第三十夜:挨拶のキスと清高
リオの侍従ライがきちんと紹介されます^_^
白を基調とした生地に、グレーの色をあしらったダマスク柄のジャガード織のカーテン。
両開きのカーテンの間から、朝を知らせる日差しが差し込んでいる。
眩しいほど輝くそれは、心地良く眠りについていたシンシアの頬を照らし、彼女の意識を浮かび上がらせた。
眩しい……。
もう少しだけこの温もりに浸っていたいと思い、その温もりに顔を寄せつつ、ゆっくりと瞳を開ける。
さらさらと艶のある白い首元のはだけたシャツと、日焼けをしらない滑らかな肌。
普段と全く違う目覚めの景色に、冷たい水でもかけられたかのように一気に意識がはっきりとする。
そうだ、リオとお昼寝をしていたのよね。
リオが目覚めているか確認するために、そっと顔を上げてみる。
「ふふふっ、おはよう。朝からシアの可愛い寝顔を見ることができるなんて、素敵な朝だね」
寝起きだと言うのに、輝かんばかりに美しい顔がこちらを見つめて甘く微笑んでいた。
「おはよう、いつから起きていたの」
余裕そうに微笑むリオから目を逸らしながら問う。
「シアが目を覚ます少し前かな。ふふっ、ぎゅっと抱きついてくるのが可愛くて、ベッドから出られなかったんだ」
にこにこと新緑のように鮮やかな瞳を細めては、ちゅっと額にキスを落として、もう一度力を込めて抱きしめてくる。
昨日から当たり前のようにキスを落としてくるけれど、挨拶なのかしら。
初めて見た時、あまりの美しさに呼吸を忘れてしまうほどの美貌を朝から思いがけず見ているのだから、ぽーっと惚けてしまう。
「相変わらず綺麗ね。いつ見ても惚れ惚れしてしまうもの」
「あははっ!それはよかった、シアの瞳にずーっと映ることができそうだ。わたしはシアの美しさに惚れ惚れしてしまうから、お揃いだね。ふふふっ」
初めて会った時のことを思い出したのか、リオは思いっきり頬を上げて笑った。
「それなら良かったわ、美しいと思ってもらえて」
お返しをするように、リオの額にキスをすると、呆気に取られたように鮮やかな瞳を見開き、ぴしっと止まってしまった。
「…….リオ?どうかしたの?」
突然固まってしまったリオに、何か変なことでもしてしまったかと疑問を抱きつつ、シンシアよりもしっかりとした肩を優しく叩く。
「いや、何でもないよ。それより、朝の支度をしよう。……ライ」
リオが名前のようなものを呟いた途端、扉の外から中性的な低めの声が聞こえる。
「失礼致します。……お呼びでしょうか、リオ様」
一声かけたのち、金色のアラベスク模様が施された重厚な両開きの扉から、壮年の男性が姿を現した。
ロマンスグレーの綺麗にセットされた髪に、細長いスクエアシェイプ型の知的な眼鏡。
そして、背筋をピンと伸ばし、シワひとつない燕尾服に身を包んでいる。
「おやおや、随分とお楽しみだったようで。……ようやっと春が訪れたのですね、感涙してしまいそうです」
彼はさっと寝台の元まで来ると、リオの姿を確認したのち、シンシアを一瞥してからハンカチを目元に当てて、にこにこと微笑んだ。
「君の老眼には困ったものだよ、全く。彼女は照らすべき者だ。……はぁ」
慣れた様子で言葉を交わすところを見るに、気心の知れた仲ようだ。
そんな2人の様子に、どう反応したら良いのかわからないシンシアは困惑した瞳で見ていることしかできない。
「美しいお嬢様、お初にお目にかかります。……貴方様を抱きしめていらっしゃるリオ様の侍従を勤めているライ・フラムと申します。……失礼ながら、お嬢様のお名前をお聞かせもらえますか」
右手を胸に添えて左手を水平方向に差し出し、すっと頭を下げてお辞儀をしてから、完璧な笑みを浮かべたライは、シンシアに名前を聞いた。
きっちりとした所作は、いつかのレイリアやオリアナを思わせる。
「ご挨拶をありがとう、シンシア・アルテミネよ。リオにはいつもお世話になっているわ。よろしく頼むわね」
シンシアはいつかオリアナに教えられた通りに、歴然と答えた。
「自己紹介も済んだようだね。ライ、シアの朝の支度の手配を頼むよ。……シア、朝の支度をしておいで。ライに着いていけば大丈夫、また後でね」
颯爽と指示を出してから、シンシアに顔を近づけたかと思うと、額にキスをしてそう言い放った。
「ありがとう、また後でね。リオ」
シンシアも同じようにちゅっと額にキスを落としてから、ライの方へと向き直る。
それを見ていたライは、相変わらずにこにこと完璧な笑みを浮かべていた。
「さぁ、ついてきてくださいシンシア様。」
シンシアの小さな歩幅に合わせて、少しゆっくり歩みを進めるライに着いていった。
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