第92話:勇者の隣に立つ武器
翌朝。
俺たちは朝一番で宿を出ると、馬車が集まる広場へ向かった。
広場には、すでに何台もの馬車が並んでいる。
荷物を積み込んでいる業者や、行き先を確認している旅人の姿も多かった。
俺は近くにいた業者へ声をかける。
「すいません。ハルゼン行きの馬車を探してまして」
「あぁ、ハルゼンなら……」
業者は広場の奥へ視線を向けると、片手を上げた。
「あっち側にあるよ」
「ありがとうございます」
指差されたほうを見る。
広場の端に、何台かの馬車がまとまって停まっていた。
俺たちはそちらへ向かう。
ハルゼン行きらしい馬車の前に一人の業者が立っていた。
リリアがその男へ声をかける。
「すいません。四人でハルゼンまでお願いします」
「あいよ。一人大銅貨五枚だ」
「分かりました」
そう言われると、リリアは懐から革袋を取り出した。
中から大銅貨を二十枚取り出し、そのまま業者へ手渡す。
「はい。四人分です」
「確かに」
業者は受け取った大銅貨を確認すると、馬車の荷台を軽く指差した。
「好きなところに乗ってくれ」
俺たちは言われた通り、馬車へ乗り込んだ。
荷物を置き、適当な場所へ腰を下ろす。
すると、向かいに座ったリリアが俺の腰元を見た。
「そういえばカイルさん……今、武器が何もないですよね?」
「あぁ……そうだったな」
借りていた大鉈は、マンティコアとの戦いで粉々になった。
今は腰に下げる武器もない。
「ハルゼンに着いたら、またギルドで何か借りないといけませんね」
「そうですね。さすがに素手のままというわけにもいきませんし」
ミナも俺の腰元を見ながら頷いた。
「そうだなぁ……」
俺は少し考える。
「今度は大槌とか借りたいな」
「…………」
「…………」
「…………」
三人が揃って黙った。
「なんだよ」
リリアが露骨に残念そうな顔をする。
「だって……棍棒から大鉈になって、ちょっとかっこいいかもっ! って思ってたのに……」
「ん?」
「また原点回帰ですか……」
「大槌と棍棒は別物だろ!」
「鈍器じゃないですかっ!」
「分類が雑すぎる!」
すると、セシルまで不満そうに俺を見る。
「普通は大剣とかを、かっこよく振り回すんじゃないの……?」
「普通ってなんだよ……」
「カイルなら出来そうなのに」
セシルは少し肩を落とした。
「せっかく大鉈でちょっと格好良くなったのに……次が大槌……」
「そんなに駄目か!?」
「私は悪くないと思いますよ?」
ミナの言葉に、俺は思わずそちらを見る。
「おっ、分かってるじゃねぇか」
「ただ、大鉈よりは明らかに見栄えが落ちますね」
「結局そっち側かよ!」
「戦うところを後ろから見ている私たちの気持ちも考えてください」
「知らねぇよ!」
リリアとセシルが揃って頷いている。
なんでこいつら、俺の武器にそんな期待してんだよ……。
「でもなぁ……マンティコアみたいに身体を硬質化出来るモンスター相手だと、生半可な斬撃より打撃に特化した武器のほうが通しやすいだろ」
「…………」
「見た目なんて後々でいいんだよ。まずはちゃんと効く武器じゃないと意味ねぇし」
そう言うと、リリアがなんとも言えない顔で俺を見る。
「カイルさん……」
「なんだよ」
セシルも少し悔しそうに腕を組んだ。
「……夢はないけど、的は射てる……」
「だろ?」
「カイルのくせに……」
「なんでそこだけ余計なんだよ!」
ミナも小さく頷く。
「悔しいですけど、理屈としては正しいですね」
「なんでお前まで悔しがってんだよ……」
「でも、やっぱり大剣のほうが格好いいと思います」
「結局見た目じゃねぇか!」
俺がそう返すと、三人は揃って頷いた。
「「「はい」」」
「そこだけ息ぴったりになるなよ!」
まったく。
好き勝手言いやがって。
俺は呆れながら、先日のマンティコアとの戦いを思い出した。
「しかし、勇者の……いや、魔剣士の魔導剣だったか。あれはほんとにすごいな」
「え?」
「俺が使っても絶対斬れなさそうな、あの硬質化した身体を普通に斬り裂いてたしよ」
マンティコアのあの硬さは、今思い出しても異常だった。
俺がどれだけ力を込めても、まともな剣じゃ刃が通る気がしない。
「あれを発動させるのに、どれだけ魔力使うと思ってるんですかぁ。もう……」
リリアが呆れたように言う。
だが、そこで何かを思い出したのか、俺の顔をじっと見た。
「……なんだ?」
「いえ……」
リリアは少しだけ笑う。
「『誰かを救うのに、英雄である必要なんかねぇんだよっ!!』でしたっけ?」
「…………」
一瞬で、顔が熱くなった。
「お前……聞こえてたのかよ」
「聞こえてましたよ?」
リリアは楽しそうに笑った。
「まぁ……さすがは第38勇者隊の英雄様ですね」
「やめろよ、恥ずかしい……」
リリアは笑っている。
その隣では、ミナまでどこか嬉しそうな顔で俺を見ていた。
「……なんだよ、ミナまで」
「いえ。あの時は、本当に頼もしかったなと思って」
「……お前まで蒸し返すなよ」
「からかってるんじゃありませんよ?」
ミナは少しだけ笑った。
「カイルさんがいてくださって良かったです。それくらいは、言わせてください」
「……そういうのも、恥ずかしいんだって」
すると、セシルだけがきょとんとした顔で俺たちを見る。
「……え?」
「ん?」
「私が気絶してる間に何があったの?」
「あっ、それはですね」
リリアが嬉しそうにセシルへ身を寄せる。
「実はね……」
「やめろやめろっ! 恥ずかしいからっ!!」
俺が慌てて止めると、ミナがセシルへ小さく頷いた。
「では、あとでお話ししますね」
「お願い」
「あとでも駄目だからなっ!?」
その後も、馬車の中ではくだらない話をしながら時間を潰した。
リリアとミナがさっきの話を蒸し返そうとするたびに止めたり、今度は何を食べるだの、そんな話をしているうちに馬車は進んでいく。
そして、昼を少し過ぎた頃。
「ハルゼンに着いたぞー!」
御者の声が聞こえた。
「おっ、着いたか」
俺たちは荷物を持って、順番に馬車から降りる。
リリアは周囲を軽く見回すと、慣れた様子で歩き始めた。
「それじゃあ、とりあえずギルドに顔を出してみましょう」
「…………」
セシルとミナが顔を見合わせる。
「リリア、前はギルドに行くのあんなに嫌がってたのに……」
「そうですよね。依頼があったらどうしようって、毎回嫌そうな顔をしていたような……」
「ふふっ」
リリアは振り返ると、ニヤリと笑った。
「大丈夫大丈夫。うちにはカイルさんがいるから」
「……やれやれ」
完全に俺を戦力として数えてやがる。
「とりあえず、ギルドで武器借りるか。デカい大槌あればいいけど」
「…………」
リリアの笑顔が、すっと消えた。
セシルは露骨に肩を落とし、ミナは困ったように眉を下げる。
「……まだ諦めてなかったんですか」
「本気だったんだ……」
「せめて、実物を見てから決めませんか……?」
「なんだよ。三人して」
さっきまで俺を頼りにしていたくせに、武器の話になった途端これだ。
「とりあえず見に行くだけだろ」
「そのまま借りそうだから言ってるんですっ!」
リリアの声を聞き流しながら、俺はギルドへ向かって歩き出した。
ギルドへ着くと、リリアは慣れた様子で受付へ向かい、手短に到着報告を済ませた。
戻ってきたリリアに、俺は声をかける。
「王都からの依頼はあったか?」
「いえっ!」
リリアは、どこか嬉しそうに首を振った。
「今は高ランク勇者の方が受けてくださってるそうなので、間に合ってるそうです」
「……やっぱ、ここまで北上すると位の高い勇者が多くなってくるんだなぁ」
俺はそうぼやきながら、ギルドの中を見回した。
依頼書が貼られた掲示板の前には、何人もの冒険者が立っている。
どいつも静かに依頼書を吟味していて、無駄に騒いでいる奴もいない。
装備も使い込まれているものばかりだ。
剣を腰に下げたまま壁にもたれている男もいれば、傷だらけの鎧を着た女もいる。
酒を飲んで騒いでいる奴すら、ほとんど見当たらない。
「……なんか、今までの街と雰囲気違うな」
「北へ行くほど、強いモンスターも増えますからね」
リリアが小さく答える。
「この辺りまで来ると、依頼を受ける人たちもそれなりの実力がないと危ないんだと思います」
「なるほどな……」
掲示板の横には、討伐依頼らしい紙が何枚も並んでいる。
ちらっと見ただけでも、Aランクの文字がいくつか目に入った。
「……物騒になってきたなぁ」
第2王都を越えてから、少しずつ北へ進んできた。
ここから先は、本当に今までとは違うのかもしれない。
周りにいる冒険者たちの隙のない様子を見ていると、嫌でもそんなことを思わされた。
さてと……。
周りを眺めるのはこのくらいにして、俺は受付へ向かった。
「すいません。ちょっと武器をお借りしたいんですけど」
「はい」
受付の女性職員が愛想よく笑う。
「貸出料金は銀貨七十枚です。どのような武器をお探しですか?」
「…………」
思わず顔が引き攣った。
「……七十枚……ベルクスとはずいぶん違いますね……」
「あはは……ベルクス周辺と比べると、モンスターの強さも違いますからね……」
「ちなみに……紛失とか破損した場合は?」
俺が恐る恐る尋ねると、職員も少し困ったような笑みを浮かべた。
「その場合は、これまでの功績などにもよりますけど……」
一度、言葉を区切る。
「紛失や破損の場合、ご負担いただく補償額は、基本的に金貨二枚ほどです」
「…………」
今度こそ言葉が出なかった。
借りるだけで銀貨七十枚。
壊したら金貨二枚。
北に来ただけで、武器の値段まで一気に物騒になってやがる。
受付の職員は、気を取り直したように笑顔を浮かべた。
「それで、どのような武器をご所望ですか? 体格的に見て、戦士様ですよね?」
「まぁ……そんな感じです」
「でしたら、大剣か大斧あたりが人気ですよ?」
その言葉を聞いた瞬間、リリアが横から身を乗り出した。
「カイルさんっ! やっぱり大剣にしましょうっ!」
「いや、ここは大斧……」
今度はセシルまで反対側から口を挟んでくる。
「…………」
俺は二人を無視した。
「……すいません。大槌みたいな打撃武器とかないですか?」
「大槌……ですか」
職員は少し考える。
「申し訳ありません。あいにく、今は貸し出せるものがございません。大剣か大斧でしたら、ご用意出来ますが……」
「そうですか……」
やっぱり人気がないせいなのか、貸出用すら置いてないらしい。
すると、リリアとセシルがすぐに食いついた。
「カイルさんっ! じゃあ大剣で!」
「大斧」
「お前らはちょっと黙ってろ」
俺がそう返すと、受付の職員が少し困ったように笑った。
「ただ……勇者様御一行に連なる方でしたら、大剣や大斧を選ばれる方が多いですよ」
「そうなんですか?」
「はい。勇者様に同行される冒険者の方は、それだけでも周囲から注目されますので」
「……なるほど」
勇者に同行を許されているってだけで、普通の冒険者とは見られなくなるらしい。
勇者に選ばれた実力者。
そんな肩書きが、勝手について回るってことか。
「……一応、その大剣と大斧ってどんなやつなんです?」
俺が尋ねると、受付の職員はぱっと愛想の良い笑顔に戻った。
「はい。こちらになります」
そう言って、カウンター奥の壁を指差す。
そこには、一振りの大剣と大斧が飾られていた。
「いかがでしょうか?」
「カイルさんっ! あの大剣にしましょうっ!」
「いやっ! あっちの大斧が良いっ!」
「ちょっ、お前ら……」
リリアが右手で俺の肩を掴み、セシルも反対側からぐいぐいと揺さぶってくる。
俺は揺さぶられながら、壁に飾られた大剣を眺めた。
……なんか、村にあった子供向けの絵本に出てくるような、ゴテゴテした大剣だな……。
刃にも柄にもやたらと飾りが付いていて、妙に派手だ。
ダグラスが持ってた、あのシンプルな黒鉄の大剣とは随分違う。
強そうではある。
強そうではあるんだが……。
「……これ、必要以上に重くなってないか?」
「そこじゃないですっ!」
「見るところが違う……」
俺は顎に指を当てて、壁に飾られた二つの武器を見比べた。
「うーん……どうするか」
「大剣ですっ!」
「斧っ!」
左右から即答が飛んでくる。
すると、今まで少し離れて見ていたミナまで口を挟んできた。
「いっそ、素手でっ!」
「無茶言うなよ……」
「武器代はかかりませんよ?」
「その分、お前の治癒魔法の世話になるだろ」
「…………」
ミナは少し考えてから、首を振った。
「それは困りますね。やっぱり、きちんと武器を選んでください」
「最初からそのつもりだよ!」
「ただし、次は簡単に壊れないものにしてくださいね。戦っている途中で武器がなくなるのは、見ている私も怖いですから」
「……分かってるって」
冗談を言っていた時とは違う声に、俺も少しだけ真面目に頷いた。
俺は受付の職員へ向き直る。
「すいません。ちょっと市場で、なんか自分に合う武器を探してみますよ」
「あら、そうなんですか?」
職員は少し意外そうな顔をした。
「構いませんが、実費で購入となると……この辺りで扱っている武器でしたら、金貨十枚くらいはしますけど、大丈夫ですか?」
「……そんなにするのか……」
思わず壁に飾られた大剣と大斧を見る。
まぁ、リリアとセシルの反応を見る限り、どっちも人気の高い武器種みたいだしな。
見た目まで立派なら、そりゃ値段もするか。
「……まぁ、そこは掘り出し物探しと、街の見物も兼ねて」
「そうですか……」
職員は少し残念そうに笑った。
「分かりました。またご入用の際は、お声がけください」
「ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げた。
ギルドを出た俺たちは、そのまま街の大通りへ出た。
少し歩くと、道の脇に立てられた案内看板が目に入る。
「武器市場……こっちか」
矢印の向きを確認し、そのまま一直線に歩き出した。
「……カイルさん」
「ん?」
後ろから、リリアが少し不安そうな声をかけてくる。
「アテなんかあるんですか? 職員さんが言うとおり、本当に金貨十枚以上しますよ?」
「そうだなぁ」
すると、セシルも横から口を挟んだ。
「パーティの今の総資金、金貨二十枚に届かないくらい……大丈夫なの?」
「最近、ようやく懐が温かくなってきたのに、急にまた寒くなっちゃうのは嫌ですよ?」
ミナまで心配そうな顔をしている。
「分かってるよ」
「ちなみに、いくらくらいで考えてるんですか?」
「それは、物を見てみないとなぁ……」
「では、買う前に値段を教えてくださいね」
「勝手に金貨十枚も使ったりしねぇって」
「そう言ってくださるなら安心です」
ミナは頷いてから、少しだけ笑った。
「私も探しますよ。カイルさんに合いそうで、ちゃんと買える値段のものを」
「……おう。頼む」
「大剣も候補に入れていいですよね?」
「お前もまだ諦めてねぇのかよ……」
三人が不安になるのも当然だ。
武器一本で金貨十枚。
俺たちの持っている金の半分以上が、一気に吹き飛ぶ計算になる。
かといって。
俺だって、値切ったところで金貨十枚が金貨九枚と銀貨五十枚くらいにしかならないような交渉をする気はない。
「まぁ、ちょっと見てみようぜ」
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」
そんな話をしながら歩いていると、やがて金属を叩く音があちこちから聞こえてきた。
武器市場に入ったらしい。
通りの両側には、剣や槍、斧なんかを店先に並べた鍛冶屋が何軒も連なっている。
俺はその中の一軒へ目を向けた。
「……ここ、入ってみるか」
俺たちはそのまま、武器市場に連なる鍛冶屋の一軒へ入った。
「いらっしゃい。何を探してるんで?」
中に入ると、屈強な身体をした店主が愛想よく俺たちを迎えた。
「あー……」
俺は店の中をざっと見渡す。
壁には豪奢な大剣や、シンプルだが高級感のある直剣。
その横には、人の背丈ほどもありそうな大斧まで並べられている。
値札を見ると、どれも金貨十枚以上。
やっぱり、ギルドの職員が言っていた通りか。
「あー……すいません。大槌を探してて……」
「……大槌?」
さっきまで愛想よく笑っていた店主の顔が、少し曇った。
「大槌ねぇ……最近は滅多に作らなくなったな」
「そうなんですか?」
「あぁ。不人気武器の筆頭だからなぁ……」
「…………」
後ろから、リリアとセシルの視線が突き刺さった。
振り返らなくても、どんな顔をしているのか大体分かる。
だから言うな。
何も言うなよ。
「実は、この鍛冶屋に入ったのにも理由があるんです」
「ん?」
店主が興味深そうに俺を見る。
「……へぇ。武器防具屋じゃなくて、鍛冶屋に直接来る理由か」
店主は腕を組んだ。
「なんだ? 言ってみろ。言っとくが、値引きにはあんま応じる気はないぞ」
「いや、値引きしてほしいわけじゃなくて……」
俺は店の奥へ目を向けた。
そこでは、職人が真っ赤に熱した鉄を大槌で叩いている。
――ガンッ! ガンッ!
重い音が店の中へ響いていた。
マンティコアみたいに身体を硬質化する奴が相手なら、生半可な斬撃より、重さごと叩きつけたほうが効きそうだ。
それに、俺の場合は下手な剣だと力任せに振っただけで、また武器のほうが先に壊れかねない。
だったら、ああいう大槌はどうだろう。
刃こぼれを気にせず使えるなら、俺には合っているかもしれない。
俺の力で振り回しても持つかどうかは、職人に聞いてみねぇと分からんが。
そして何より。
武器として作られたモノが高いなら、別に武器として作られた物じゃなくてもいい。
「……鍛冶屋が武器を打つ時に使う大槌を、譲っちゃくれないか……?」
「…………」
店主の肩が、ガクッと落ちた。
「……待て待て」
「はい?」
「お前、武器を買いに鍛冶屋へ来たんじゃなくて……鍛冶道具を買いに来たのか?」
「まぁ……そうなりますね」
「しかも新品じゃなくて、使い古しを譲ってくれって話か?」
「出来れば、そのほうが安いかなと」
「…………」
店主はしばらく俺の顔を見つめた。
「そんな客、初めて見たぞ……」
後ろでは、リリアとセシルが揃って頭を抱えていた。
その横で、ミナは工房にある大槌へ目を向けている。
「……値段次第では、悪くないかもしれませんね」
「ミナっ!?」
リリアが振り返った。
「使えるものなら、ですよ。武器一本で金貨十枚も減るよりは、私も助かりますから」
「ほら。ミナは分かってるじゃねぇか」
「ただし、安いからって傷んだものを買わないでくださいね?」
「分かってるって」
ミナは俺の返事を聞いてから、店主へ向き直った。
「すみません。使い古しでも、まだ十分に使えるものはありますか?」
「……お嬢ちゃんまで、本気なのか?」
「この人は本気みたいですから、せめてそこだけは確認しておこうかと」
「せめてってなんだよ……」
店主は俺とミナを交互に見たあと、もう一度、大きく肩を落とした。




