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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
海の向こう・ダンクラウス

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170話 黒い魔石

 身体が大きいと言う事は、それだけで人間の暮らしから外れる事になる。衣服を作るのが困難で、食事を作るのも困難で、眠る場所を探すのも困難だ。ぺリコに聞けばすぐにわかるだろうが、身長が三倍ちょっと増えたら、服に使う布はどのくらい必要なんだろうな。俺なんかには想像ができない。


「え、えぇ。大変でしたよ。守護者を倒して、光ったと思ったら急にこの身体になったんですから」


 夜、焚火を囲みながらマグナは本当に困り顔でそんな苦労話を語ってくれた。


 守護者の間以外にもダンジョンの中には時折広い空洞がある。だが、それ以外は基本的に狭くて暗い通路が殆どだ。


 翼が生えたアクティカでさえダンジョンに挑むのをやめるくらいにはダンジョンは狭い。本来であれば、マグナは守護者の間から出ることができず、水と食料が尽きるまで一人過ごす事になったはずだ。


「アルたちが、手伝ってくれたんですよね。『絶対一緒に帰るぞ』って」

 剣で、魔法で、素手で通路を破壊し、食料替わりに魔物を狩り、水場を探し、来た時よりも遥かに長い長い時間を掛けて、彼ら四人はようやくダンジョンを脱出できたらしい。


「ちょうど朝でした。あの朝日は一生忘れられないなぁ」


 焚火の炎よりもさらに遠くを見て眩しそうに目を細めてマグナは思い出に浸り、それから優しい目で俺を見る。


「アル達が僕を便利に使ってるのは分かってます。だけど、……それでも僕らはパーティーなんです」


 その瞳には、諦めなんて微塵も映ってはいなかった。

「え。私斬りまくっちゃったけど」

 シーラが気まずそうに呟いたので、いい話だったのについ吹き出しそうになる。

「無傷だったからいいのか」

「よくはねぇけどな」

 シーラに釘を刺し、マグナの飲み物を作る。バケツでも足りない。樽で丁度いい感じ。

 

「ねぇ。マグナ?は、嬉しい?祝福消えたら」

 少し考えて、想像して、彼は楽しそうに笑う。

「嬉しいですね、それは。たまには柔らかいベッドでも眠りたいですし」

「そっか」

 マグナの答えを聞いて、シーラは自分の問いかけが間違っていなかった事に少し喜びながら頷く。そして、また次の瞬間に不安そうな顔で俺を見る。忙しいやつだ。

「リューズ。祝福消したらマグナ消えない?小さくなる?」

「それは……、どうなんだろうな?消えないとは思うけど」


 戻ったらぺリコに聞くか、と一人納得してマグカップに入ったポタージュに口を付けるシーラ。嬉しさ半分、寂しさ半分の複雑な気持ち。


「早く戻ったらいい。でかいと大変。銅像作るの」


 ――翌日もシルラカン地方を目指して旅を続ける。


 天候の良い日が続くのはありがたい。案外シーラは晴れ女なのかもしれない。俺は昔からよく雨に降られたなぁ。レオンにしょっちゅう嫌味を言われたよ。

 

「人食い巨人の話さ、石になった巨人の王を部下たちが洞窟に運んでるだろ?これってダンジョンだと思うんだけど、地元ではどんな解釈なの?モデルになってるダンジョンがあったりとかする?」


 地図を広げてマグナに問いかける。建前としては、物好きな貴族の依頼で珍しい伝承や童話の調査をしている事になっている。

「いやぁ、特になにもないですよ?童話ってそんなもんじゃないですか?そもそも作り話でしょうし」

 

「じゃあ巨人、って種族がいたって事もない感じ?」

「と、思いますよ?もしいたらさすがに学校でも習うでしょうから」

 

「だよなぁ」

 と相槌を打ちつつ考える。マグナには言えないが、事実である前提で思考を繋げる。巨人族、ってのが存在しないのであれば、やっぱりこの話に出てくる『巨人の王』はダンジョン踏破者で、マグナと同様に【巨躯】の祝福を得た人間なのだろうか。となると、石になったこの巨体をダンジョンの奥まで運んだ?マグナは出るのも大変だったのに?無理だろ。


 じゃあ実話じゃないのか?事実の要素を取り入れた創作。……今ここで考えてもしょうがない。とりあえず、ダンジョン探索。その次はまた考えよう。


 ◇◇◇


 月のない夜、冒険者の街・ヴィザ。市街を見下ろす高台には一軒の邸宅。それが、ギルドマスター・セレスティアとその夫であるネアルコスの家だ。

 日付が変わって大分経つ真夜中。セレスティアは書斎の椅子に胡坐で座り、周囲の空間には、おそらく古代魔法で展開された情報が彼女を囲むように羅列されている。顎に手を当てて、それを眺める彼女の顔は険しい。




 『有史以来の大天才』を自称するペリコをリューズが味方につけたことはセレスティアも当然知っている。自身と並び称されるその異才も当然把握している。魔石化の治療も心配ではあるが、そちらはぺリコに任せて、セレスティアは調べ物を続けていた。それは【祝福】の解除方法だ。


 20年前にそれを得て以来、シーラに会うまではそれを消す事など考えた事も無かった。リューズと生きる事を望むシーラの為、そしてまだ見ぬ我が子の為、セレスティアは古代魔法の解析を進めている。ダンジョンが、祝福ができるより以前から魔法は存在する。魔力は自然が生み出したが、魔法は人が作ったものだ。童話、伝承と同様に、詠唱がそれを含んでいる事がある。


 コン、コン、コンと古い桃花心木で出来た扉がゆっくり三度ノックされ、扉が開くと夫であるネアルコスが心配そうに顔を覗かせる。

「邪魔するよ、ティア。そろそろ眠ったほうがいい、明日早いんだろう?」

「あ、ごめん。ネア。先に眠っててよかったのに」


 椅子から振り返り、申し訳なさそうにネアルコスを見る。

「今から眠るところさ。君は――」

 セレスティアの表情を見て、ネアルコスは心配そうに眉を寄せる。

「何かわかったみたいだね」

 特別表情に出していたつもりもなかったので、セレスティアは眉間をごしごしと触りながら苦笑いを浮かべる。

「あはは、お見通しか」


 入室したネアルコスはカップとティーポットを持ってきていて、ハーブティーを注ぐ。暖かな湯気に誘われた優しい香りが室内に満ちる。本当に『今眠るところ』であれば、こんな準備はしていないはずだ。


 セレスティアは彼の淹れたハーブティーを一口含み、その温度を喉に通して、口を開く。

「多分、わかったんだ。【祝福】の消し方」

 望んだ結果にたどり着いたにしては浮かないその表情。ネアルコスはゆっくりと頷いて問い返す。

「聞いても、いいかな?」


 セレスティアは泣きそうな顔で、申し訳なさそうに短く一言だけ呟く。

「黒い魔石」


 それを聞いてネアルコスはピクリと目を見開く。その単語自体は初めて聞く言葉。だが、容易に連想がついてしまう。


 ――シルヴァリアは世に珍しい黒髪の忌み子だ。


「黒い魔石。それはすべての魔法も、魔力も、祝福も無効にする」


 ガシャン、と音を立ててセレスティアの拳が机を粉砕する。


「……そんなこと、あいつらに言えるかよ」



 月のない夜、空は漆黒に染まっていた。

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