第三十四夜:物語の承
王子様とお姫様だったらどうなっていたのでしょうね。物語だったら不遇なお姫様に手を差し伸べる王子様はお姫様からも輝いて見えるのでしょうけど、実際はそうでしょうか。
みんながみんな、希望の光だと思うでしょうか。
リオは瞬きをして、きょとんという擬音がつきそうな反応をした。
一瞬間を置いてから、吹き出すようにお腹を抱えて笑った。
「あはははっ!ふふふっ、君にそれを言われるなんて予想外だよ。誰にでも言ってるわけじゃないから良いの」
笑いすぎて溢れた涙を人差し指で拭って、内緒話をするみたいに囁いた。
「はぁ、またそういうことを言う……」
彼女はいつもそう、「貴方だけが特別」と思われるような事を口にする。
考えてみれば、初めて会った時からこんな調子だったわね。
人によっては勘違いされてもおかしくないと思うけど、もしかしてこれが普通なの?
「その顔、信じてないね?本当なのに」
シンシアの呆れたようなため息に、リオは「心外です」とでもいうように眉を顰めて拗ねて見せた。
「そうかもしれないわね」
ここで「信じてるわ」と言ったとして、「嘘つき」とまた不満気にするだろうし、正直に伝えてもまた不満気にするだろう。
どちらにせよ良い反応にはならないと考えたシンシアは、誤魔化すことにした。
リオは、シンシアの反応に対してまだ拗ねていたが、何も言わなかった。
色とりどりの花が咲く庭を眺めつつ、優雅に食べ進める2人。
そういえば、私はいつ帰れば良いのかしら。
昨日は何となくでリオの屋敷にお邪魔してしまったけれど、流石に長くはお邪魔できないもの。
ライとリオのやり取りを見ていると、レイリアとオリアナのことを思い出す。
彼女達も、リオに接するライのように、親しみを含んだ言葉を沢山かけてくれた。
けれど、自分が今いる屋敷がリオの屋敷であることに違和感を覚えてしまう。
どこを見ても見慣れない景観、気の抜けた会話をするリオとライ。
そして、ライの指示に従うメイド達。
どれも1人でいたあの頃より刺激的だけれど、同時に私の居場所は何処にもないように思ってしまう。
誰かの屋敷に招かれるのが初めてだからだろうか。
もしかしたらこの違和感は普通のことなのかもしれない。
それでも、胸がちくちくしてどうしようもない喪失感に襲われてしまうのだ。
帰ったら、2人と見たチェリーブロッサムの咲く庭を散歩しようかしら。
そうすれば、この気持ちも安らぐ気がする。
「リオ、時間があったら私の屋敷まで送って貰えると助かるわ。……自分で帰れたら良かったのだけれど、外に出るのは初めてで土地勘も何もなくて」
移動魔法を教えて貰った方が良いかしら。
送って貰うか、魔法を教えて貰うか、どちらが良いのか考えながら話す。
「それなんだけど、もう少しだけソレイユ邸で寛いでいかないかい?」
カトラリーを置き食事を進める手を止めて、リオはシンシアの瞳を見つめ、真剣にそう言い放った。
「ソレイユ邸?」
「説明がまだだったね。ここはわたしの屋敷で、名をソレイユ邸と言うんだ。わたしとしてはシアにもっと世界を知ってほしいと思ってる。だから、シアの屋敷よりも人が多くて私が居るソレイユ邸の方が助けになると思って」
なに、それ
「貴方の言い分は分かったわ。折角だけれど、結構よ。あの屋敷には2人との大切な思い出があるの。助けなんて求めていないわ、ただ私はあの2人がいない毎日が苦しかっただけ。……もう良いわ、折角の食事を食べ切らずに申し訳ないけれど失礼するわ。……好みの味だったと伝えておいてくれると嬉しいわ」
「!シア、ごめん。待って!……もう少しだけ話を聞いてほしい」
さっきまでの心地良かった気持ちが嘘のように冷めて行く。
2人を探しまわるいつものあの夢を見た後のようだ。
自分でも表情が抜けて行くのがわかる。
そんな風に思っていたのね。
カトラリーを置き、湧き出るもやもやとした気持ちのまま、サンルームを後にする。
いつもより素早い歩みで、けれど上品に、冷たい美しさのまま知らない屋敷の中を進んで行く。
瞳が熱く感じて、喉の奥がツンとした。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現の間違いがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




