1-2 相続したのは田んぼと、謎の書類だった
目を覚ますと、そこは見渡す限りの田園風景だった。
青い空。そよぐ風。遠くの山々。
そして、目の前には黄金色の稲穂が揺れる田んぼが広がっていた。
「おお……!」
俺は思わず立ち上がった。
「これだよ、これ! 俺が求めていた第二の人生!」
近くに建っていた小屋には、農具が一式そろっていた。水車もある。納屋もある。土の匂いが心地いい。
そして、小屋の机には一通の手紙が置かれていた。
『稲穂タケル殿へ。
あなたはこのたび、亡き叔父より農地三ヘクタールおよび農業用施設を相続されました。
ただし、農地の利用にあたっては、王国農政庁の定める規則に従ってください。
詳細は別添書類をご確認ください』
俺は手紙の横に積まれた書類を見た。
一冊。
二冊。
三冊。
……十七冊。
「別添って、これ全部かよ!」
しかも、表紙にはこう書かれていた。
『農地利用許可申請書』
『農業従事者登録申請書』
『作付け計画届』
『農業用水利用許可申請書』
『共同水利組合加入届』
『農産物販売業者登録申請書』
『農業用魔導具使用許可申請書』
『農地相続に伴う営農継続意思確認書』
『営農継続意思確認書の提出に関する確認書』
「最後のやつ、必要か!?」
俺は思わず叫んだ。
「営農を続ける意思があるか確認する書類を提出する意思があるか確認する書類って、何段階確認すれば気が済むんだ!」
だが、書類の山はまだ続いていた。
『申請書類一式の提出に関する事前相談予約票』
「予約するために予約票が必要なのかよ!」
会社員時代、俺は業務改善プロジェクトを何度も担当してきた。
会議のための会議を減らし、承認ルートを短縮し、誰も使わない報告書を廃止する。
そんな地味な改善で、部署の残業時間を削ってきた男だ。
だからこそ、わかる。
この書類の山は、ただ多いだけではない。
同じ情報を、違う様式で、違う窓口に、何度も提出させる構造になっている。
「……なるほど。敵は魔王じゃない」
俺は書類の山を見据えた。
「業務プロセスだ」




