第五十六夜:途絶えた神話
やっとリオが穏やかになりました。
2人の朝食について書いてるといつもお腹が空いてきます笑笑
胸元から膝上までビーズをあしらわれたブルーのマーメイドドレスに、ふんわりとしたアームドレスとヘリオドールのリボンを身にまとい、リオと朝食をとる。
「そのデザインのドレスも素敵だね。可愛い、よく似合ってるよ」
リオは開口一番にそう言ってくれた。
その言葉を思い出して顔が綻ぶ。
「そんなににこにこして、どうかしたのかい?」
目の前で食事をしていたリオもにこにこと微笑みながらこちらに問いかけてきた。
「今日の朝食も美味しいと思っただけよ」
「ふふっ、そうだね。うちのシェフは腕が良いからね。いつも助かっているよ」
今日の朝食はチュロスだった。
こんがりとした色にギザギザとした生地、まっすぐとしたチュロス2本と、ホットチョコレート。
チュロスはサクサクとしていて、温かいけれど甘くはないため、濃厚なホットチョコレートをつけて食べるとちょうど良い甘さになる。
「ええ、本当に良い腕をしていると思うわ」
チュロスを食べ終わる頃になると、ライがオレンジを切り分けたものを持ってきてくれて、チョコレートのどろりとした濃厚な味とは別に、さっぱりとしたオレンジが口の中を満たす。
「チョコレートとオレンジの組み合わせって良いわね」
朝からどろりとしたチョコレートは重く感じてしまうかもしれないが、オレンジがその重みを打ち消してくれる。
「チュロスの時はいつもオレンジを頼んでいるんだ。さっぱりするだろう?」
「ええ、オレンジの味も良いしね」
2人はうんうんと頷いた。
「そういえば、シアは国や歴史はどの程度知っているんだい?ずっと1人だったんだろう?これから生活する上で、歴史や一般常識は知っておくに越したことはないからね」
リオはティーカップをソーサーに戻すと、そう切り出した。
たしかに、今の私は自分が何処にいるのかすら分かっていない。
私がいた森との距離がどれくらいなのかを知るためにも、この話はしておいた方が良さそうよね。
「そうね……私が知っているのは手紙の書き方や礼儀作法、あとは屋敷の本に載っていたことくらいかしら。……国の名前も場所も、歴史もきっと知らないことだらけなのでしょうね。あ、私がいた森がオリンピュイアの森というのは知っているわ」
レイリアとオリアナから、特に国についてや歴史について教わった記憶はない。
「なるほど……じゃあ、読み書きとかはできるんだね。算術や他の勉学はどうだい?」
リオは人差し指で唇をとんとんと触って、少し考えた後、そう問いかけた。
「算術については一通り出来るわ。その他はどうかしら、私にもまだ分からないわね。でも、神話なら知っているわ」
算術はレイリア亡き後、オリアナが途中まで教えてくれたので、そのあとは屋敷の本で学んだ。
「神話?」
リオは興味深そうに聞き返した。
「ええ、眠れない時に読み聞かせてくれたの。確か、1番初めの神が月と太陽を生み出して、月の神と太陽の神が誕生したのよね。そして、原初の神がこの星を生み出したは良いものの、原初神は命を落とし、この星の神は生まれなかった。だから、月と太陽の神がそれぞれ使者を使わせたのよね。月と太陽の神の使者によってこの星は進化を遂げてきたと教えられたわ」
神話を聞かせたあと、2人は必ずと言っても良いほど、この話にはまだ続きあっていつかきっと教えると言っていた。
結局聞けずじまいだったが。
そういえば、月と太陽の神というと、この地には太陽の眷属の末裔がいるという伝承があるとライとエミリーから聞いたことがある。
もしかして、太陽の神の使者は伝承に出てくる太陽の眷属の末裔で、伝承の続きに出てくる月の眷属の末裔は月の使者なのかもしれない。
そう考えれば納得が行く。
「その神話、レイリアとオリアナが?……とうの昔に途絶えたと思っていたけれど、正しく受け継いでいる者がいるなんて」
リオは唇に手を添えたまま、訝しげに眉を顰めて問いかけた。
その後に小さな声で何か言っていたが、独り言のように小さな声だったから聞き取れなかった。
「ええ、この話にはまだ続きがあっていつか話すと言ったけれど結局聞けなかったのよね」
いつもの穏やかな様子とは少し違うリオを不思議に思いながら、シンシアは正直に答えた。
「……そう。シアがさっき言っていた神話、それはかなり昔は語り継がれていたけれど、今はその神話は途絶えてる。今は原初神は元から存在せず、月と太陽の神がこの星を生み出したと言われてる。神話というのは、地域によって多少異なるものだけれど、おおまかな解釈はこれだから、覚えておいて損はないよ」
昔の神話ということは、レイリアとオリアナは昔からこの神話を受け継いできた希少な一族だったの?
シンシアはレイリアとオリアナに疑念を抱く。
「あの神話は一般的では無かったのね。……なら、レイリアとオリアナはどうして知っていたのかしら。知られていないだけで、神話を受け継いできた一族だったの?」
「うん、わたしもそれが気になるんだよね。レイリアとオリアナの一族に話を聞けたら分かるかもだけれど。シア、辛い質問をしてしまうけれど、2人が亡くなったのはどれくらい前なんだい?」
リオはシンシアを心配そうに見つめて、申し訳なさそうに問いかけた。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。……それが、私にも分からないの。すごく長い時間だったことは分かるけれど、何年前かは全く分からなくて。力になれそうにないわ」
シンシアはリオの心配を吹き飛ばすように控えめに微笑んだが、すぐに頬に手を当て申し訳なさそうに目線を俯かせた。
「こんなことを聞いてしまってごめんね、質問に答えてくれてありがとう。いいんだ、シアは長いこと1人だったからどれほど時が経ったか分からなくて当然だよ。でも、やっぱり気になるね。今度調査した方が良さそうだ」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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