第五十一夜:色褪せることのないあの日々
初々しい2人、良いですよねー。
さくらんぼのように真っ赤になった2人は、暫く目と目を合わせられず、夕食のサンドイッチを無言で食べたのだった。
バレないようにちらりと相手を見つめては、すぐにさっと逸らし、それをお互いに繰り返していた。
その様子をそばで見ていたライとエミリーは、2人に気が付かれないように目配せをしてニヤつくのを必死に抑えていた。
「お二人とも、お食事はお済みですね。この後はどうなさいますか?」
2人が食べ終わった頃を見計らって、それまで見守りに徹していたライが話しかける。
「そうだね。……シア、今日は疲れただろう?今夜はゆっくり部屋で休もう」
「そうね。今日も美味しかったと伝えておいてくれる?リオも今日はありがとう、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
2人はお互いに向き合うも、目は合わせずに淡白に挨拶をした。
シンシアはエミリーを呼ぶと、部屋へと歩き始める。
「シンシア様、真っ赤になってましたね。ふふっ」
エミリーは少し微笑んで揶揄う。
「……あれにはきちんとした理由があるの、揶揄わないで」
シンシアはいつもよりも小さく幼い声で返した。
「そうですか、私たちはいつでもお二人を応援しておりますよ。……恋の相談があったらいつでもどうぞ」
エミリーは小さな子供に言い聞かせをする時のように穏やかな声でそう言った。
「恋……?!そんな、あり得ないわ。リオには良い人が現れると思うの」
シンシアは驚いて目を見開いた。
だって私たちは女性同士だし、リオみたいに綺麗な人だったら、きっと相応しい男性が現れるはずだわ。
それに……
リオは私をおいていくかもしれないのに。
「そうでしょうか?私はお似合いだと思います。でも、シンシア様のお幸せが何よりですから」
エミリーはそう言うと、部屋の扉を開いた。
「……ありがとう、エミリー」
シンシアはエミリーの言葉に泣きそうになる。
レイリアやオリアナのように、シンシアの幸せを願ってくれていると分かったからだ。
疎外感を抱いていたけれど、こんなに早く受け入れてくれるなんて。
エミリーの言葉を噛み締めると、とびきり穏やかな笑みで、感謝の気持ちが伝わるように礼を言った。
「ふふっ、お休みなさいませ。シンシア様」
エミリーはベッドに横になったシンシアに優しく布団をかけると、優しく微笑んで部屋を後にした。
エミリーの言葉を聞いて2人のことを思い出す。
レイリアとオリアナも幸せを願ってくれた。
2人にもエミリーのことを伝えるべきかしら。
明るいところから落ち着いたところへ行くと、胸にしんみりとした気持ちが広がる。
2人とも、もっと一緒の日々を過ごしたかった。
こうして他の人と触れ合うようになって、2人の有り難みがよく分かる。
幼くて何も分からない私のそばにいて、色々なことを教えてくれた。
「お嬢様、私の大切なお嬢様。レイリアは貴方の未来に幸せが溢れていることを願っています。お嬢様が泣いてしまっても、それ以上の幸せが訪れますように。お嬢様が苦しんだ日々が、いつか懐かしく思えるように」
「いつか私以外の方と笑い合うなんて、悲しいです。お嬢様のことは、オリアナが幸せにして差し上げたかったのに……。お嬢様、私がいなくても幸せになってくださいね」
いつかレイリアとオリアナが眠る前に言ってくれた言葉を思い出す。
2人とも、本当に大切にしてくれた。
私は2人に幸せを返せてたのだろうか。
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる。
そういえば、リオと出会ったのは夜のことだった。
泣いていた私に声をかけて、こんなに幸せをくれた。
眉を下げて、温かい瞳で見つめては優しく微笑んでくれる。
頬に手を添えて、髪を崩さないようにそっと髪を撫でてくれる。
いつも、好きの気持ちを伝えてくれる。
リオは大切にしてくれる。
エミリーもリオも、ソレイユ邸の人達は皆優しい。
リオは私といて幸せなの?
きちんとこの幸せを返せているの?
窓から見える月を眺めながら、リオのことを考える。
——刹那。
見ていたはずの景色が変わる。
部屋の大きな窓のカーテンの隙間から見える月は遮るものは何もない輝く月へ。
かけられていた布団は涼しい風に。
足元の滑らかな肌触りは、くすぐったく感じる。
私、さっきまで部屋にいたはずよね?
辺りを見渡すと一面には花々が咲き乱れて、少し遠くには花々を覆う透明なガラスと、ガラスから見える星空に大きな月が見える。
ここは、植物園?
困惑して動くことができないシンシアに、声が掛かった。
「……シア?どうしてここに?」
後ろを振り返ると、リオが驚いた顔で立っていた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




