苦い記憶
レントは普段木に擬態しており、獲物が近くを通りかかると擬態を解いて襲いかかる習性がある。
そのため、擬態がしやすい森林地帯に数多く生息している。
森林地帯は街から少し離れているが、朝早くに出てきたということもあり、昼頃には目的地にたどり着けるだろう。
「レントか。嫌な思い出が蘇るな……」
レントは街からそう遠くないところに繁殖する、冒険者にとっては一般的な魔物だ。
当然、今までの冒険者人生の中で出会ったこともある。
「二つ目のパーティを追放されるきっかけだったんだよな……」
レントはそこまで強い魔物ではない。
一人で狩れるようになれば冒険者として一人前、程度の魔物だ。
レントはサイズこそ魔物としては大きいが、動きが遅く、攻撃も当たらなければ大したことがない。
冷静な判断力とある程度の攻撃力があれば、倒すのは難しくない魔物だ。
だが、スキル無しの俺が剣で切りつけた程度では、傷をつけるのが精一杯だった。
考えてみて欲しい、普通の人間が剣一本で木の幹を切り落とせるかどうかを。
幸い、俺は俊敏性が高かったため、レントの攻撃が当たることはなかったが、こちらの攻撃も致命傷には至らないため、いつまでたっても終わらない泥仕合にもつれ込んだ。
結局、他のパーティメンバーが近くにいたレントを全て倒し、救援に駆けつけてくれるまで倒すことはできなかった。
そんな醜態を晒せば。パーティに居場所がなくなるのも必然だろう。
「今の俺はあの頃とは違う。見てろよ……!」
リベンジ戦だ、と息込んで足早に森林地帯へと向かう。
当初の予定通り、日が頭上高くに昇りきる前に森林地帯へと辿り着く。
この辺りは人が通る場所以外、基本的に整備がされていないため、日中だというのに薄暗い。
まずはレントを見つけなければ、と辺りを見回す。
レントは木々に擬態しているため見つけづらいが、注意深く観察していれば擬態を見破ることは難しくない。
奴らは地面の振動と視界を使って獲物を探知しており、定期的に目を開いて辺りを見回している。
目を開く時は樹皮が裂け、人間の頭ほどの大きさがある目がむき出しになるため、それを見逃さなければ良い。
「見つけた」
しばらく観察していると、少し離れたところで樹皮に亀裂が入っていくのが見えた。
亀裂はそのまま縦にぱっくりと割れ、中からレントの目が覗く。
「魔弾生成」
光り輝く魔銃をレントに向け、スキル名を唱えながら引き金を引いた。
「アイスバレット」
撃ち出された氷の弾丸は真っ直ぐにレントの目を貫いた。樹皮に守られていないレントの目は急所で、そこを突かれればひとたまりもない。
ギィン!という甲高い音と共に、弾丸が貫いた部分に何本もの氷柱が出来上がった。
昨日検証してわかったことだが、このアイスバレットはなかなかに凶悪な能力を持っている。
何かしらの物体に着弾すると、当たった箇所を中心として、尖った氷柱を球状に何本も生成する。
魔物が撃ち抜かれれば、中から氷柱に貫かれ串刺しにされてしまう。
硬い外皮を持つレントも、内側からの攻撃には脆く、抵抗すらままならず一瞬のうちに絶命した。
力尽きたレントは、轟音を立てながら地面へと倒れる。
その音に引きづられるように、周囲の木々にもギョロリと目が浮かび上がった。
その全てに対し、アイスバレットを連射し、一体一体確実に倒していく。
ただでさえ動きが遅く、遠距離攻撃への対処法を持たないレントたちは、なすすべもなく蹂躙されていった。
魔力が減ってきて一息つく頃には、視界に入るレントは全て倒され、薄暗い森林地帯の一角に陽の光が届くまでになっていた。
「す、すごい成果だな……」
かつてあんなに苦戦したレント討伐が、自分でも信じられないほどに順調に進んでいく。
スキルが使えるようになった魔銃使いの前では、もはやレントはただの的だった。
「それにしても……。ちょっと数が多くないか?」
ここはまだ街道からそう遠くない。
だというのに、生息しているレントの数がやけに多かった。
「……あまり長居するのは良くないかもな」
曲がりなりにも三年間冒険者をやってきただけあって、危険に対する嗅覚はそれなりに養われている。
魔物たちが普段と違う動きを見せるときは、大抵ろくなことにならないというのは冒険者の中では鉄則だ。
魔石だけ回収して帰ろうかなと動き出した瞬間、俺の不安を裏付けるかのように、森林の奥から甲高い叫び声が聞こえてくる。
絹を引き裂くような悲鳴が耳に届いた瞬間、何かに突き動かされるように駆け出していた。




