「んー!……シンディ、内緒だよ?」
ひとしきり味わったのち、クロエはレイアと同じように人差し指を立てて口元にやり、上目遣いでシンシアを見やる。
シンシアを見やるレイアとクロエは、よく似た笑顔で微笑み、シンシアにも苺をぱくりと咥えさせた。
「ふふっ、これで私たちだけの内緒ね?」
自分もぱくりと苺を食べたレイアは、楽しそうに微笑み、シンシアも共犯にしてしまった。
「……そうね、内緒。リオには秘密よ」
シンシアの唇は弧を描いた。
そうして3人は、しーっと口元に人差し指を立てて微笑みあった。
リオにバレないよう小声で笑い合っていると、突如近くで声が聞こえた。
「楽しそうだね?」
3人はいたずらな笑みから一転して、澄まし顔になる。
クロエはテキパキとお皿を手に取って歩き出し、シンシア、レイアはカトラリーを用意したり、料理をお皿に盛り付け始めたりして、何事もなかったかのように動き始めた。
「何でもないわ。さ、食べましょ」
こうして乙女3人の秘密の時間は終わりを告げた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




