第三十六夜:ココとシンディ
まーま!って言う小さい子って良いですよね、かわいい。
女の子に手を引っ張られながら、5分ほど歩く。
「お姉さんお姉さん!お名前は?クロエはクロエって言うの!まーまはいつもココちゃんって呼ぶよ!お姉さんもココって呼んでね!!!」
女の子、もといクロエは歩いている間も話は止まらない。
初めて出会ったシンシアに興味津々のようだ。
小さい子ってこんなに表情豊かなのね。
「クロエ、良い響きね。クロエと呼ばせてもらうわ。私はシンシアよ、好きに呼びなさい。」
クロエの言う「ココ」は愛称だろう。
本では仲良い人との間で使うと書かれていた。
出会ったばかりの子を愛称で呼ぶのは気が引けて、迷った末にそのままクロエと呼ぶことにした。
「もー!ココだよ!シンディ!」
クロエは頬を膨らませて可愛らしくこちらを睨みつけてくる。
本人は睨んでるのだろうが全く怖くない。
迷った挙句名前で呼んだシンシアとは違い、クロエは躊躇なく彼女を愛称で呼んだ。
「シンディ?」
「うん!シンシアの愛称はシンディでしょ?まーまが仲良くなりたい人は愛称で呼ぶと良いよって言ってたもん!ココ知ってる!」
子供らしく大きな瞳をキラキラと輝かせてこちらを振り向くクロエは、得意げにドヤ顔をしていた。
クロエの話は5秒に一回くらいのペースで「まーま」のことが出てくる。
彼女が母親のことを大好きなことがよく伝わってくる。
好きに呼んで、と言ってしまった手前、愛称を拒むことができないシンシアは、クロエの活発さに圧倒され、ぎこちなく受け入れた。
「ねえねえ!シンディはどこから来たの?クロエ、シンディみたいにきれーな人、見たことないよ!もしかして、本当にお姫様なの?あ、女神様でも良いよ!」
次から次に質問をされる。
小さい子というのは好奇心旺盛だというのは本当のようだ。
けれど、悪くはない。
彼女の隙を与えないお話しのおかげで、リオのことを考えなくて済むのだから。
「ソレイユ邸というところからきたのよ。あら、私よりも綺麗な人は良くいるわよ。貴方がもっと大きくなったら、きっと分かるわ。それから、お姫様でも女神様でも無いわね」
クロエの質問に対して、漏らすことなく答えて行く。
「それいゆてい?ふーん、やっぱお城から来たんだ!じゃあさじゃあさ、王子様は?王子様はどんな人なの?」
王子様……物語における運命の相手だろうか。
残念ながらシンシアは物語に出てくる姫でも女神でも何でも無い。
もしかしてお城には必ず王子様が居ると思っているのだろうか。
……クロエのような幼い子ならあり得るかもしれない。
王子様はいなかったけれど、リオならいたわよね。
「あのお城に王子様は居なかったわ」
「いるもん!お姫様には王子様がいるってまーまとぱーぱが言ってたもん。あー!そっか、シンディはまだ王子様に出会ってないんだ!んふふ、いつか会えるよ」
信じないどころか、1人で納得して今度は落ち着いた様子でそう言ってくる。
「はぁ……王子様は居なかったけれど、リオという美しい人なら居たわよ。貴方よりは落ち着いているけれど、それでも十分口まめな人がね」
リオの方が落ち着いているといえど、ぺらぺらと楽しそうにお話をする姿はクロエもだ。
彼女といればリオのことを考えなくて済むと思っていたが、どこかの誰かさんに似ているせいか逆に意識してしまいそうになる。
「やっぱいるじゃん!もう、シンディってばからかったのね!……あ!ここがココのお家だよ!まーまー!お姫様連れてきた!」
「だから王子様じゃないわ……あ、行っちゃった。……はぁ」
本当に小さい子供というのはこんなに好奇心旺盛なの?
クロエが例外なだけじゃなくて?
クロエは目の前に建つ木とレンガで出来た少し小さめの屋敷に入って行ってしまった。
まーまに会わせたいと言っていたクロエは家の中に入って行ってしまって、手持ち無沙汰のシンシアはため息をついてしまう。
他人の自宅——リオの屋敷、ソレイユ邸での違和感を思い出す。
あの気持ちをどうにかしたくて外に出たと言うのに、また他の人の家に来てしまうなんて。
「困ったものね」
「まーま!ほら、女神様でお姫様でしょ!ココ、まーまに見せたくて一緒に来てもらったの!」
「ココちゃん、貴方勝手に連れてきてしまったの?駄目でしょう、そんな事をしたら。……あらあら、本当ね。女神様みたいだわ、ココちゃん、おもてなしをしなくちゃよ!」
扉の向こうからクロエの声が聞こえてきて、クロエと彼女の母親が姿を現した。
おっとりとしたクロエの母は、最初はクロエの行動に驚いて彼女を咎めていたようだが、シンシアの姿を見るなり、瞳を輝かせクロエにもてなすように声をかけ始めた。
クロエもそうだが、彼女の母も決断力と行動力があるらしい。
もしかしたらクロエの性格は母親譲りなのでは無いだろうか。
「ごめんなさいね、シンディちゃん。ココちゃんが勝手に連れてきてしまって疲れたでしょう?お家で休んで行ってちょうだい。あ!もちろんずっといてくれても良いのよ?うふふ」
にこにこと近づいてきた彼女は申し訳なさそうにしつつも、瞳はキラキラと輝いていた。
シンシアは絶対にクロエの性格は母親譲りだと確信した。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現の間違いがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




