2-1 農家になるためには、農家でなければならない
「師匠! 追加書類、書き終わりました!」
「よし、これで農家として認めてもらえるはずだ!」
俺、稲穂タケルは、机いっぱいに広げた書類を前に胸を張った。
農地利用許可申請書。農業従事者登録申請書。営農計画書。農業再建プロジェクト実施計画書。
それから、実施計画書の提出に関する確認書。
さらに、その確認書を受理したことを確認するための確認票。
「……最後の三つ、絶対いらないだろ」
「でも、窓口の人が必要だって言ってましたよ?」
「必要だと言われたら作るしかない。会社員時代から変わらないな、この体質」
俺は書類の束を抱え、再び王国農政庁へ向かった。
受付の女性は、俺を見るなり微笑んだ。
「タケル様ですね。書類をお預かりします」
「よろしくお願いします」
「確認いたしますので、少々お待ちください」
しばらくして、女性が戻ってきた。
「申し訳ありません。農業従事者登録の資格が確認できませんでした」
「……はい?」
「農業を営んでいることを証明する書類が必要です」
「いや、だから! 農業を始めるための申請をしているんですよ!」
「はい。ですので、農業を営んでいることを証明してください」
「始めていないから申請しているんです!」
「お気持ちはわかります」
「本当にわかってます!?」
受付の女性は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「規則ですので」
俺は天井を見上げた。
ああ、神よ。
もし俺をこの世界に転生させたのがあなたなら、ひとつだけ聞きたい。
どうして俺を、異世界の役所にまで転生させたんですか。
会社を定年退職したんですよ?
もう稟議書も承認印も見たくなかったんですよ?
なのに、どうして第二の人生でも、書類の不備で門前払いを食らっているんですか!
「師匠、どうでした?」
役所の外で待っていたコメリアが、期待に満ちた顔で尋ねた。
俺は無言で書類を掲げた。
「また駄目だった」
「ええっ! こんなに書いたのに?」
「こんなに書いたから駄目なんだ。俺の人生、書類に埋もれて終わるんじゃないか?」
「じゃあ、田んぼは?」
「農家として認められていないから、正式な手続きができない」
「でも、叔父さんの田んぼなんですよね?」
その言葉に、俺は足を止めた。
「……そうだ」
「だったら、叔父さんの書類を使えばいいんじゃないですか?」
「使うって、どういう意味だ?」
「ほら、亡くなる前に農業をしていたんでしょう? その人の書類を見れば、何かわかるかもしれませんよ」
俺はコメリアを見た。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……君、たまに恐ろしいほどまともなことを言うな」
「たまに、は余計です!」
こうして俺たちは、亡き叔父の残した資料を調べることにした。




