第118話:不一致の交差
独自調査を始めて数日後、警備組織に提出した資料について、初期調査の進捗がリィネを通じて届いた。
「警備組織から連絡がありました。計画推進課が保管していた該当年度の資材台帳のうち、保管先を確認できていなかった分は、王都外郭にある公文書の別倉庫へ移管されていたそうです」
拠点の作業室で、リィネが手元の書類を確認しながら報告した。
「現在は正規の手続きに沿って、別倉庫から台帳を取り寄せ、内容の照合を進めているとのことです」
「そうか。記録が失われていたわけじゃなかったんだな」
ガルドが安堵したように息をついた。
「ええ。ただ、保管先が分かったからといって、すぐに内容を確認できるわけではありません。取り寄せた後も、記録の照合や関係者への確認が必要になるそうです」
「公的な調査は、ちゃんと前に進んでいるってことだな」
俺は頷いた。
警備組織は、彼らの手順に従って着実に調査を進めている。俺たちが提出した資料も、その調査の一端を担っているはずだ。
だが、公的な記録を一つずつ確認していくには時間がかかる。
その間、俺たちまで手を止めている必要はない。
「公的な調査は任せておこう。俺たちは、俺たちにできるやり方で現場の流通経路を追う」
俺の言葉に、仲間たちが頷いた。
◆
俺たちは、前日の調査で得られた情報を改めて整理した。
工房『双頭の槌』から特注継手を受け取った、正規の運送業者とは異なる人物。
第四点検坑口周辺で目撃された、不自然な資材運搬。
商会の書類に残されていたという、見慣れない記号。
それぞれ別の手掛かりだが、どこかでつながっている可能性がある。
「リィネ。商会側で扱っている資材の流通記録に、似たような動きはないか?」
俺が尋ねると、リィネは手元の分厚い帳面を開いた。
「昨夜、私が確認できる範囲で、過去の商業記録を洗い直してみました。証言にあった記号そのものは見つかっていません。そもそも、今あるのは概略図だけですから、帳簿に記載された印と照合するのは難しいですね」
「そうだな。現物も、正確な形も分からない。今は記号を手掛かりに探す段階じゃないか」
「はい。ですが、記号とは別に、気になる点がありました」
リィネは帳面の数か所を開き、並べて見せた。
「過去数年間の資材取引の中に、納品先へ直接運ばれるはずの荷が、王都外郭の資材集積所付近で別の荷馬車に引き継がれていた記録が、いくつか残っています」
「別の荷馬車に?」
ガルドが帳面を覗き込む。
「ええ。手続き上は、いずれも正式な取引として処理されています。運送業者の変更自体が不正だというわけではありません。ただ、変更の理由が記録からは読み取れないものや、引き継ぎ先の業者が普段の取引先と異なるものがありました」
「つまり、帳簿だけを見れば正常な取引だが、荷の動きには不自然な点があるわけか」
「そうです。もちろん、これらが今回の特注継手と関係しているかどうかは、まだ分かりません」
リィネは慎重に言葉を区切った。
「ただ、正規の納品ルートから途中で荷が引き継がれている点は、工房で別の人物に部材が渡されたという話と、調べる価値のある共通点だと思います」
「なるほどな……」
ミリスが帳面の記録を見比べた。
「工房で荷を受け取った人物が、別の運送業者に引き渡す役割を担っていたのなら、こうした記録に残る流れとつながる可能性はありますね」
「ああ。ただし、同じ手口だと決めつけるのは早い。まずは、どこで荷が引き継がれているのかを確かめる必要がある」
俺は帳面を閉じず、記録された地名をもう一度確認した。
王都外郭。
いくつかの記録で、荷の引き継ぎが行われた場所として、その一帯が挙がっている。
まだ点と点にすぎない。だが、調べるべき場所を絞る手掛かりにはなりそうだった。
◆
「その場所なら、心当たりがあるわ」
シィが地図を広げ、王都外郭の一角を指し示した。
「ここに、工事用の資材や回収物を一時的に集める集積所があるの。複数の運送業者が出入りしているから、荷の引き継ぎがあっても、周囲からは目立ちにくい場所ね」
「そこが、例の仲介者の拠点なのか?」
レオンハルトが尋ねた。
「まだ分からないわ。単なる受け渡し場所かもしれないし、何度も出入りしているだけかもしれない。今回の部材がそこを通ったという確証もないもの」
シィは地図から顔を上げた。
「でも、工房から出た荷の行方を追うなら、調べておく価値はあると思う」
「ガルド、工房で聞いた話と照らし合わせて、荷が引き渡された時期に無理がないか確認できるか?」
「やってみる。運び出された時期と、あの辺りで荷馬車が動いていたという証言を、もう一度整理してみよう」
「シィは、集積所の周辺で当時の目撃情報を拾ってくれ。特定の人物を探すより、普段と違う荷の動きや、運送業者同士の受け渡しがなかったかを中心にな」
「分かったわ」
「リィネは、帳簿に残っている記録のうち、集積所付近で荷が引き継がれていた事例を整理してほしい。今回の件と一致するかどうかは、まだ判断しなくていい」
「承知しました。確認できる事実と、推測にとどまる部分を分けてまとめます」
それぞれの役割が決まった。
警備組織の調査では、保管先が分からなかった台帳の所在が判明した。一方、俺たちの調査では、荷の受け渡しに使われていた可能性のある場所が浮かび上がってきた。
どちらも、まだ答えそのものではない。
未知の記号の正体も、仲介者の身元も分からない。特注継手の出荷数と受領記録の食い違いについても、残る二つの行方は依然として不明だ。
それでも、追うべき手掛かりは少しずつ具体的になっている。
「決まりだな」
俺は地図に目を落とし、それから仲間たちを見渡した。
「公的調査の進展を待ちつつ、俺たちは王都外郭の資材集積所を調べる。現場で荷の流れを確かめ、仲介者につながる手掛かりを探すぞ」
「了解だ、ボス!」
仲間たちの返事が、作業室に響いた。
別々に進んでいた調査が、ひとつの場所へと交差し始めている。
その先に何が待っているのかは、まだ分からない。
だからこそ、まずは自分たちの目で確かめる必要があった。




