第三夜:呼吸を忘れてしまうほど、美しい人
やっと出会えました……!
広くて薄暗い屋敷の中に、シンシアだけが存在している。
いつの間にか靴を履いて、身だしなみを整えた状態で談話室にいる。
——まただ。今日も。見つけないと。
「レイリア!オリアナ!私よ!シンシアよ……!」
傍にいるって言ったんだもの。きっと見つけてみせるわ。
普段は物音ひとつしないはずの屋敷から、彼女たちの声が聞こえてくる。
「お嬢様、ここです。私はここに……!」
談話室から足を踏み出すと、辺りは暗くて窓から差し込む月の光だけが、シンシアに現在地を教えてくれる。
たった一歩、踏み出しただけで震えてしまいそうな寒さだ。
「レイリア、オリアナ!まってて!すぐに行くから……!」
そうやって月の光を頼りに走る。走る、走る、走る。
けれどもどれだけ走っても、2人の姿は見えない。
「お嬢様……!わたしは……ここに……!……っ……」
指先が思うように動かなくなるくらい冷たくて、呼吸も苦しい。いくら走っただろう。こうしてまた、呼吸ができなくなって、意識がなくなりそうになって……。
「オリ、アナ……?……まって……!」
何もかもが苦しくて、涙が頬を伝いそうで、もう意識を手放してしまいそうになった時、彼女たちは現れる。
彼女に背を向けて。
「お嬢様……愛してます。いつまでも、お傍におりますよ。」
なんて言い残してふっと消えてしまう。
「……っ……!!!……はぁ、はぁっ……!いやよ……。こんなの……!……っ……。」
1人だけの大きな屋敷で、シンシアは涙を流しながら跳び起きる。
彼女たちがシンシアの前から姿を消してから少しして、嫌な夢を見るようになった。
来る日も来る日も同じ夢。どれだけ頑張っても、行き場所を変えても、変わらない。
愛していると言ってくれた2人が、姿を消した2人がやっと会いに来てくれたのに……。また、見つけ出せなかった。何もできなかった。
行ってしまった……!
シンシアには2人がいなくなってしまう夢は涙が出てしまうほど、眠るのが怖くなってしまうほどに耐え難いものであった。
眠るのが怖くて、2人とよく訪れていた庭を歩く。
月の光が白銀の水々しい花を美しく、けれども静かに照らす庭で、シンシアは独り腰を下ろした。
「オリアナ……。また今日も、見つけられなかった。……いつまで続くのかしら。」
「ずっと、ずぅっと……。」
夢に現れた彼女たちのことを思い出して、再び冷たい涙が頬を濡らす。
今よりも出来ることが少なくても、2人はシンシアに優しくて、いつも愛おしそうに目を細めては笑いかけて。
2人と過ごした日々が鮮明に蘇ってしまう。
「オリアナぁ……っ、レイリア……!……あいたい……っ……!」
「わたしは、ずっとひとりなの……?」
「どうして、わたしは……!……っ……。」
頬を濡らす涙は大粒に、目の前も霞んでいてよく見えない。グズグズと呼吸も不安定になってしまった。
そんな時だ。
「ねえ、君。どうして泣いているんだい?」
月の光を浴びて淡く輝く金髪に、まるで新緑のように鮮やかな瞳。
心配そうに穏やかな笑みを浮かべて、手を差し伸べる人と目が合う。
——瞬間。頬を伝う涙が止まり、呼吸も止まった。
それは、呼吸を忘れてしまうほど、美しい人だった。
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