第五十三夜:二人を見守る春星
リオをメロ男にしたい。
「そういえば、シアと出会った日もこんなふうに月の光を浴びた花が綺麗だったね」
リオは月から目線を外して、今度は咲き誇る花々を見やる。
「ええ、まだ少ししか経っていないのに懐かしく感じるわね」
満点の星と色とりどり花たち、それらを照らす月。
オリンピュイアの森の屋敷よりも鮮やかで、静と動の対比のようだ。
「いつかやりたいと言ったこと、覚えているかい?」
夜のしじまのなか、リオは花を眺めながらぽつりと言った。
「……覚えているわ。たくさんやりたい事を話したわね」
もちろん覚えている。
まだまだたくさんやってみたいこともあるし、この数日で街に行ったりネモフィラ畑に行ったりして、思いがけない幸せがあった。
「実はここにベッドを出せるんだけど……一緒にどう?」
リオは面白いことを思いついたというような顔で、にこりとしてこちらをみていた。
すぐにピンときた。
「ふふっ、いいわね!」
気分が高揚して、さっきまでのしんみりとした雰囲気がぱっと散って行く。
リオはうんうんと頷くと、指をパチンと鳴らした。
するとどこからか大人が3人分くらい眠れそうな大きさのベッドが現れた。
花の薫りと共にブランケットが風に揺られてベッドの上へと舞い降りる様子は神聖な雰囲気を感じさせる。
「さぁ、どうぞ」
リオはベッドのそばに歩み寄ると、手を差し伸ばして椅子に座るシンシアに合わせて身を屈めた。
「いつみても魔法が綺麗ね」
シンシアはリオの手を取ると、ベッドへと歩いてそっとベッドに身を沈めた。
その隣にはリオが拳二つ分ほど距離を空けて寝転ぶ。
「それはよかった」
ベッドに横になると、シーツのひんやりとした肌触りのせいか少し肌寒く感じる。
ふわりとブランケットが浮き上がり、そっと2人の身体にかけられて、ちょうど良い涼しさになった。
至れり尽くせりなリオの気遣いにくすりと笑みが溢れ、自分でも自覚出来るほど穏やかな声でありがとうと言った。
2人は何を言うわけでもなく、風に揺れる草花のざわざわとした葉擦れの音を聞きながら、星空を眺める。
空の色は濃い青だったり、少し淡い青だったりで同じ空なのに、同じではないように見える。
きらきらと小さな星々が空というキャンバスに散りばめられ、時折存在感を放つ星や、雲状の光のようなものが目につく。
星空というのは、一つの芸術のようだと思う。
ぼーっと見ていると自分でもよくわからない気持ちになる。
「いまはこれくらいだけれど、冬になるともっとたくさんの星が見えるんだ」
隣で星空を見ていたリオが、空に手を伸ばしながらそう言った。
「今のままでも綺麗だけれど、冬の空はもっと綺麗でしょうね。……でも、寒くて一夜過ごせるかは分からないわね」
オリンピュイアの森は月を囲むようにしてしか晴れないけれど、ここは違う。
空一面が晴れている。
私にとっては十分星が見えるけれど、これよりもたくさん星が出るのは興味があるわね。
「ふふふっ、大丈夫だよ。冬でもこの植物園は一定の温度を保っているから、暖かい毛布があれば寒くないよ。……春の星々は冬のようにはっきりと輝くのではなくて、柔らかく潤んで見えるから、春星と呼ばれてるんだ」
小さな子供のような笑い声が静寂に響いた。
「春らしいかもしれないわね。なんだか温もりを感じる見え方だもの」
冬がはっきりで春が潤んで見えるのなら、この空は降り積もった雪を優しい暖かさで溶かす春のようだと思う。
ぼんやりと光る星は人々を優しく見守っている温かい存在みたいだ。
「春は包み込むような優しさを感じるから、ぴったりだよね」
柔らかい声が星空と調和して眠気を誘ってくる。
「ええ、初めての星空がこの季節でよかった」
ブランケットの温もりが心地良い。
もっと星空を見ていたいのに、瞼は少しずつ重くなって行く。
「ふふっ、眠いね」
シンシアのいつもより幼い声に気づいたリオは、穏やかに微笑む。
「リオも眠いの」
「うん、眠いよ」
小さな子供のような聞き方をするシンシアに、リオは優しく同調してみせる。
「そう」
「うん、今日もゆっくりおやすみ」
リオの心地良い声を聞いて、おやすみと答えると意識が遠のいて眠りに落ちた。
リオの方へ頭を寄せて眠りだしたシンシアに、リオはため息をつく。
「ずるいなぁ」
リオも仰向けの体制からシンシアの方へと向き直ると、シンシアの頬にかかる髪をそっと払った。
「……シアが良い夢を見られますように」
ほんの小さな声で囁くように呟くと、そっと顔を寄せてシンシアの頬にキスを落とした。
そうしてリオはシンシアの手を握り、眠りについた。
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