第三十三夜:王子様とお姫様
屋敷の少し離れたところに、ポツリとそびえ立つガラス張りの建物が建っている。
周りには、春の花であるヒヤシンスやクロッカス、アネモネなどが咲き乱れ、建物から庭を一望することができる。
5、6人がティータイムを過ごすための部屋のような大きさのサンルームには、2人用のティーテーブルが用意されていた。
そして、ひと足先に到着したリオがシンシアを出迎える。
襟や胸元、袖口にフリルや刺繍、袖口のパフスリーブでふわふわとしたアイボリーのブラウスに、タイトなウエストラインの黒いパンツを身に纏ったリオ。
上半身のふんわりとした印象とは裏腹に、下半身のタイトなシルエットが、彼女のスタイルの良さを際立たせている。
ゆったりとした金髪を編み込んでいるのと合わせて見ると、どこかの貴公子だと言われても納得してしまいそうな中性的な雰囲気である。
「リオ様、シンシア様をお連れいたしました。……ごゆるりとお過ごしください」
風に吹かれ幻想的な雰囲気を醸し出す花々を見つめていたリオは、シンシアに目線を移す。
流し目さえも物語のワンシーンのようである。
「ああ、ありがとう。……いつも綺麗だけれど、今のシアは夜の女神のように綺麗だ。」
シンシアの姿を見たリオは、目が離せないとでも言うように彼女の姿を見つめ、思わず口からありきたりな賛辞を漏らした。
「メイド達が頑張ってくれたの、ふふふっ……惚れてしまいそう?」
メイドやライが口を揃えて美しいと言ってくれたり、鏡で確認した時も素晴らしい出来だった。
きっと誰が見ても美しいと言ってくれるだろう。
ライの「惚れてしまうでしょう」と言う言葉を思い出して、冗談を言ってみる。
シンシアだって、美しいものは好きなのだ。
こんなにも美しく着飾ってもらったのだから、思わず柄にもなくおどけてしまう。
「うん。思わず魅入ってしまったよ、本当に綺麗だ。あまりの美しさに神様だって見惚れてしまうだろうね」
芸術品を褒めそやすように、さっと言葉を紡ぐリオに、少し笑ってしまう。
恋に落ちたような反応はしなかったわね、精々美しい彫刻を見た時のような驚きかしら。
「ありがとう、彼女達もきっと喜ぶわね。リオも素敵よ、物語の王子様のようだわ」
控えめな笑みでリオに言葉を伝える。
「ありがとう、わたしが王子様ならシアはお姫様だね。ふふふっ」
さっと、リオに手を取られてティーテーブルまでエスコートされる。
「エスコートありがとう、王子様……ふふふっ」
2人は顔を見合わせて微笑んだ。
ひやりとした手の平に、リオの優しい温もりが伝わってくる。
「本日の朝食は、ブリュッセルワッフルで御座います。クリーム、フルーツが盛り付けてありますが、チョコレートも追加できます。好みに合わせてお楽しみください」
席に着くと、ライの言葉に続いてメイド達が給仕してくれる。
無駄なく運び、テーブルにお皿を乗せる時も音を立てることなく、丁寧に配膳してくれた。
真っ白なプレートの上に、格子状の凹凸をした蜂蜜色の長方形が盛り付けられ、その上には甘そうなクリームに苺がトッピングされている。
スコーンやパンと比べて、サクサクしていて軽そうな見た目をしている。
「今日の朝食も美味しそうだね、ありがとう。……さ、食べようか」
「美味しそうね、ワッフルはどんな味かしら」
リオにならって、まずはチョコレートを付けずに、クリームと苺の乗ったワッフルに凹凸に沿ってナイフを入れる。
表面がカリカリとしていてナイフが通りやすい。
どんな味かしら、楽しみね。
ぱくりと口に含む。
クリームの濃厚だけれどさっぱりした甘さが口に広がる。
ワッフルを噛むと口の中でサクサクと音を立てて、あまり甘くはないサクサクとした食感と、クリームの甘みが混ざって良い調和になっている。
そこに苺の刺激が加わって、甘いけれどくどくないさっぱりとした味わいが広がる。
スコーンも良かったけれど、さっぱりしているこちらの方が私の好みに合うわね。
朝から食べるのにクリームは重いかと思ったが、ワッフルが甘くない分そこまで気にならない。
「ふふふっ、美味しいね。……シアはこっちの方が好きそうだね。」
少し早めに一口目を味わって終わったリオが、こちらを見つめながらにっこりと微笑んでいた。
「ええ、良い味だわ。……どうして分かったの?」
そんなに分かりやすい表情はしていないはずだけれど。
「口に入れて味わった瞬間に、瞳が前よりもキラキラと輝いて見えたから。なんとなくだけど」
「……そんなに分かりやすかったかしら。スコーンも好きだけれど、ワッフルはその上だったの」
その瞬間、リオは微笑んでいた口角をさらに上げて、問題に正解した子供のように笑った。
「あははっ!当たってたようだね、シアのこと見つめ続けてた甲斐があったよ。ふふふっ、そうだね。わたしもワッフルの方が好みかな、さっぱりしているところが良いよね」
シンシアが言い訳をする幼子のように見えたのか、リオは子供を宥めるような声で同調した。
まだ1週間ほどしか経っていないと言うのに、それは見つめ続けたと言うのかしら。
「リオはすぐ大袈裟に言うわね。私たち意外と好みが似ていたりして。ふふっ」
「1週間しか経っていなくても、シアに夢中だから気づけば目で追ってるんだ。ふふふっ、だからシアのこと少しは分かったと思うよ。じゃあこれからもわたしのおすすめを食べてくれるかい?」
真っ直ぐとシンシアの瞳を見つめながら、優しい笑みを浮かべて甘い言葉を言う。
彼女は自身の美しさを分かっているのかしら。
何の意図もない言葉でも、リオのように美しい人が言うと口説かれてるように錯覚してしまう。
きらきらと輝き緩く編み込んだ金髪に、鮮やかな瞳、それに加えて美形。
そんな人が花が咲き乱れる見事な景観の中で、とろけるように、あなたしか見ていないとでも言うようにあどけなく微笑む姿は、この世のものとは思えないほどに美しい。
「貴方は自身の容姿についてもっと知るべきだと思うわ。なんだか口説かれているのかと思ってしまったもの。……おすすめは気になるから、一緒に食べてもいいけれど」
慣れない鼓動に天邪鬼な反応をしてしまう。
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