1-3 農政庁の窓口は、冒険者ギルドより手ごわい
翌朝、俺は王国農政庁を訪れた。
建物は立派だった。
白い石造りの庁舎に、金色の紋章。
入口には『農家と食卓をつなぐ豊かな未来』と書かれた横断幕が掲げられている。
「うん、理念は立派だ」
俺はうなずいた。
「問題は中身だな」
受付の女性に声をかける。
「すみません。相続した農地で米を作りたいんですが」
「農地利用許可申請はお済みでしょうか?」
「まだです」
「では、農業従事者登録が必要です」
「はい」
「その前に、営農計画の事前審査が必要です」
「なるほど」
「なお、営農計画の事前審査には、農地利用許可申請の受付番号が必要です」
俺は黙った。
「……すみません。今、何と?」
「農地利用許可申請の受付番号が必要です」
「でも、その申請をするには農業従事者登録が必要なんですよね?」
「はい」
「その登録には、営農計画の事前審査が必要なんですよね?」
「はい」
「その事前審査には、農地利用許可申請の受付番号が必要なんですよね?」
「はい」
俺は天井を見上げた。
「これ、鶏が先か卵が先かって話じゃないよな?」
「申し訳ございません。規則ですので」
出た。
会社員時代に何百回聞いたかわからない言葉。
規則ですので。
前例がありませんので。
担当部署が違いますので。
「では、どうすればいいんですか?」
「まず、農地利用許可申請の受付番号を取得してください」
「その申請を出すための登録が必要なんですよね?」
「はい」
「登録するには事前審査が必要なんですよね?」
「はい」
「事前審査には受付番号が必要なんですよね?」
「はい」
「……」
俺は深呼吸した。
「すみません。ここに、話の通じる人はいませんか?」
受付の女性はにっこりと笑った。
「ご予約いただければ、担当者との相談が可能です」
「その予約には何が必要ですか?」
「事前相談予約票です」
「その予約票はどこでもらえますか?」
「担当者との事前相談でお渡ししております」
俺は静かに書類を閉じた。
「なるほど。つまり、相談するためには相談しなければならない」
「ご理解が早くて助かります」
「理解したくなかったよ!」




