↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
ルシア&戦士ダグラス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/110

第96話:勇者隊の食卓

 村人に案内された空き家へ荷物を運び込んだあと、俺は分けてもらった食材を使って夕飯を作っていた。

 こちらの家を使うのは、俺とダグラスとユリウスの三人だ。

 リリアたちは、もう一軒の空き家を使うことになっていた。


 野菜を切って鍋へ放り込み、肉にも軽く下味をつけていく。


「……手慣れてんなぁ」


 声がして振り返ると、ダグラスが壁際に腕を組んで立っていた。


「まぁ、ガキの頃からずっと作ってるからな」


「毎日か?」


「だいたいな」


「そりゃ慣れるわけだ」


 ダグラスが感心したように、俺の手元を見る。


「何か手伝うか?」


「じゃあ、そこの皿を出しといてくれ」


「おう」


 ダグラスが棚へ向かったところで、俺も気になったことを聞いてみた。


「そういや、お前らのところは誰が料理してるんだ?」


「うちか? 宿なら、出されたもんを食ってるな。野営する時は……まぁ、手が空いてる奴だ」


「決まった担当はいねぇのか」


「強いて言えば、エステルですね」


 荷物を整理していたユリウスが、こちらへ顔を向けた。


「ただ、彼女も料理が得意というわけではありませんので。焼くか煮るかして、塩で味をつける程度です」


「まぁ、食えりゃ十分だしな」


 ダグラスも皿を並べながら頷く。


「それに、ゆっくり飯を作ってられねぇ時もある」


「任務が忙しいのか?」


「任務だけなら、まだいいんだけどなぁ……」


 ダグラスが、何とも言えない顔でユリウスを見る。

 ユリウスも苦笑していた。


「……ルシアさんか?」


「分かるだろ?」


「まぁ、さっきのを見たあとだとな」


 日が落ちかけているのに、森へ向かおうとしたルシアを思い出す。

 止められたら、今度は一人で行こうとしていたくらいだ。


「普段から、あんな感じなのか?」


「あんな感じだ。困ってる奴を見つけると、まず足が止まる」


 ダグラスは空いた椅子へ腰を下ろした。


「前にもよ、任務帰りに荷車が泥にはまってるのを見つけてな」


「あぁ、あるよな。雨のあととか」


「で、ルシア様が言うわけだ。『勇者たる者、困っている民を見過ごすわけには参りません』って」


「そりゃ、手伝ってやるだろ」


「おう。俺も、荷車を持ち上げるくらいはどうってことねぇよ」


 ダグラスが頷く。


「でも、それで終わらねぇんだ」


「まだ何かあったのか?」


「荷物がずれちまってたから、積み直してやった。そしたら、今度は『村までお運びしましょう』だ」


「……村まで?」


「着いたら着いたで、倉庫に運び込むのまで手伝うんだぞ。俺たちも、ようやく任務から帰ってきたところだったのによ」


「私も、あの時は何往復かしましたね」


 ユリウスが荷物を置き、話に加わった。


「最後は、倉庫の奥にあった荷物の整理までしていました」


「なんでそこまで……」


「新しく運び込んだ分を、置く場所がありませんでしたので」


「……なるほどな」


 手伝い始めたら、途中でやめるのも気になるんだろう。

 気持ちは分かるが、任務帰りにそれは疲れる。


「村の人たちは喜んでいたんですけどね。私たちは、宿に着くなり寝てしまいました」


「飯も食わずにな」


 ダグラスが付け加えると、ユリウスも小さく頷いた。


「翌朝、エステルに起こされるまで、誰も起きませんでした」


「ルシアさんもか?」


「えぇ。ご本人も、一緒に荷物を運んでいましたから」


「だったら、少しは休もうって気になるんじゃねぇのか?」


「なると思うか?」


「…………」


 夕方のやり取りを思い出す。


「……ならねぇんだろうな」


「そういうことだ」


 ダグラスが、やれやれと首を振った。

 俺は鍋をかき混ぜながら、ユリウスにも目を向ける。


「お前も大変なんだな」


「そうですね……休みの日でも、出掛けられるとなかなか戻っていらっしゃいませんし」


「休みの日まで?」


「教会へ挨拶に行かれただけのはずが、治療を待っている方々を見つけて、そのまま手伝い始めてしまったこともありました」


「……聖女様らしいな」


「えぇ。そこは、私も尊敬しています」


 ユリウスは頷いてから、少し困ったように笑った。


「ただ、私が様子を見に行くと、『ちょうどよかったです。次の方をお呼びしてください』と」


「そのまま手伝ったのか」


「放って帰るわけにもいきませんので。エステルも治療を手伝っていましたし」


「俺は、戻ってこねぇ三人を探す羽目になった」


 ダグラスが口を挟む。


「見つけた時には、揃って昼飯を食い損ねてやがったからな。パンを買って持ってったよ」


「気が利くじゃねぇか」


「食わねぇと、こっちまで倒れちまうだろ」


「それは本当に助かりました」


 ユリウスが、素直に礼を言う。


「ですが、ルシア様は『私はあとでいただきます。先に皆さんで』と仰って……」


「で、俺が食えって言うと、『勇者が自分の食事ばかり気にしていては』だ」


「……そこでも勇者か」


「勇者だろうが腹は減るでしょうが、って言ってやった」


 ダグラスが、少し呆れたように息を吐く。


「あの人、自分のことになると、後回しでいいと思ってんだよ」


「私たちには、休むよう仰るんですけどね」


 ユリウスも頷いた。


「でも、そのあとで『私一人で行ってきます』となりますから」


「……さっきも言ってたな、それ」


「えぇ。今日に限ったことではありません」


 ユリウスの答えに、ダグラスが大きく頷く。


「それで、はいそうですかって寝られると思うか?」


「……まぁ、気になるよな」


「だろ? 結局、俺たちもついて行くんだよ」


 なるほど。

 ルシア自身は、誰かに押しつけているつもりはないんだろう。

 だが、一人で出掛けようとするたびに、こいつらも放っておけなくなるらしい。


「お前がさっき、あんなに慣れた感じで担いでた理由が分かったよ」


「あそこまでしねぇと、止まらねぇ時もあるんだ」


「ルシア様には、私たちが止める理由も、もう少し考えていただきたいですね」


 ユリウスの声は穏やかだったが、ダグラスは何度も頷いていた。


「本当だよ。助けたいのは分かるけどなぁ……」


「お前らも、色々あるんだな」


「そういうこった。だから、食える時にはちゃんと食っときてぇんだよ」


 ダグラスが、鍋へ視線を向ける。


「……今日は、うまい飯が食えそうだな」


「まだ出来てねぇから、もう少し待てよ」


 俺がそう返し、鍋へ蓋をしようとした、その時だった。


 ――バンッ!


 勢いよく扉が開いた。


「カイルさんっ! 一大事ですっ!」

「大変っ!」


 飛び込んできたのは、リリアとセシルだった。


「な、なんだ!?」


 俺は蓋を置いて、二人へ向き直る。

 ダグラスも椅子から立ち上がった。


「モンスターかっ!?」


 その言葉に、俺も部屋の隅へ目を向ける。

 そこには、買ったばかりの大槌が立てかけてあった。

 まさか、また村に入り込んできやがったのか?


「村のどちらですか? お二人は、ここで待っていてください。私たちが――」


 ユリウスも、すぐに扉へ向かおうとする。

 だが、その前にリリアが慌てて首を振った。


「ち、違うんですっ! モンスターが来たとか、そういうことじゃなくてっ!」


「……じゃあ、何の一大事だよ?」


 俺が聞き返すと、セシルが一歩前へ出た。


「私たちの夕飯だよっ!」


「「「……夕飯?」」」


 俺とダグラスとユリウスの声が重なった。

 さっきまで身構えていた三人が、そのまま動きを止める。


「……夕飯が、どうしたんだよ」


「温めた黒パンと、炙って塩をつけた乾燥肉と、サラダだけなんだよっ!」


 セシルは、この世の終わりみたいな顔をしていた。

 俺はしばらく、その顔を見つめる。


「……それで?」


「それでじゃないよっ!」


 セシルが、さらに詰め寄ってきた。


「今日の夕飯、それだけなんだよっ!」


 その隣では、リリアまで困り果てたような顔で何度も頷いている。

 二人とも、冗談を言っている様子はまったくない。


 さっきまでモンスターが襲ってきたのかと思って身構えていた俺は、そんな二人の真剣な表情を見比べながら、呆れたように息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。