第十八夜:何も知らないから、あんなことを言えるんだ
前半はリオの側仕え視点、後半はリオです。
甘すぎるくらい甘いです。
「お帰りなさいませ、リオ様。本日はお早いご帰宅ですね。……おや、如何なさったので?」
陽が傾きはじめた昼下がり、ライ・フラムの主人である麗人、リオ・ベネット・ガルシアがソレイユ邸に姿を現した。
近頃は人が寝静まった頃に出掛けたかと思えば、今日は昼前に何処かへ姿を消してしまった。
主人のことだから、夕方くらいの帰宅だと思っていた。
3時間程度しか経っていないのに、リオはぽーっと心ここに在らずな様子で、ライの前に姿を現した。
「……うん、今戻ったよ。しばらく部屋に籠るから、そのつもりでよろしく。……はぁ。」
ここ最近はえらくご機嫌だと思っていたが、ここまでとは。
全く、今度はどこで油を売っているのやら。
リオの側仕え、ライはそう考えながら、まるで抜け殻のような様子で部屋に向かう主人を静かに見送った。
「……はぁ。……好きな人って、言っていたよね。……いきなりそんなことを言うなんて、心臓に悪すぎる。……かわいいなぁ、本当に。」
気づいたら自室のベッドに横たわっていた。
「きっと、貴方と食べているからね。……ふふっ、レイリアが言っていたの。好きな人と一緒にいると、楽しくて嬉しい気持ちになって、その気持ちは食事をさらに美味しくさせるって。……こう言うことだったのね。」
自室に戻ってくるまでの記憶は無くても、彼女の言葉はきちんと覚えている。
それどころか、一言一句忘れずに記憶していて、瞳を閉じればその時の彼女の表情だって鮮明に思い浮かぶ。
少しだけ口角が上がり、柔らかい表情をして、とても自然な表情でリオを見つめて言ったのだ。忘れられるわけがない。
いじらしいな、さらっと好きな人って言っていたことに、シアは気づいていたのかな。
というか、楽しくて嬉しいって、思ってくれていたんだ。
どきどき、思い出しただけで胸が高鳴って行く。
きっと、人に見せられないようなだらしない顔をしている。
何も知らないから、あんなことを言えるんだ。
シアはただでさえ愛らしいのに。
あんなに可愛い表情をして、"好き"なんて言葉を口にするのは危険すぎる。
先に彼女の笑みを知ることができてよかった。
そうでなかったら、みっともなく頬を染め上げ、釘付けになってしまっていただろうから。
うれしい。
わたしが現れたことで、シアの涙を照らすことが出来ているのなら、それ以上に嬉しいことなどない。
シアの月に照らされた花のような美しさに衝撃を受けていたが、彼女の涙が少しでも収まっているのなら、本当に良かったと思う。
初めてだ、こんなに心を乱されるような子は。
人間とは可愛らしい生き物だ。
蝋燭のように短い生の中で、たくさん泣き、たくさん笑い、悩んで、成長して、命を紡いで、そうしてわたしをおいて旅立っていく。
リオは短い一生を一生懸命に生きる人間を大切に思っている。
これまで照らしてきた人間全員を大切にしてきた。
自分でも大切にした、と胸を張って言えるほどに。
それでも、こんなに心を揺さぶられる存在は初めてだった。
彼女はこれまでの長い時の中でも、類を見ないほどの美貌を持ち、ひどく無知な少女ではあるが。
それでも、何らこれまでの人間と変わりないはずなのに。
シアは本当に面白い子だ、わたしをこんな気持ちにしてしまうなんて。
初めてだよ、こんなに愛おしく思うのは。
息が詰まって、自分でもわかるくらい必死に言葉を返して。
そのあとは衝撃が抜けきらず、きちんと会話はしていたが、ふわふわとして実感がないというか、夢の中にいるような気持ちで話をしていた。
かわいいかわいいシア。これからもずっと、きみの命が果てるまで、君を照らすよ。
本当に、かわいい。
ありきたりな言葉しか浮かばないほど、シンシアの言葉はリオの心に深く深く刺さったのである。
そうして、リオの宝物がまた一つ増えた。
リオはその日一日、シンシアのことしか考えることが出来なかった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現の間違いなどがありましたら、そっと教えてもらえると幸いです。




