4-1 補助金申請書が稲より育つ国
翌朝、稲穂タケルは机の上に積まれた書類を見て、深いため息をついた。
昨日の市場で、米は少しだけ動き始めた。
グラノー商会は出荷を再開し、農政局も流通実態の調査を検討すると約束した。
小さな一歩だった。
しかし、その一歩を踏み出した代償として、タケルの机には書類の山が築かれていた。
「コメリア。これは何だ?」
「農業支援制度の案内です」
「こっちは?」
「その支援制度を利用するための申請書です」
「こっちは?」
「申請書を提出するために必要な事業計画書です」
「この分厚い冊子は?」
「事業計画書の書き方を説明した手引きです」
「この封筒は?」
「手引きの訂正通知です」
タケルは目を閉じた。
「米を作る前に、紙を作る農家になりそうだ」
「紙は豊作ですね」
「米の豊作も、このくらい歓迎してくれないものかな……」
机の上には、王国農政局が発行した支援制度の案内が並んでいた。
農業機械導入支援金。
新規就農者経営基盤強化補助金。
共同乾燥施設整備助成金。
スマート農業推進交付金。
環境保全型農業奨励金。
農地集約化推進支援金。
地域農業活性化事業補助金。
そして、それらを利用するための専門家相談費用助成金。
「……待てよ」
タケルは最後の冊子を持ち上げた。
「専門家に申請書を作ってもらう費用まで、支援してくれるのか?」
「そうみたいです」
「親切だな」
「いい制度じゃないですか」
「うん。いい制度だ。だが、ちょっと待ってくれ」
タケルは、申請書の束を机に並べ直した。
「そもそも、なぜ専門家に頼まないと申請できないんだ?」
「制度が複雑だからでは?」
「その複雑さを解消する制度はないのか?」
「……専門家相談費用助成金?」
「無限ループじゃないか!」
タケルの叫びが、朝の農場に響き渡った。




