第二十一夜:薄紅色の可憐な絨毯
珍しく書くのに時間がかかりました。
今日も今日とて日課の散歩を終わらせる。
満開だったチェリーブロッサムは段々と散っていき、裏庭には薄紅色の豪華な可憐な絨毯が出来ている。
春は、遠い東の国では「出会い」と「別れ」の季節と呼ばれているらしい。
それを表現するかのように、小さな蕾だったものが満開に花を咲かせた「出会い」のようなチェリーブロッサムも、今では段々と花を落とし、今度は幻想的な絨毯となって、「別れ」のようだ。
チェリーブロッサムは開花から2週間ほどで散り終わる。
開花から8割ほど花開く満開になるまで7日程度、満開の状態が3日から5日ほど続き、満開から約1週間後に花吹雪となり散り終わってしまう。
けれど、この花は散ると同時に、若葉が芽吹く花でもある。
そうして一年後、また美しく一斉に咲き誇る。
屋敷の本に書かれていた東の国の言葉を思い出す。
「この美しさは永遠ではない、むしろ短いものだ。」
「けれどもその一瞬の輝きこそが、この花の美しさをより引き立てているように思う。」
2人はよく、遠い東の国のことを話してくれた。
この花を見ては、東の国の文化を得意げに話してくるものだから、かなり詳しくなってしまった。
いつか終わりが訪れるからこそ、綺麗だと思うことができるのだと言う。
あの頃は東の国の考えをよく理解できなかったし、今も理解できているとは言い難い。
わたしなら、美しいものはずっと眺めていたいと考えるわね。
東の国の価値観とは、不思議なものだ。
いつか、全てを理解できる日は来るのだろうか。
すっかり景色を変えた裏庭で、穏やかな花風を浴びながら紅茶を嗜む。
「こんにちは、シア。会いにきたよ……ふふっ」
爽やかな香りが彼女の訪れを知らせる。
「……リオ、昨日ぶり。」
ふわ、と彼女の香りが一層強くなる。
「うん、会いたかった。……絨毯みたいで、散っても尚、綺麗だ。」
彼女は昨日と打って変わって、多くの花弁が散ってしまった木の姿を見て目を見張った。
「この花は、開花してから2週間で散ってしまうの。……満開になってからは5日程度しか持たないのよ。……貴方、ちょうど見頃の時にあの景色を見れて良かったわね。」
「そうなのかい?ふふっ……じゃあ、シアとその光景を見ることができたわたしは恵まれてるね。……シアはこの花に詳しいんだね。」
リオは数秒、じっとチェリーブロッサムの庭を目に焼き付けるように見つめた。
「……そうでもないわ。2人がよく話していたから覚えてしまったの。……東の国では、一瞬で過ぎ去ってしまうものこそ美しいと考えるそうよ。」
「ふふっ、なるほど。……きっと、2人は嬉しがってると思うよ。……確かに、少し分かる気がするな。」
「そうだと良いわね。……どうして?」
私にはあまり理解できない事でも、彼女は分かるらしい。
「多分だけれど、あっという間に消えてしまうからこそ、その景色が深く心に刻まれて、より美しいものに思えるのだと思う。」
「深く心に刻まれる……。」
「そう、本当に一瞬。一瞬のことだから再現が出来なくて、再現が難しいものだからこそ貴重になる。その瞬間が貴重なものだから、より美しく感じるのではないかな、ってわたしは思うよ。」
何かを思い出すように話す彼女は、まるで慈しむように優しい声をしていた。
一瞬で再現が難しいと分かっているから、貴重で、だからこそ美しい——。
「……確かに、少し分かる気がしてきたわ。でも、私にはまだ難しいかも。」
「あははっ、そうかも。ふふっ、大丈夫。……これから先、2人でその瞬間を探そう。きっとすごく美しいと思えるよ。」
理屈は分かった気がするけれど、あまりピンと来なくて、素直に答える。
彼女はいつもみたいに顔を綻ばせて、私に嬉しい気持ちをくれた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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