29話 一緒のベッドで過ごす夜
伸ばされた指先が、私の頬を優しく撫でる。
その紅玉の瞳には嘘偽りのない柔らかな熱が宿っており、彼の言葉の真実味を物語っていた。
「……分かったわ。あなたを信じる」
「それは良かった。さあ、それじゃあ一緒に寝ようか」
「う……っ。やっぱり同じベッドじゃなきゃダメ……? 本当に私、ソファでも熟睡できる自信があるんだけど……」
「往生際が悪いね、ジゼル。……仕方ないな」
彼の手が肩から背中へと落ちたかと思うと、一瞬の浮遊感とともに体がフワリと宙に浮いた。
「ちょ、フェイラン!?」
横抱きの姿勢のまま、私の抗議の声を無視してフェイランはベッドサイドへ歩みを進める。
私をふんわりとベッドの上に横たえると、隙のない動作で自身もその隣へと滑り込んできた。
「はい、これでもう逃げられないよ。大人しく俺の腕の中で寝ようね」
「ひう……っ!」
フェイランは私に温かい毛布をかけてくれながら、すぐ隣で紺色の髪をシーツの上に散らした。
信頼しているとはいえ、間近に存在する彼の熱気に、心臓がうるさいほどドクドクと胸を叩く。
美しく揺れる紅玉の瞳は私だけを捕らえ、月明かりを反射して濡れたような光を放っていた。
「おやすみ、ジゼル。明日目覚めた瞬間、一番に君の顔が見られると思うと……今から寝るのが楽しみで仕方がないよ」
「は、はい……」
なぜ彼は、好きな人がすぐ隣で横になっているというのに、これほど余裕たっぷりでいられるのだろう。
緊張で張り詰めすぎていた心が、あまりの理不尽さにだんだんと怒りへと変わっていく。
「……ずるいわ、フェイラン」
「え? 何がだい?」
「私ばかりドキドキさせられて、フェイランはいつも通り落ち着いているじゃない! こんなの全然不公平だわ……!」
「……ふふ、君には俺がそう見えているんだね」
フェイランはシーツの上に置かれていた私の手を優しくすくい上げると、そのままガウンの隙間からはだけた胸元へと直接押し当てた。
「ちょ……っ!?」
彼のなめらかな肌と、硬く引き締まった筋肉を、その手で感じ取った直後、私の全身が勢いよく沸騰した。
「俺だって緊張しているよ。こんなに無防備なジゼルがすぐ隣にいるんだから。……触れれば分かるだろう?」
「……わ、分からないわよ! 心臓の音も、あなたの緊張も……っ!」
「そっか。困ったな……もうこれ以上、君に俺の心音を伝える方法がないよ」
依然として余裕を崩さず、優然と微笑んでみせるフェイラン。
やはり、私のようにパニックになっているようにはどうしても見えない。
(こうなったら……!)
私はつかまれていた手を彼の手の甲に回し、そのまま指先を強く絡め合わせた。
そしてグッと力任せに彼を引き寄せながら、自らも一気にその顔へと接近する。
「……ジゼ……っ」
驚きに目を見開いた彼の唇を、私の唇でそのまま塞いだ。
不意打ちのキス。
合わさった唇から、今まで感じたことのない彼の熱と、かすかな震えが伝わってくる。
「……こ、これでフェイランも、少しはドキドキしてくれた……!?」
そっと唇を離しながら、私は頬を熱くしながらフェイランを見上げた。
彼はきょとんとした表情で私を見つめ、珍しく言葉を失って呆然としている。
「……やっぱり、今すぐ襲ってもいいかな?」
「ダ、ダメに決まってるでしょ! ほら、もう寝るわよ!」
真っ赤になった顔を誤魔化し、まったく落ち着かない鼓動を抱えながら、私は目をぎゅっとつむった。
すると、まぶたの向こうから、彼の愛おしそうな笑い声が聞こえてくる。
「ジゼル。……やっぱり君は、俺の闇を照らす光だよ」





