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第21話 いつでもどれだけでも握っててほしい


「えっ、すみれ?!」


「フッフッフ。待たせたね2人とも」



 ピシャリとドアを閉めた彼女はドヤ顔でこちらに近づき、当然のように金子さんの隣に座った。

 メッセージのやり取りをしていたとはいえ、直接巳波さんと会うのはまだ2回目。思わぬタイミングで乱入してきたこともあり、少しだけ背筋がのびる。

 

 

「江守、すみれも呼んでたの?」


「いや俺は呼んでないけど。金子さんが呼んだんじゃないんだ?」


「私も呼んでないわよ。ていうことは……すみれ、もしかして私の後つけてきたの?」


「うん。だって美耶っち、どこ行くか聞いても教えてくれないし、落ち着かない感じだったから。でもまさか逢い引きだったとはね~。納得納得~」


「ち、ちがっ、そんなんじゃないわよ!」



 上ずった声を上げる金子さんに、巳波さんはニヤニヤと肘で小突いている。

 金子さんが他の誰かと話しているのは初めて見たが、やっぱり2人は仲が良いのだろう。俺のときと同じように強く当たっている姿は、見ていて逆にホッとするな。



「もしかして今までの話全部聞いてたわけ??」


「もっちろん。最初から最後までバッチリ」


「私たち、隠れて会ってた意味が……」


「まあ、天才ハッカーすみれちゃんが一枚上手だったわけだね。ふふんっ」



 巳波さんは座りながらパーカーの前ポケットに手を突っ込むと、隣の金子さんに向けるのとは少し異質な笑みをこちらに向けてきた。

 


「それにしてもえもっち。裏掲示板の件まで分かってたなんて、やるねぇ~」


「……巳波さん、もしかして最初から知ってたの?」


「いや~? 私も丁度突き止めたところだったから、今日言おうと思ってたとこだよ?」


「そうなんだ、じゃあ進捗は同じって感じだね」



 であればタイミングは良かったのか。巳波さんは学校のメールアドレスの件も掴んでくれたし、頼れるところで頼っておきたい。

 次に彼女にお願いしたいことは……。そう、もっと踏み込んだ解析だ。



「巳波さんさ、メールとか裏掲示板の投稿を逆探知できたりする?」


「んー。それはちょっと難しいかな~。でもまぁ、場所の特定まではいかなくても、調べれば機種とかなら分かっちゃうカモ?」


「ほんとに?? じゃあ是非お願いしたいっ」


「おっけーおっけーやってみるよ。でもその代わりに~。教えてっ? 稲荷茉子ちゃんのこと」



 また稲荷さんか。この前も訊かれたが、なんで巳波さんが稲荷さんの事を探ろうとするのか、繋がりがよく分からない。

 隣にいた金子さんも不思議に思ったのか、話に割って入ってきた。


 

「すみれ、あの子と何か関係でもあるの?」


「ううん~、全然? でも可愛いし、仲良くなりたいな~なんて」 


「ふぅん。……だってさ。いいんじゃない? あんたの()()()()()を紹介してあげても」


「えっ? 彼女って? もしかしてえもっち、稲荷茉子ちゃんと付き合ってるの?? 前はただのクラスメイトって言ってたのに~?」


「えっ、それは……ごめん、黙ってました」



 そういえば稲荷さん、金子さんの前だけでは彼女だと言い張ってたんだった。教室でいつもコソコソしてくるせいで、俺もこの関係を隠さないといけないものだと思っていたが……。

 口止めしていたわけではないし、こんなところで巳波さんにバレてしまうとは。



「記憶喪失のせいで覚えてないけど。一応そういうことになってたみたいで」


「はぇ~。そっかそっか。それならえもっちは過去のこととか、可愛い彼女に手取り足取り教えてもらってるんだ~?」


「い、いや。訊いてもよくはぐらかされるから、ほとんど何も教えてもらってないよ。遠距離だったって言ってたし」


「そうなんだ。ふぅーん。なるほどねぇ。じゃあ稲荷茉子ちゃんは2人でいる時はどんな感じなの?」


「どんなって、いつも元気な女の子って感じだけど。って、稲荷さんの事はもういいでしょ? 俺もまだ詳しくないから、もうこの話は終わり終わり」


「え~。ま、今日はいいでしょう。とりあえずえもっちは、稲荷茉子ちゃんと美耶っちに二股かけてるってことねー!」



 ……この子、軽い口調でなんてことを言うんだ。

 本当に過去の不誠実があるなら100%自分が悪いけど。でも今こんなところで言ってくれたおかげで、金子さんの視線が痛い。チクチクを通り越してグサグサ。なんか内臓の辺りまで痛い。



「今度紹介してね、彼女のこと。……あっ。あとはさー、さっき言ってた体育祭での仕掛け? それ私も手伝うよ?」


「え?あ、ありがとう。で、でもまた連絡するよ。今日はあんまり話し込んでると遅くなっちゃうし」


「なぁんだ、わかったよ~。なんでも言ってね? 私丸っち……一丸君とも知り合いだから、連携取れるしっ」


「そ、そうなんだ、わかった。じゃ、じゃあ2人にお願いするから。今日はこれで解散にしよっか」




 一刻も早くこの場から立ち去りたかった俺は、とりあえず会話を畳んで作戦会議を終わらせた。 


 にしても巳波さん。久助のことも知ってるようだし、稲荷さんのことは執拗に聞いてくるし、俺の交友関係でもハッキングしようとしているのか?

 好奇心旺盛なのかもしれないが、彼女がズカズカと踏み込んできたせいで、金子さんのムス顔が見ていられなかった。

 

 これはメールの犯人を突き止めた後は、そろそろ告白の件を思い出さないとまずいかもしれないな……。


 

 そこから俺は、体育祭まで数日間、久助や巳波さんと連絡を取りつつ当日の作戦を立てていった。

 俺にとっては初めての学校行事。でも今回は思い出作りのためじゃない。

 ここで犯人を見つけて、自分で自分の居場所を切り開くんだ――。


  

*****


 そして体育祭当日。日頃の行いが良かったのか、天候は快晴。

 

 早く登校してきた俺は、校舎とグラウンドの間のアスファルトで、そこに置かれた赤組の巨大パネルをなんとなく眺めていた。

 美しい鳳凰が描かれているパネルの、一番右上の空の部分。自分が塗った箇所は、他より色味が違っている気がする。大勢は気にしないかもしれないが、そこだけは上手く馴染めず、少しだけ浮いてしまっているような些細な違和感。



「真太、おはよっ!」



 いきなり横から声をかけられ顔を向けると、今日も眩しいくらいの笑顔を見せる稲荷さんがいた。

 髪は後ろでひとつ結び。半袖短パンの体操服がよく似合っている。体操服にそんな感想が出る方がおかしいかもしれないが、似合っていると思わせてしまうほど、彼女の容姿は周りの何もかもを引き立て役にさせてしまう。


 

「おはよ、稲荷さん」


「うんっ。今日はたくさん楽しい思い出作れるといいね!」


「そうだね。練習頑張ってたみたいだけど、マスゲームの出来はどう?」


「いい感じに仕上がってるよ! 練習ばっかりしてたから、私ちょっと鳳凰っぽくなってきたと思うんだよね。いつもの朝よりなんだか体が軽い気がするし、そろそろ空も飛べそうっ」


 

 ……鳳凰っぽいってなんだ?

 それにたぶん、いつもより体が軽いのは半袖短パンのせいだ。


  

「う、うん、そうだね。変なとこ飛んで行っちゃわないように気をつけてね」


「じゃあ飛んでいかないように、真太が私の手を握ってくれてたら大丈夫かもっ」


「それはちょっと難しいよ。少なくとも意識がはっきりしてない時じゃないと」


「えぇ~。それ、寝ぼけてる時じゃん。……あははっ」



 青空のもと、2人だけの空気に朝の爽やかな風が吹き込んだ。

 

 疑いを晴らせたら、稲荷さん自身のことを訊いてみよう。趣味とか、好きな食べ物とか。

 彼女でも、彼女でなくても。ただ純粋に、もう少しこの子の事も知りたいから……。



「よし、そろそろ一緒に教室行こっ?」



 彼女の笑顔に引っ張られ、俺はいつもの教室……隣に彼女がいる教室へと歩き出した。

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