↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『undying ―食卓から消えたもの』  作者: 季波


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/19

第11話「料理の覚え書き」

曾祖母の数え歌を見つけてから、数日が経った。


あれから何度か読み返してみたけれど、歌に隠された意味は分からないままだった。


その日、私は仕事を終えて帰宅すると、曾祖母の遺品の整理を再開した。


古いノートや手紙、何に使ったのか分からない小さな紙切れ。


一つずつ確認していると、棚の奥から薄い冊子が出てきた。


「……何だろう、これ」


表紙には、かすれた文字で『料理の覚え書き』と書かれていた。


ページを開くと、野菜の切り方や調味料の分量、料理の手順などが細かく記されている。


牛肉の煮込み、豚肉の生姜焼き、鶏肉の照り焼き。


魚の煮付けや焼き魚の作り方まで載っていた。


今では、どれも食卓に並ぶことのない料理だった。


「由紀、何見てるの?」


帰宅した直人が、私の手元を覗き込んだ。


「曾祖母の料理の覚え書き。昔の料理がいっぱい載ってるの」


「へえ、肉料理もあるんだ」


「魚もあるよ」


直人は私の隣に座り、ページを眺めた。


「こうして見ると、本当に普通に食べてたんだな」


「うん。しかも、家庭で作ってたみたい」


ページをめくると、料理の感想らしい言葉も残されていた。


『少し甘めにすると美味しい』


『焼きすぎないこと』


『冷めても美味しい』


「なんだか、普通の家庭の料理ノートみたい」


「実際、そうだったんじゃない?」


「そうかもね」


私はさらにページをめくった。


そして、最後のページで手が止まった。


「……あれ?」


そこには、これまでとは違う書き方で、六つの短い文章が並んでいた。


・・ みそを溶く。


・ ちりめんをのせる。


・・・ ごぼうを切る。


・・ あきなすを焼く。


・ とまとを刻む。


・・・ ごままんじゅうを作る。


「……これ、何だろう?」


直人が覗き込んだ。


「みそ、ちりめん、ごぼう……。料理の覚え書きなんだろ?」


「でも、ほかのページと書き方が違うの」


私は文章の前に付いている点を指さした。


「ほら、ここ」


「点?」


「うん。数が違うの」


直人は六つの文章を眺めた。


「二つ、一つ、三つ……。また二つ、一つ、三つか」


「何か意味があるのかな?」


「箇条書きじゃないのか?」


「それなら、どうしてこんな順番なんだろう?」


「料理の種類で分けてるとか?」


「でも、同じ料理の手順には見えないよね」


「確かにな」


直人は六つの文章を読み返した。


「みそを溶いた次に、ちりめんをのせて、ごぼうを切るのか。何を作るつもりだったんだろうな」


「分かんない」


私はほかのページも確認した。


けれど、同じような記号は使われていなかった。


ほかのページには、材料の分量や調理時間まで細かく書かれている。


それなのに、この六つだけは料理名もなく、短い文章が並んでいるだけだった。


「……何か変だよね」


「うん。でも、書いた本人にしか分からないこともあるんじゃない?」


「そうかもしれないけど……」


私は六つの文章を眺めた。


「……あっ」


「どうした?」


「直人、ちょっと待って」


私は机の上に置いていたノートを手に取った。


数日前、曾祖母の数え歌を書き写したノートだった。


ページを開き、ある部分を指さす。


『一匹起きたら 水が流れ』


『二匹起きたら 戸を閉める』


『三匹起きたら 火を消して』


「ねえ、これ」


直人がノートを覗き込んだ。


「数え歌?」


「うん。この歌も、一匹、二匹、三匹って数えてるでしょ?」


「ああ」


「料理の覚え書きにも、一つ、二つ、三つの点があるの」


直人は二冊を見比べた。


「……確かに」


「何か関係あると思わない?」


「かもな」


私は歌の最初の二行に目を移した。


『白いお皿に 雨が降る』


『お魚三匹 眠ってる』


そして、料理帳に目を戻す。


小さな点が、六つの文章の前に並んでいる。


「……雨みたい」


「何が?」


「この点。白いページに、雨粒が落ちてるみたいじゃない?」


直人は料理帳を覗き込んだ。


「……ああ、そういうことか」


「数え歌にも、白いお皿に雨が降るってあるでしょ?」


「確かにな」


直人は数え歌と料理帳を交互に見た。


「でも、それが何を意味するのかは分からないな」


「うん……」


私は二冊を机の上に並べた。


数え歌と、料理の覚え書き。


どちらも曾祖母が残したものだった。


偶然なのかもしれない。


けれど、どうしても無関係には思えなかった。


「ただ、順番が違うんだよな」


直人が料理帳を指さした。


「こっちは二つ、一つ、三つ。歌は一匹、二匹、三匹だ」


「あ……本当だ」


私はもう一度、六つの文章を確認した。


「じゃあ、関係ないのかな」


「どうだろうな。わざと順番を変えてる可能性もあるけど」


「わざと?」


「いや、何となくそう思っただけ」


直人は首を傾げた。


「……わざと」


私は小さく呟いて、数え歌の三行に目を落とした。


一匹、二匹、三匹。


歌の中では、数は必ず、小さいほうから順に増えていく。


料理帳の点は、二つ、一つ、三つ。


もしこれが、わざと崩された並びなのだとしたら。


本当は、どんな順番で読むものなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想をいただけると嬉しいです。 よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。