第66話:再生のカウントダウン(その7.5)
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8月5日午後1時39分、会場へ向かう足を止めた大和杏だったが、それでも今は急ぐしかないと――。
「こちらが想定する正体と違っていたのは――不幸中の幸いと言うべきなのか」
エクスシアの正体、その顔を見た大和は想定していた正体とは違った事に対し、安堵感を持っていた。
それは、アキバガーディアンのメンバーがエクスシアと名乗っていたら……と言う事を大和は覚悟していたからである。
実際、アキバガーディアンの中には全てのコンテンツが切磋琢磨していくような流れを希望する者もいれば、超有名アイドルを規制法案で締め出そうと考えている人物もいた。
だからこそ、強行手段に出るような勢力が西雲を名乗って風評被害が拡大する事に関して避けたかった。それが、大和の現状でもある。
同日午後1時42分、大和が会場へ着いた頃にはDJイナズマが十段に挑戦していると思ったら、まさかの展開になっていた。
『現在、一部エリアにて太陽光システムのトラブルで停電が発生しております。復旧までしばらくお待ちください』
フリーフィールド、フリーエリア、イベント会場で共通のアナウンスが流れる。どうやら、停電が発生したらしい。
しかし、この停電が自然現象で起きた物とは到底思えない。太陽光パネルの耐久度を考えると、そこまで急激に材質が劣化するのは不自然だからだ。
太陽光パネルの耐久度は1年~2年、ARゲームの電力の7割は太陽光を使っている為に、家庭用のパネルと比べると交換時期が早いのだろう。
それでも、交換したてのパネルが急激に劣化し、停電を引き起こすのはどういう事なのか?
「ARガジェットによっては、装甲に太陽光パネルを使用している物もあるらしいが――何が起こったのか」
ARガジェットを返却する為に専用ガレージへ向かう大和は、太陽光パネルが一気に不具合を起こすとは考えられない、という表情を見せる。
【超有名アイドル投資家が不具合を起こしたとしたら、それは破壊工作と受け取られてもおかしくはない。他の国で起こせば、明らかに逮捕だけでは済まされないレベルだ】
あるつぶやきを見た大和は、思わず手持ちのタブレット端末を落としそうになる。ARガジェットは衝撃に耐えられる強度を持っているが、タブレット端末はガジェット程に耐久度が高い訳ではない。
「どちらにしても、急ぐ必要性があるのかもしれない」
停電は返却作業に影響がなく、スムーズに事が運んだ。どうやら、停電しているエリアは局地的な物らしい。




