第十七夜:きっと、貴方と食べているからね
イイ感じになります。
出てくるものも、雰囲気も全て甘いです。
そう言えば名前を雪から雪月に変えました。
「チェリーブロッサムの淡い紅色と、苺ジャムで色味が合っていて、今日の昼食にぴったりだったね。」
時々花びらが散って行く様子を見ながら、2人はスコーンを食べていた。
「……そうね、春らしい食事になったわ。……質問してもいいかしら。」
右手でティーカップのハンドルを親指、人差し指、中指の三本指でつまむように持ち、薬指と小指を軽く添えて優雅に紅茶を味わったシンシアが尋ねる。
「ふふっ、うん。もちろん……なんでも聞いて。」
「どうして手で割るのかしら。……貴方ならば魔法であらかじめ2つに割ることだって出来たでしょう?……なにか理由があるの?」
彼女は魔法でガーデンテーブルに食事や紅茶を用意していた。
……ならば、あらかじめ2つに切り分けて出すこともできたはず。
彼女はパチパチ、と数度瞬きをして、シンシアから見て左上に目線を向けて言葉を紡いだ。
「確か……スコーンという名前は宮殿と、その宮殿にあった歴代の王が、戴冠式で腰掛ける神聖な石が基になっているんだ。……スコーンの発祥の地では、ナイフでスコーンを切る行為が"王座を引き裂く"と見なされるから……かな。」
「正直、みんなが手で割っているから、そういう物だと思っているところが大きいかな。初めて食べたときも、手で割ったから。」
彼女は何かを懐かしむように、寂しそうな笑みを浮かべて語った。
「そんな理由があったのね。それなら手で割るのも納得できるわ。……リオは物知りなのね。」
シンシアは彼女が一瞬だけ見せた表情に、普段と様子が違う事に違和感を抱いたが、聞くことはしなかった。
「ありがとう。あははっ、それにしてもシアは良い質問をするね。……シアが優秀な生徒で、リオ先生は嬉しいよ!ふふっ、あははっ!」
「いつから生徒になったのよ、もう。」
茶化すような大袈裟な褒め言葉に、何処かくすぐったさを覚えて、顔を背けてしまう。
スコーンをゆっくりと楽しんだが、何か物足りない感じがする。
「はぁ。シアと食べる食事は美味しくて、いくらでも食べられるように感じる。……もう少し用意してくれば良かったな……。」
彼女も物足りないと感じていたようだ。
……森の動物たちが届けてくれた林檎がまだ残っていたはず。
林檎はさっぱりとしているから、スコーンとの相性も申し分ないわね。
「美味しい林檎があるわ。……さぁ、召し上がれ。」
今朝と同じように、林檎を一口大に魔法で切り分けたものを机の上に呼び出す。
「……!」
机の上に、水分を多く含んでいると一目で分かるような、水々しい林檎が現れる。
コツン、と3本歯の銀のフルーツフォークが2人の手の中に姿を見せた。
「わぁ、ありがとう。シアの言う通り、美味しそうな林檎だね。」
リオがしてくれたように、今度はわたしから食べて見せる。
フルーツフォークで刺したところから、透明な汁がじゅわっと溢れ出て、一気に存在感を放つ。
小さめに一口咥えて噛み切る。
さっきまで紅茶を飲んでいたからか、朝よりも冷たく感じる。
口の中に溢れ出した林檎の果汁と、シャキシャキとした硬めの食感を、ゆっくりと味わってから飲み込む。
「ほら、貴方も食べなさい。」
「わぁ!ありがとう、いただきます。」
キラキラと瞳を輝かせ、食べるのを今かいまかと待っていたかのようなリオは、期待に満ちた表情で林檎を食べた。
「甘くて水々しい、美味しい林檎だね。それに、紅茶にもよく合う。」
「ええ、森の動物たちが届けてくれる林檎はとても美味しいの。」
「あははっ、動物たちが届けてくれるなんて。シアは森に気に入られているのだろうね。」
彼女と話しながら、シンシアも林檎をつつく。
……この林檎、こんなに甘かったかしら。
それに、今朝よりもシャキシャキしてるように感じる。
今朝の林檎も美味しかったけれど……この林檎はさらに美味しいわ。
「不思議ね、今朝食べたものよりも甘くて、さらに美味しく感じるわ。」
「……そうなのかい?それじゃあ、良い林檎を選んだのかもしれない。ふふふっ」
「ねえ、レイリア。どうして2人で食べると美味しいになるの?」
「相手のことが好きだからではないでしょうか……。」
「……好き?……どうして美味しいの……?」
「……好きな人と一緒にいるのは楽しくて、嬉しくなるでしょう?楽しい、嬉しいって気持ちは食事をさらに美味しくさせるんです。」
不意に夢のことを思い出した。
……なるほど、こう言うことだったのね。
「きっと、貴方と食べているからね。……ふふっ、レイリアが言っていたの。好きな人と一緒にいると、楽しくて嬉しい気持ちになって、その気持ちは食事をさらに美味しくさせるって。……こういうことだったのね。」
「……っ、わたしもシアのことが好きだよ。今日のスコーンも、林檎も、とても美味しい。」
リオは頬をチェリーブロッサムの色に染めて、少し遅れて、けれどまっすぐにシンシアを見つめて言った。
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