ⅩⅪー5 エピローグ――鳳凰
月の光がまばゆい。
薄い雲が下にたなびいて、真っ黒の海を横切りながら流れている。島々には銀色の明かりが見える。
ロアンは、空を漂っていた。
軽く、軽く、宙返りもできるし、降下も上昇も可能だ。速度も自在にコントロールできる。
――愛する人のところへ行きたい。
そう願うと、ロアンの身体が風に乗り、東に向かった。
愛する人と最後に逢瀬を交わした離宮が見える。
ストン。着地した。
月影の中で、紫の瞳を持つ女人が離宮のそばに立っていた。いつもの華やかなドレスではない。地味な男装に身を包み、短く切った黒い髪を帽子に隠して、化粧も施さず、じっと離宮を見つめていた。
ロアンは、彼女の横に立った。声をかけた。手を彼女の肩にかけて、抱き締めようとした。けれども、ロアンの手は彼女の身体をすり抜けるばかり。声も届かぬようだ。愛しい女人は、ふとロアンの方を見たが、かすかに首をかしげて、去っていった。
ロアンは、彼女を追いかけた。空からずっと見守った。愛する人は、森の小径に入った。ロアンは、梢を飛びながら、彼女の後を追った。やがて、闇の中で、彼女は小船に乗り、シャンラ王国に渡った。
月夜の中、愛する人は、月を見上げていた。ロアンは、彼女のそばに降り立った。見えなくてもいい。聞こえなくてもいい。この人のそばにいたい。
日の光が東の空を染め始めた。最後の月の光とともに、ロアンの姿がフッと消えた。
アメリアは、隣を見つめた。だれもいない。けれども、愛する人がそばにいたような気がする。小船が小さな浜辺につき、アメリアは小船から降りて、森に入った。ふと気づくと、青い蝶が羽を震わせながら、そばを舞っていた。薄い羽が日の光に透けるようにきらめくと、蝶は光の中に消えた。
蝶の舞に見とれていたアメリアは、ふたたび前を向いた。
――これから長い逃亡生活が始まる。けれど、その先にこそ未来が見える。
アメリアは一歩を踏み出した。
――愛を棄てて選んだ道だ。引き返すことはできない。




