第100話:夜間の足跡
翌朝、運送会社から、前日に確認を依頼していた古い夜間輸送の記録が見つかったと連絡があった。
俺とガルド、リィネの三人は、王都の物流倉庫が立ち並ぶ一角にある運送会社へ向かった。応対に出た責任者の机の上には、埃を払われた何冊かの古い手配書と運行日誌の控えが広げられていた。
「連絡をいただいて、すぐに来ました。夜間便の詳細が分かったのですか?」
俺が尋ねると、責任者は眼鏡の位置を直し、一枚の黄ばんだ手配書を指し示した。
「ええ。倉庫の奥から、当時の運行伝票と手配書の控えが見つかりました。南西旧水路の補修事業向けに走った夜間便の記録で間違いありません」
ガルドが身を乗り出し、手配書の記載を食い入るように見つめた。
「積荷の品名や手配者の名前は書かれているか?」
「品名については……『金属製補修部材一式』とだけ記されています。個々の部材の明細や数量までは、この伝票には書かれていませんね」
責任者の言葉に、リィネが慎重に手帳へ書き留めながら尋ねた。
「『一式』ですか……。具体的に何の部品が何個含まれていたかは、この書面からは分からないのですね」
「ええ。ただ、荷箱の大きさや積載記録から、特別に大きな荷物ではなかったことは分かります。そして……通常便と大きく異なる点が二つあります」
責任者は手配書の欄外を指で示した。
「一つは、手配者の名前です。通常便の依頼主は事業管理事務所の資材担当者ですが、この夜間便の依頼主は……公的事業の『計画推進課』に所属する人物の署名になっています」
「計画推進課……?」
俺は聞き慣れない部署名に眉をひそめた。現場で応対した資材管理担当者とは、明らかに別の立場の人物だ。
「そしてもう一つは、荷下ろし場所です。通常便の納入先は南西旧水路の第一資材置き場ですが、この夜間便の荷下ろし先は、水路沿いから少し離れた『南西第四点検坑口前』と指定されています」
ガルドの目が鋭く細められた。
「第四点検坑口……。現場の資材置き場じゃなく、古い点検坑の入り口か」
「はい。日付と出発時刻から見ても、夜間にその点検坑口前まで荷を運んだ記録です。さらに、受領欄には、計画推進課に所属する人物の署名が残っています」
責任者は伝票を机の上に置き、静かに息を吐いた。
「通常、工事の進捗によっては、夜間に必要な資材を点検坑口まで直接届けることもあります。ですから、これだけで不審な取引だと断定することはできません。ただ、通常の資材搬入とは別の手配で動いていたことは確かです」
「十分すぎる情報です。ご協力、本当にありがとうございました」
俺たちは責任者に礼を述べ、運送会社を後にした。
◆
通りに出た俺たちは、人通りの少ない建物の陰で足を止め、手帳に書き写した情報を整理した。
日差しが石畳を照らす中、ガルドが腕を組み、低く唸った。
「整理しようぜ。工房が出荷した十二個の特注継手。現場に届いたのは十個で、残りの二個は追納待ちのまま、処理が止まっていた」
「ええ」
リィネが言葉を継いだ。
「そして今回見つかった夜間便。品名は『金属製補修部材一式』。手配したのは資材管理担当者ではなく、『計画推進課』の人物。荷下ろし場所は『南西第四点検坑口前』……」
三人の間に、短い沈黙が流れた。
「未納になった二個の継手が、その『金属製補修部材一式』に含まれていたのか……。それとも、まったく別の資材だったのか。まだ確証はない」
俺は二人を見つめながら、思考を整理した。
「手配者の名前が分かったからといって、その人物をすぐに黒幕だと決めつけるわけにはいかない。夜間輸送自体は、事業の都合で行われることもあるからな」
「そうだな。だが……荷下ろし先の『第四点検坑口』って場所は、調べる価値が大いにあるぜ」
ガルドが口元をわずかに歪めた。
「あの地下大空洞にあった古代装置。あれは南西エリアの地下遺構とつながっていたはずだ。その第四点検坑口が、地下への出入りに使われていたとしたら……」
「地下装置に関わる資材が、そこを経由して運ばれていた可能性もある、ということですね」
リィネが真剣な眼差しで頷いた。
地下で見つかった、双頭の槌の刻印を持つ後付け部材。
地上で浮かび上がった、十二個と十個の数量差。
そして、計画推進課の人物が手配し、夜間に第四点検坑口へと運ばれた、正体不明の補修部材一式。
それぞれの事実は、まだ一本の線としてつながったわけではない。
夜間便の積荷に何が含まれていたのか。なぜ通常の資材置き場ではなく、点検坑口前が指定されたのか。そして、その手配者は何を知っていたのか。
確かめるべきことは、まだ残されている。
「決まりだな。次は……その『南西第四点検坑口』を直接調べる」
俺の言葉に、ガルドとリィネは力強く頷いた。
地下の不気味な装置から始まった疑惑は、地上の帳簿と輸送記録を経て、再び地下へとつながる入り口へ、俺たちを導こうとしていた。




