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異世界米農家の憂鬱  作者: とんぷぅ
第1章 定年退職したら異世界でも農政に泣かされた
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1-6 異世界でも、改善活動は始まる

翌朝。


俺は納屋の壁に大きな紙を貼り出した。


表題は『農業再建プロジェクト・第一期計画』。


会社員時代に使っていた手法を、異世界の農業に応用するのだ。


第一項目。


『現状分析』


第二項目。


『問題点の洗い出し』


第三項目。


『改善策の立案』


第四項目。


『実行と検証』


そして、最後に赤い文字で書いた。


『書類作成のための書類を廃止する』


「師匠、これ何ですか?」


朝から手伝いに来たコメリアが、紙をのぞき込んだ。


「業務改善計画だ」


「ぎょうむ……?」


「無駄な作業を減らして、本当に必要な仕事に時間を使うための計画だよ」


「つまり、田んぼの仕事をする時間を増やすってこと?」


「その通り!」


「それなら、最初から田んぼに行けばいいんじゃないですか?」


「……」


俺は無言で第四項目を指さした。


『実行と検証』


「まずは実行だ!」


俺たちは田んぼへ向かった。


土を確認し、水路を調べ、苗の状態を見る。


確かに、やるべきことは山ほどある。


俺はノートを取り出し、作業時間を記録し始めた。


「水路の確認に三十分。苗の状態確認に二十分。雑草の処理に一時間……」


「師匠、何をしているんですか?」


「作業の見える化だ。どの作業にどれくらい時間がかかるか把握する」


「そんなことをしなくても、毎日田んぼに来ればわかりますよ?」


「いや、感覚だけじゃ改善できないこともあるんだ。記録を取れば、去年との比較もできるし、作業の無駄も見つけられる」


コメリアは少し考えてから、うなずいた。


「なるほど。じゃあ、私も手伝います!」


俺は笑った。


会社員時代には、改善案を出しても「前例がない」で終わることが多かった。


だが、ここでは違う。


少なくとも、目の前の少女は話を聞いてくれる。


この世界の農政を変えられるかどうかはわからない。


でも、自分の田んぼからなら始められる。


俺は空を見上げた。


「見ていろよ、王国農政庁。四十二年間、会社の無駄を見続けてきた俺が、本気を出してやる!」


その瞬間。


空から一枚の紙が舞い降りてきた。


『農地利用許可申請に関する追加書類のお知らせ』


俺は紙を受け取った。


そこには、こう書かれていた。


『農地利用許可申請の審査にあたり、農業再建プロジェクトの実施計画書をご提出ください』


「……」


俺は紙を握りしめた。


「誰だ! 俺の改善計画を嗅ぎつけたのは!」


コメリアが紙をのぞき込む。


「師匠、これ、いつまでに出せばいいんですか?」


「三日以内だ」


「じゃあ、田んぼの仕事は?」


俺は空を見上げた。


青い空。


白い雲。


黄金色の稲穂。


そして、異世界のどこかで今日も増え続けている書類。


「……コメリア」


「はい?」


「この世界には、魔王より恐ろしいものがいる」


「えっ、ドラゴンですか?」


「違う」


俺は静かに答えた。


「前例主義だ」


こうして、稲穂タケルの異世界農業改革は始まった。


ただし、第一の敵は害虫でも病気でもない。


申請期限まで、あと三日。


タケルはまだ、農家として正式に認められていなかった。

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