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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
海の向こう・ダンクラウス

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172話 祝福・【水上歩行】

 シーラが今までに踏破したダンジョンは4つ。ソロでクリアしたのが3つ、俺とクリアした『神殺しの魔窟』でもシーラは祝福を得た。つまり、シーラは【帰還】以外に3つも祝福を持っていることになる。

 で、謎だったそのうちの一つがぽろっと明らかになった。それが【水上歩行】。誤解を恐れずにはっきり言わせてもらうとさ、……それ、しょぼくない?


【不老不死】、【不壊】、【巨躯】、【解析】ときて、【水上歩行】。


 ダンジョンを出て、マグナの案内で湖を訪れる。


 ワクワクした表情で、シーラはおもむろにピョンと湖へと飛び込む。

「あっ、シルヴァリアさん!」

 一切説明無しにシーラが飛び込むので、マグナが驚きの声を上げる。そして、湖に飛び込んだシーラは見事に水面に両足で立っていた。


「え、すごくないですか?なんです、それ」

「ん?祝福。【水上歩行】だって。さっき知った」

 そう答えてシーラは揺れる水面をトコトコと散歩する。

「あはは、歩きづらい。ぐにゃぐにゃする」


 その場でシーラが飛び跳ねると、水面も波打ちしぶきを上げる。なんだか意外に楽しそうな祝福だな。しょぼいって言ってごめんな?俺もそれがよかったなぁ。


「なぁ、シーラさん。それどんな感触なんすかね?何に似てる?」

「ん?んー。なんだろう。知ってる気もするけど」

 ぴょんぴょん、と飛んだあとでクルリと後ろ宙返りをして見せる。黒い髪とマントに続いて白い足が弧を描く。

「あ。テント。テントの上に似てる」

「へぇ、いいなぁ。俺も歩いてみてぇなぁ、水の上」


 いい歳してまるで子供のような感想を漏らしたのが運の尽き。

「歩けばいい」

 シーラは俺の手を取ると、そのまま湖の上へと引っ張り込む。

「無理に決まってるだろ、馬鹿野郎!沈む沈む沈む!」

 恐怖に慄き喚く俺を迷惑そうに横目で見ながらシーラは左手を少し上げる。

「うっさぁ。平気。落ちないように持ってる」

「歩いてねーじゃん!浮いてるだけじゃん!つーか、左手はやめてくれよ、どうせまた力抜けるんだろ!?」

「抜けないし」

 シーラはムッと口を尖らせる。


 そんなこんなでしばしの水上浮遊を楽しむ。いや、全然楽しんではいない。


 で、陸に上がって一つ疑問。

「はい、先生質問。水に入りたい時はどーすんの?」

「ん?入れるんじゃない?普通に」

 シーラは水に足を入れようとする。当然足は水の上で止まる。

「入れない。普通に」

 その場で足踏みをしても水面が揺れるだけで水に入れない。風呂は普通に入ってるよな?温度?深さ?

 そんな事を考えていると、ズン、と地鳴りがして、龍のように波打ち暴れ出した水面は陸地に溢れて俺とマグナを濡らす。

 

 地鳴りの正体は不満を表すシーラの全力足踏みだ。

「ねぇー。不便すぎる。マグナと同じ。祝福、消そう」

 心底迷惑そうに、吐き捨てるようにシーラが言う。

「同じじゃねーぞ?」


 いくつかの検証の結果、足の裏以外は普通に水面を越えることができたので、それと温度が条件の様だ。全く水に入れなければかわいそうとも思うけど、やっぱりデメリット緩くない?


 ――そして、俺たちはダンクラウスを後にする。


 旅の収穫はいくつかある。【巨躯】マグナと知り合えた事、シーラの祝福が一つ知れた事、シーラの中の何かとダンジョンの奥なら会話が出来る事がある事、そして、その何者かが言うには、シーラを助ける方法は……無いと言う事。


 だが、そんな見知らぬ誰かの言葉など必要以上には気にしない。俺とシーラには、『有史以来の大天才』も『世界最強の大魔王』も『ヘラヘラ笑っているバカ王子』もついているのだから。絶対に、助ける方法を見つけてみせる。


「それじゃ、マグナ。達者で。急に身体小さくなったらごめんな」

「期待してお待ちしてますよ、リューズさん。シルヴァリアさん」


 船を停泊している港町バスピスまでマグナが見送りに来てくれる。と言っても、街の中には入れないので入口まで。街を訪れた英雄を一目見ようと、街の入り口は祭りのような人出でごった返している。

 

「ねぇ、マグナ」


 マグナを見上げてシーラが楽しそうに笑う。そして、彼に向かい左手を高く上げて声を上げる。

「また乗せてっ」

 最後まで変わらぬシーラ節。マグナも釣られて楽しそうに笑う。

「もちろん」

 と、手を合わせようとしてシーラは真剣な顔で顎に手をやり、疑惑のまなざしをマグナに向ける。

「あ。でも、小さくなったらもう乗れない。……ねぇ。どのくらい小さくなる?まだ乗れそう?」

 

「はは、頑張って身体鍛えておくよ。よい船旅を」

「ん。それはこっちのセリフ」

「どう考えてもお前のセリフではねぇかな」

「……うっさぁ」


 俺に白い眼を向けてから、巨大な左手とシーラは手を合わせ、俺たちは船に乗る。期間にして約三週間のダンクラウスの旅を終えて、王都へと戻る。


 通常客船の数倍の速度を誇る貴族専用の魔導船舶。青い海を割って白波を上げて進む。


 客室からデッキ出て、潮風に髪を揺らして気持ちよさそうな顔をするシーラ。その表情がいたずらそうな笑みに変わる。

「リューズ」

 まるで、新しい玩具を買ってもらった子供のような、自信に満ちた、得意げで、いたずらそうな顔でシーラは俺を呼ぶ。


「え。ダメ。無理。やめろ。絶対」

 話を聞く前から一方的に拒絶する。だが、それを聞くシーラではない。

「ふふっ」


 不敵な笑いを残して船首に立ち、その場で高くジャンプする。見上げるほど高く。見上げると太陽がまぶしく、船はシーラを置き去りにして進み続ける。


 シーラは船尾を超えて、海面に落ち――ない。祝福・【水上歩行】の無駄遣いだ。

「あはははっ、冷たっ」

 船のあげる水しぶきを浴びて大笑いしながら、シーラは船を追って海上を爆走する。

「はああああぁ!?馬鹿かお前、本当に馬鹿か!?バカすぎる!あぶねぇって!巻き込まれるぞ!?」

「全然平気。私の方が速い」


 魔力も無く、身体強化だってされていないはずのシーラは言葉通りみるみるうちに魔導艇に追いつき、並走して、追い越して見せた。


 落ちたらどうする、とかそんな常識的なツッコミ自体がもはや野暮だろう。俺は甲板に設置されたベンチに座り、肩を落として大きく息を吐く。困惑する船長や総舵手さんに一応一声掛けておく。

「あ、絶対ぶつかんないし、ぶつかっても平気なんで、気にしないでまっすぐ行っちゃってください」

 あきれ顔で前方を指さす俺を見て、船長は鬼畜を見るような視線を俺に向けてきたので誠に遺憾である。本当の事を言っているだけなのに。


 やがて、船の前方にいたシーラが再び宙を舞い、進む船舶の甲板にシーラが舞い戻る。比喩でなく、本当に舞い、戻ってくる。

「んっふふ、超楽しかった」

 黒髪を揺らすと、舞い散るしぶきがキラキラと日の光を反射して煌めいた。


「……楽しそうでなによりだよ、本当。つーかさ、お前魔力もないなら身体強化だってできないんだろ?なんでそんなに強いんだよ」


 至極当たり前の質問をしたつもりだったのだが、シーラは『何を馬鹿なことを』とばかりにきょとんとした顔で首をかしげる。

「ん?当たり前。お母さんの子供だから」


 聞いた俺がバカだった。

「そうだな。当たり前すぎたなぁ。お前はシルフィーナさんの子供だもんな」

「最初からそう言ってる」


 シーラは嬉しそうに、満足そうに頷いた。

 

 

 

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