315話 EPO配信!_いい話、悪い話
「こうやって寝ている時は可愛らしいものですわね」
「だねー」
すやすや眠ったしーちゃんは、私たちに見守られながら寝息を立てている。
「なんだか妹ができたみたい」
そういえば、リノちゃんは一人っ子なので妹がいないんだ。
周りが姉妹持ちに対して、羨ましく思っていたりするんだろうか?
「あたしにとってのハヤテみたいな感じ?」
なるほどね、そういう感じで話を振られるのか。
果たしてリノちゃんの妹像は?
ドキドキしながら答えを待つ。
「もっと手がかかる、そうミルちゃんみたいな」
「なぬ!?」
うん、まぁ、うん。
ミルちゃんはみんなの妹枠なところがあるからね。
これで同級生は嘘だよね。
みんなに迷惑しかかけてないし。
もっと反省するところだよ、これは。
「むしろ今までの活躍で出来る女を体現していたか? に焦点が当たるよね」
「ぐぬぬ、みんなが見向きもしなかった商人ジョブ解放者だよ? あたしは」
「でもこっちから話降らなきゃ条件秘匿するつもりだったでしょ?」
「ゲームってそういうもんだよ」
「配信でやるなって言ってるの」
「グエーーーー」
わざとらしく苦しみ出して、ミルちゃんはその場で倒れた。
すぐさま起き上がってくるなり、こう言い出した。
「悪しき魂は滅した。ここからはニュースタイルミルモちゃんでみんなにラブを提供するよ」
今まではナイアルラトテップに操られていただけ。
ここからは本来のミルモを提供する。
ものはいいようだ。
中身を知ってる私と葉ちゃんは、まさに白い目で見ている。
この人前世から何も変わってない。
「白々しいにも程がありますわね」
「本当、どの面下げてその顔ができるんだろう」
いや、あくどさだけならよりパワーアップしている。
何が彼女をこうまでさせるのか。
「保護欲が足りないよね、保護欲が」
「妹ポジ辞めたら?」
みんなしてミルちゃんを袋叩きにする。
便乗にしたって、その内容は自業自得だった。
:ミルモちゃん……
:うん、残当
:あまりにも自分勝手に動きすぎ
:よくいえば暗躍、悪くいえば引っ掻き回し
:良くも悪くもって、全部悪くね?
:でもさ、配信者ってこんなもんだよね?
:まさかのハヤテちゃんたちがいい子すぎた結果!?
:他の配信者をそこまで卑下するなよ
:そういえば、この配信て他の配信者とコラボしたりとかは?
「特に予定にないですね。まだまだ駆け出しですし、実質お小遣いを稼ぐ以外に配信してませんから」
「人気商売だっていうし、外部委託してギスギスするのも違うし」
「夏休みの間だけですし」
:ああ、そっか
:別に外部に頼らなくても人気だしな
:実家が太いから特に数字に困ってないのか
:他の配信者とスタートが違うのか
:そう考えれば、コラボしないのもわかる気がする
「それ以前に配信6日目で7日経ってないんですよー。新人を持ち上げすぎです」
:は?
:は?
:は?
:どの面さげて新人?
:いや、ハヤテちゃんが新人は嘘でしょ
:すげー濃密な一週間だよね
:記憶遡ってもマジで新人なんだよな
:なんかもう一年ぐらい配信してるタフネス持ってる
:加速時間が長いからな
:一日経ってるようで経ってないのは加速世界の影響だった!?
:この配信見てから仕事が立て込んでるわ
:おい、真面目に仕事しろ
:ワイ、EPOの開発
:身内がリスナーに!?
:ワイも別ゲーの開発してるけど、いつこっちにくるかヒヤヒヤ
:プレイ人口がそれこそ数万規模で増えるからな
:来てほしい反面、来てほしくないような
:WBOはサーバーが強化されてるから受け入れられるが
:うちはサーバーそんなに強くないからな
:難しい問題だ
:やっぱ資金力よなぁ
「あはは、いろいろ大変なんですねー。このチャンネルは基本的に私がお料理しつつ、お姉ちゃんたちと一緒に遊ぶのが前提なので、冒険とかはあまりしないんですよねー」
「そうそう」
「他の配信者みたいに1日配信を耐久ではできないもんね」
:そうだっけ?
:もっとやばいミッションやってる気がする
:気のせいだよ
:そうそう
:AWOで木登りスキルなしでマナの大木登り切ったり
:初見でページダンジョン8階クリアしたり
:確かに見どころは多いけど
:基本的に料理してるだけだし
:まぁ雑談枠だよな
:普通のチャンネルだったらこうまで人気ないでしょ
:だから後から来ても話に置いてかれることはない
:それを食いに俺ら来てるもんな
:あるぞ、食い損ねたメニューでずっと後悔してる
:まさかEPOでもそれが起こるだなんて
:完全に裏目
:WBOのアレンジャーが食材と調味料ない位で諦めるわけない
:EPO遊んでねーからスタダし損ねてる
:今から始めるかー
:でも今日あたりでステージ4クリアするでしょ
:無駄に拘束時間長いんだよな、このステージ
:それだけ多くの要素が眠ってたんやなぁって
:なんだかんだ人気があるのって?
:やっぱり人望か
「あたしは悪くねー、あたしは悪くねー」
これがラブリーミルモちゃんの本性だ。
前世と何も変わっていないじゃない。
そんなこんなでシカエリア。
オオカミ、シカ、イノシシで迷ったけど。
どうせ食べるなら大きな個体がいいと思ったわけだ。
「しーちゃんが寝てるなら私も参加できるね」
「ではわたくしはSシャドウを併用して収穫しておきますね」
「任せた」
「ハヤちゃんくるんなら『剣豪』解禁?」
「シカの耐久は『剣豪』入れないと確殺にならないからね」
「リノっち、100以上は無駄だよ?」
「知ってるし。私をいつまでも子供扱いしなくていいよ。ミルモちゃん、プププ」
「はー、誰が子供だってんだよぉ! あたしの実力みせたるかんな。唸れ、あたしの移動床!」
別に唸ったりはしない。
けど、私のトラップトレインはミルちゃんの強引な割り込みによって強奪されてしまった。
そう、彼女の移動床は私の移動床より拘束時間が長い代物だ。
故に密接したら奪われてしまうのである。
「さらばシカ君。君のお肉は美味しくいただくよ。アデュー」
ダメージ3が4ヒットする。合計で12ダメージ。
シカの耐久は30。
まるで微風に吹かれたように不動だった。
「ミルっち、だっさ」
「ミルちゃん、私まだ『剣豪』かけてない」
「なぬ!?」
「あーあ、カッコつけてたのに活躍できなかったね」
「グヌオーーー!」
「収穫成功ですわ。ってあら? まだ討伐しておりませんでしたの?」
わざとじゃないんだけど、葉ちゃんの今の発言はミルちゃんには火に油を注ぐ行為だった。
現れる、第2、第3の刺客。
「ミルちゃん、一匹任せた。お姉ちゃん、単独で行ける?」
「あたしの『剣聖』に不可能はなーい」
「ハヤちゃん、命中90でおまかせするね」
「任された」
お姉ちゃんが剣聖で10ダメージを5ヒットで討伐。
私とリノちゃんで念の為落とし穴に嵌めてから威力33のトラバサミで仕留める。
「解体成功!」
「おーさすが解体師!」
「あたしも活躍したんだけど、多分解体は複数ヒットより大ダメージの方が成功率高いのかも」
:そうなの?
:解体は剣聖より剣豪の方がいいのか
:命中クソ下がるけどな
:そのための弓バフよ
:これ、罠術による討伐です
:そうじゃん、ハンターのおかげであるの前提になってるな
:一度取得したものは使えるって、ハンターの要素か
:弓バフあっても普通は倒しきれないんだよな
:威力10、または3だからな
:弓バフで射程増やしても、一体に当たる回数は固定だから
:こうやって考えると剣聖も強いのか?
:普通は罠術で縛らないんだよ
:前提の違いか
:なんだかんだ取得したバフ重複が強いな
:ああ、それで剣聖でもダメージ10確保できてんのか
:剣聖はナチュラルにヒット+2するからな
:それもあるか
「おかわりどうぞー」
:ここでやってくるハヤテちゃんのボウガントレインだ!
:あの頼りない命中率を、落とし穴と痺れ床のコンボで無理やり当てるか
:これえげつなくない?
:しかも違う場所にカカシも置いてあるから、ヘイトがボウガンに向かないという
:考えられた動きである
「あー、あたしの討伐対象がー!」
:南無三!
:シカ君、撃破!
:なんか爆発したんだけど
:汚ねぇ花火だぜ
「剣豪使いました。あとSシャドウも」
:攻撃判定+2に剣豪!?
:リノちゃんも使えるのに、この使い方の差よ
:リノちゃんは解体の判定にしか使ってないから
:命中が気になるけど威力どれくらい?
「威力は40ですよ、命中はそんなに落とせないですから。でもリノちゃんの命中30も当たるし、当たるかなーって」
:何発も掠ってたのそのせいか
:命中60か、それでも素で回避してくるの恐ろしいな
:一撃で体力全損するボウガンとか怖いわ
:剣豪君さぁ
:ミンチよりひでぇや
「ハヤっちだけずるいぞ! あたしも剣豪使わせろー」
「ここで残念なお知らせがあるけど、聞く?」
「嫌だー、聞きたくなーい、聞きたくなーい!」
:あ、これは
:確か一度でも敗北してると取得されないやつだっけ?
:しーちゃん登場で一回敗北してるから
:そのしーちゃんを連れてきたのはミルモちゃんなんだよなぁ
:味方に内緒で暗躍してたツケがきたな
「実はこの称号、一度でも敗北すると取得不能になっちゃうの」
「な、なんだってー!?」
「ちなみにしーちゃん来る前は無敗だったよ」
「敗北したのはあたしのせいってこと?」
「悪いのはしーちゃんかもしれないけど、その要因はミルちゃんだよね?」
「ぐぬぬ」
「でもね、ミルちゃんにここでいい話があります」
「なになに?」
:瞳を輝かせております
:悪い話の後の希望だからね
:まさかこの前の課金の話か?
:そういえばあれリセットできるもんな
「リセット? 課金? それって勝敗もリセットできるの?」
「どうなの、葉ちゃん」
「今確認しますわね」
葉ちゃんは紅ちゃんに聞いているのだろう。
少し黙り込んだ後、満面の笑顔でこういった。
「勝敗もリセットできるようですわ」
「本当? 買う!」
お値段聞かなくていいのかなぁ。
EPOの運営が、この手の操作を一番きらうのは君も知ってのことだろうに。
「いくら?」
「一万円です」
「えっ高っ」
だよね、高い。
しかも使うとお得なことがあるんじゃなくて、取得したスキルを全部失うデメリットしかない。
そんなのが一万円もするのはどう考えてもぼったくりだ。
だが、人はその記憶消去とも言える愚行に手を伸ばした。
それはなぜか?
そこには自分の知らない、道が眠っていたから。
記憶を消してやり直せるなら、やり直したいそうというのは思いの外多かった。
ただそれだけである。
「ちなみ使用すると今取得している武器スキルも全部消えます」
「マジで?」
「マジです。それだけ勝敗のリセットにはリスクが伴うんですわ」
将来を見据えて称号を取得するか、今を大事にするかはプレイヤー次第。
開発も、売れるわけないと高を括っていたが、案外売れて大変困惑しているようだった。
「なお、その権利の売れ行きは?」
「この配信を始めてから、なんと1万枚は売れております。過去に逃したあれやこれ。お金で解決できるならしたいというのがこのチケットの使用率でして。特に神秘関係のやり直し率は大幅に上がってきております」
「あー、便利だもんね。主に昔の商品や未来の商品を持ち込めるの」
「あれのあるとないとでは今後の活動に大きく影響すると踏んだのでしょう。今までスルーしてきたあれこれに再び注目が集まったのですわ」
「なるほどね。今そんなお金ないから剣豪は我慢する」
「ちなみにハンターなら上位害獣を解体成功するだけで入手可能だよ」
「あたし解体持ってないんだよねー」
「今なら解体取得条件教えるけど?」
「そだね、そういう道で行こう。というか、剣豪もレイちゃんに渡せばあたしでも使えるんじゃない?」
「どうなの、レイちゃん?」
「|◉〻◉)え? 1日1回しか僕の方で受け取れませんよ。これをよく噛んで飲み込んで体に染み渡らせて、よく干して魔導書の一部にしなくてはいけませんから。1日に2個以上なんて僕の体が持ちません」
ははは、と笑うレイちゃん。
今噛んで飲み込んでとか言った?
「ちなみにレイさん。今朝お渡しした『幻惑』ですが」
「|◉〻◉)これですか?」
レイちゃんは一本のちくわを取り出した。
半分以上噛みきれていて、よく見ればそのちくわに『幻惑』と焼印がされている。
知らなかった、この世界の称号ジョブってちくわだったんだ!




