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僕が死ぬまで生きていて ー子どもたちがあの世へ逝く前に寄るのは、ニートの僕の部屋ー  作者: 七千凜紗


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三章  マジカルプリティ・キラキラピンク

 僕が住んでいる町では、秋に祭りが行われる。商店街の店舗が中心になって盛り上げるアットホームなお祭りだ。僕は幼い頃から、この秋祭りが好きだった。夕日が沈むだいぶ前にイトウとナカノとサンダルで砂利道を駆けて行って、デイサービス施設が提供している激安のカレーを一番乗りで食べて、幼稚園でやっている子ども騙しの肝試しをやって、スーパーボールを掬い、光るソードがあれば売り切れる前に確保。あとはたこ焼きやわたあめを食べながら、川に向かって場所取り。そこから花火を見る。これが毎年変わらないルートだった。

 ただしこの秋祭りにもテキ屋はやってくる。決まった場所に数店舗だけだが、いつも目立つところでお面を売っていた。多くの屋台が子どもにも買いやすい値段なのに対し、お面はその三倍はする。僕は幼い頃に一度、大好きな特撮番組の仮面が気になって見ていたら、テキ屋のおばちゃんに話しかけられ、あれよあれよという間に買わされてしまったことがあった。少ないお小遣いの半分がお面になってしまい、泣いた。イトウはそんな僕を見て指差して笑い、ナカノは慰めるように、花びらの形をしたアイスを分けてくれた。



 少し苦い思い出だが、お面。そうか、お面があったら、あの子はこっちを向いてくれるだろうか。夏前からうちにいる小さい女の子。部屋の引き戸と押し入れの間から一ミリたりとも動かない。少々横にずれてくれるだけで僕のQOLが上がるのだが、動く気配が全くない。なぜなら、ずっと正座して足を絶対に崩さず、膝の上に乗せた手をぎゅっと握り締めて一点を見つめているからだ。

 少しでも動いたら死ぬ。いや死んでるんだけど、そんな覚悟でそこにいるようなオーラが出ていて、近づくのも憚られていた。控えめに言ってとても困っている。

この子にお面をあげたら、喜んでもらえるだろうか。少しは動いてくれるだろうか。そんな下心を抱いて、今年もイトウと秋祭りに向かった。


 あの頃はまだタトゥーは入れていなかった。数年ぶりに僕を見たお面屋のおばちゃんは明らかにビビっていた。まぁそうだろう。首から上以外、全身に黒いタトゥーが入っていてアニメのTシャツを着ているサングラスの前髪パーマ男が、お面を買いに来たのだ。しかも選んだのはマジカルプリティ。毎週日曜に絶賛放送中の、女児に人気のアニメのお面だ。

「えー、キラキラピンク? 王道すぎ! アタシならプクプクイエローだな」

 僕が選んだキャラをイトウがすかさずディスる。

「カレーが好き=イエロー思考はもう古い。お前はブラックキッチイだろ。口を出すな」

「じゃあコージはこっちでしょ!」

 そう言って手に取ったのは、一休さんだった。正しくは一休宗純、高貴で破天荒な素晴らしい禅僧だ。正直欲しくてたまらないが、僕は我慢した。ニートに自分のお面まで買う余裕はない。僕はマジカルプリティの主人公、キラキラピンクを、全財産をはたいて買った。


 目的のものを購入したので、その後はイトウの金で飲み食いしたあと、河川敷に来た。夏休みを終えられなかったあの男子高校生は、綺麗になった目で、今この花火を見ているだろうか。たぶんくっついてきているので見ているはずだ。僕が信じれば、僕の中ではその通りになる。

 早く帰って、このお面をあの子にあげよう。


 鍵をかけていない我が家に帰り、すぐ押し入れの前に行く。

「このお面、君に買ってきたんだ。気にいるかわからないけど……」

 人間の異性に物をあげたことなんて一度もないが、幽霊にならまだ、大丈夫だ。ただしこの言い方が合っているかは自信が皆無だ。

 ずっと微動だにしなかった女の子が、ぴくりと動く。話しかけるのは初めてだったから驚いただろう。顔を横に向けて、お面を見てくれた。見ただけだった。

「ほらー、やっぱプクプクイエローだよ」

「いや、一休宗純だったかもしれない」

 僕らが無意味なやり取りをしていると、女の子が首を180度回転させて、こちらを向いた。

 その顔には、目も鼻も眉毛もない。あるのは、必死に言葉を作ろうとしている口だけだった。何かを言おうとしている。その口を読む。

「ぶ、ラック、きち、が、いい?」


 判読した僕の横でイトウがアッチョンブリケをした。

「ホントに? ホントのマジで、そう言ってる?」

 疑っている。JK御用達のそのキャラを、僕が欲しがるわけがない。そうわかっているからイトウは抵抗することを諦めた。

「えーん、いいけど、大事にしてねぇ」

「すまん、ありがとう」

 ブラックキッチイちゃんのお面を足元に置くと、女の子はそれを手に取って顔につけた。

 お面をつけた女の子の表情はさっきよりもっとわからなくなってしまったが、張り詰めていた周辺の空気がふっと緩んだのがわかる。女の子は、自分の顔や表情を、気持ちを見せるのが、怖かったのだ。


「ねー、アタシの大事なブラックキッチイちゃんをアンタにあげたんだからさー」

 僕はまぶたを閉じる。


「アンタも、アタシの大事だからね!」


 イトウはこういうヤツだ。お面をつけた女の子の首筋に涙が光る。僕はお面を外し、女の子の目と鼻と眉毛と、子どもらしい泣き顔を確認して、そっと頭を撫でた。

「正座をやめていいよ。好きなものを好きになって、好きなことをしていいよ。好きなところへ、行っていいんだよ」


 念のために言うが、イトウは霊が見えない。さっきからずっと明後日の方向を見ながら「どーいうことー」と一人で疑問符を浮かべていた。







※以下センシティブな表現があります。閲覧注意※





FILE:03 2018年5月4日 ワイドショー


テロップ:衝撃の虐待死 母親らSNSに動画投稿か


司会:「……続いてのニュースです。蒼海県豊穣市で、4歳の譜鈴ぷりんちゃんが腹部を激しく蹴られ、内臓破裂で死亡しました。あまりに凄惨な、事件の実態が見えてきました」


【画面中央テロップ】4歳女児が内臓破裂で死亡/正座強要し「動けば暴行」/虐待の様子をSNSに投稿か


司会:「警察によりますと、母親はしつけと称し、譜鈴ちゃんに日常的に正座を強要。動いたり泣いたりするたびに暴行を加えていたといいます。さらに驚くべきことに、その様子が撮影され、SNSにアップされていました。周囲のママ友らも『いじり』として、この暴行を容認していた疑いがあります」


【画面右端テロップ】周囲は「いじられキャラ」と証言/娯楽化された暴力


司会:「幼い命が、なぜこれほどまで残酷に扱われなければならなかったのか。警察は、現場にいた人物の特定と、動画の拡散経路を詳しく調べています。……続いてのニュースです」


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