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第8話 師匠の静かな作品ページ

ランキングに入った。


朝の通学中、何気なくサイトを開いたら、日間ランキングの異世界恋愛部門に「七瀬ユイ」の名前があった。下の方だったが、確かにあった。


「入ってる」


電車の中で声が出た。隣の人が少しこっちを見た。気にしなかった。


大学に着いて、あかりに言った。


「ランキング入った」


「おお」


「日間だけど」


「すごいじゃん」


「すごい。すごいんだけど、たぶん今の私の顔、うれしいときの顔じゃない」


あかりが私の顔を見た。


「確かに。検証成功したときの顔してる」


否定できなかった。うれしいのは本当だ。でも反射的にやっているのは分析だった。


どの時間帯にアクセスが伸びたか、どのタグ経由で入ってきた読者が多いか、感想の内容から推測できる読者層はどこか。喜ぶより先に検証が始まっている。


感想が14件になっていた。ブックマークは80を超えた。短編なのにこの数字は、たぶん悪くない。


感想の傾向も見えてきた。「距離感がいい」「感情が先に見えるから入りやすい」「引きが上手い」。レナが指摘した強みと、読者の反応が一致している。


昼休み、学食であかりにスマホを見せた。


「見て。この感想、すれ違いのシーンを三回読み返したって書いてある」


「よかったね」


「よかった。あそこ、快楽設計で一番計算したところなの」


「快楽設計って言い方やめた方がいいと思う」


「何で」


「犯罪っぽい」


あかりはサラダを食べながら言った。でも口元は笑っていた。



午後の講義を受けて、帰りの電車に乗って、自室に戻った。PCを開いて、感想の返信を書いて、アクセス解析を見て、次話の構成を少し考えた。


それから、何気なく、まる助の作品ページを開いた。


特に理由はなかった。感想を返したあとの流れで、サイト内をいくつか巡回していて、その延長で師匠のページに行った。うれしい気分のまま、師匠の作品も見たくなった。ただ、それだけのつもりだった。


そのページは前から何度も見ている。更新日も、感想の数も、ブックマークの少なさも、知らなかったわけじゃない。初めて読んだ日の夜に一通り見て、それからも何度も開いていた。


ただ、今日は見え方が違った。


反応がないわけではない。感想もゼロではない。でも、空気が違う。にぎわいではなく、静けさがある。少数の人がちゃんと読んでいる、という感じ。


前からそうだった。分かっていたはずだった。

でもそれは、私のページに今起きていることとは、明らかに温度が違った。


更新日を見た。最新話の投稿は二週間前。感想は前回の更新に一件。ブックマーク数は、一桁だった。


何かが変だった。


師匠の小説はすごい。それは読んだ私が一番分かっている。入口が狭くて、読みにくくて、恋愛要素もほとんどない。でもその奥にあるものは本物だ。


文章の隅々に意志がある。説明を抜いているのに雑じゃない。読みにくい必要があってそうなっている。あの小説がなければ、私はここにいない。


なのに、静かだった。


私のページはにぎわっている。感想が増えて、ブックマークが増えて、ランキングに入った。師匠のページは静かだ。あの小説の方が深いのに、あの小説の方が本気なのに、数字は私の方が大きい。


比較したいわけじゃない。ただ、事実として目の前にある。師匠の方がすごいのに、私の方が読まれている。


じゃあ今の私のうれしさは、どこに置けばいいんだろう。


師匠の前でこのまま喜んでいいのか分からなくなった。報告したときは素直にうれしかった。師匠も「届く形にしたのは七瀬さんです」と返してくれた。


でも今日は、自分の数字を見たあとで、その静けさを見てしまった。

前から知っていたはずのものが、急に別の意味を持って見えた。

あの返信の、少しだけ整いすぎていた文章まで思い出した。


あれは、落ち着いていたんじゃなくて。


いや、分からない。考えすぎかもしれない。師匠はもともとああいう人だ。理屈っぽくて、感情をそのまま出さない人だ。あの返信が整っていたのは、いつも通りなだけかもしれない。


でも、画面を閉じたあとも、胸のどこかがざわついていた。


夜、あかりからメッセージが来た。


「ランキングおめでとう。普通にすごい」


普通にすごい。普通に喜んでいい。あかりの言葉は正しい。伸びているのだから、喜べばいい。自分の力で書いて、自分の力で届けて、読者がちゃんと反応してくれている。それは事実だ。


でも、師匠のページの静けさが消えなかった。


うれしいはずなのに、その気持ちの置き場が急になくなった。

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