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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第85話:二振りの聖剣

「その人から離れろぉぉぉぉぉっ!!!」


 怒号とともに、リリアが地面を蹴った。

 踏み込むたびに地面が抉れ、土が跳ね上がる。


「……っ!?」


 なんだよ、あの速さ……!

 身体から溢れ出す魔力も、あの表情も、いつものリリアとはまるで違う。


 マンティコアは迫り来るリリアを迎え撃とうと、前足を振り上げた。

 爪の先まで、どす黒い魔素に覆われている。


 リリアが右手の聖剣を振るった。


 ゴンッ!!!


 剣と前足が激突し、凄まじい衝撃が辺りに広がった。


「ぐっ……!」


 いつものリリアなら、あの一撃で弾き飛ばされていたはずだ。

 だが、リリアは踏みとどまっていた。


「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 叫び声とともに、右手の聖剣がさらに輝きを増す。


 ギギギッ!!


「グォッ!?」


 マンティコアの前足が、押し返された。

 大きく体勢を崩したマンティコアだったが、すぐさま反対側の前足を振り上げる。


 リリアを叩き潰すつもりかっ!


「リリアッ!!」


 だが、リリアは避けようとしなかった。

 左手に握られた聖剣が、白金色に輝く。

 同時に、折れているはずの左腕まで光に包まれた。


「……っ!?」


 リリアの左腕が、鞭のようにしなった。


 ザザザシュッ!!


「グォォッ!?」


 一瞬だった。

 振り下ろされるはずだった前足の爪が、次々と斬り落とされていく。

 さらに聖剣が前足を何度も斬りつけ、血が噴き出した。


「グォォォッ!!」


 マンティコアが後ろへ跳んだ。

 リリアの左腕を警戒しているのか、大きく距離を取る。


「……はぁ……はぁ……!」


 リリアの顔が、苦痛に歪んでいた。

 それでも、全身を包む白金色の魔力は一向に衰えない。


 ……おい。

 まさか、お前……。


 俺は左腕を見て、顔をしかめた。

 魔力で、折れた腕を無理やり操ってんじゃねぇだろうな……?


「リリア……無茶な戦い方はやめろ……」


 俺は右手を地面につき、どうにか身体を起こそうとした。

 だが、リリアはマンティコアを睨みつけたまま、静かに口を開いた。


「……私、本当に勇者なんてやりたくなかったんですよ……でも」


 リリアの身体から、さらに魔力が噴き出した。


「セシルやミナ……それにカイルさんを守れるんだったら、別に勇者も悪くないんじゃないかって……」


「……リリア……」


 リリアが、ちらりと俺のほうを見た。

 ほんの一瞬だけ、笑いかけてくる。

 だが、すぐにマンティコアへ向き直った。


 ドンッ!!


 リリアが地面を蹴る。

 一気に距離を詰めると、右手の聖剣を振り下ろした。


 ガキィンッ!!


 マンティコアが前足で受け止める。

 そこへ、左手の聖剣が横から斬り込んだ。


 ザシュッ!!


「グォッ!?」


 右と左。

 まったく違う動きで繰り出される二本の剣に、マンティコアが翻弄されている。


 リリアは追撃の手を緩めなかった。

 右手に握ったモリアの剣を、真っ向から振り下ろす。


 ガキィンッ!!


 マンティコアは硬質化させた前足で受け止めた。

 だが、ぶつかったのは右の剣だけだ。


「はぁっ!」


 折れた左腕が、あり得ない方向へ大きくしなる。

 前足の下を潜り抜けた剣が、マンティコアの胸元を斬り裂いた。


 ザシュッ!!


「グォッ!?」


 マンティコアが仰け反る。

 リリアは逃がさない。


 一歩踏み込み、今度は右手の剣を斜め下から振り上げた。


 ガリリッ!!


 硬質化した毛皮と刃が擦れ、火花が飛び散る。

 剣は弾かれた。


 だが、その反動でリリアの身体が回転する。

 同時に、左手の剣が横薙ぎに振るわれた。


 ザシュッ!!


 マンティコアの前足から血が噴き出す。


「グォォッ!!」


 奴が後ろへ下がる。

 だが、リリアも同じだけ前へ出た。


 右手の剣は力任せに硬質化を打ち砕き、左手の剣は鞭のような軌道で、その隙間へ斬り込んでいく。


 ガキンッ!!

 ザシュッ!!

 ガァンッ!!

 ザンッ!!


 二本の剣が交互に閃くたび、黒い魔素が弾け、マンティコアの身体に新たな傷が刻まれていった。


「うあぁぁぁぁっ!!」


 リリアは左右の剣を交差させ、そのまま一気に振り抜いた。


 ザザンッ!!


 マンティコアの胸元に、十字の傷が刻まれた。


 だが、マンティコアも黙って斬られているわけじゃない。

 前足を振り回し、リリアを追い詰めようとする。

 リリアはその攻撃をかろうじてかわしながら、一撃、二撃と斬り込んでいった。


「……っ、はぁ……!」


 その時だった。

 マンティコアが前足を振り下ろした。


 リリアは跳躍して、その一撃をかわす。

 空中で身体をひねりながら体勢を整える。

 その目は、マンティコアをしっかりと捉えたままだ。


 リリアはそのまま岩壁へ着地した。


「……っ!」


 壁に足をつけ、姿勢を低くする。

 次の瞬間。


 ドンッ!!


 壁を蹴り、弾丸のような勢いで飛び出した。


「はぁぁぁっ!!」


 狙いは、マンティコアの首筋。

 リリアが右手の聖剣を振り下ろす。


 ガギィンッ!!


「……っ!?」


 弾かれた。

 全身を覆う硬質化が、まだ解けていない。


 リリアはそのままマンティコアを飛び越え、空中で二度、三度と身体を回転させた。

 そして、猫のように地面へ着地する。


 だが。


「グォォォォッ!!!」


 マンティコアが地面を踏み抜いた。

 リリア目掛けて、一直線に突っ込んでいく。


「……っ!?」


 速いっ!!

 リリアが動くよりも早く、マンティコアが目の前まで迫っていた。


「リリアッ!」


 片膝をついたまま、俺はどうにか声を振り絞った。


 リリアは避けられないと判断したのか、その場で二本の聖剣を構えた。

 白金色の光が膨れ上がり、二本の剣が巨大化する。


「うあぁぁぁぁっ!!」


 右足を大きく踏み込み、二刀を振りかぶった。

 そのまま、突っ込んでくるマンティコアの頭へ叩きつける。


 ドゴォォォンッ!!!


「グォォッ!?」


 マンティコアの頭から血が噴き出した。

 だが、突進の勢いは止まらなかった。


「きゃあぁぁっ!!」


 リリアの身体が、大きく吹き飛ばされる。

 地面へ叩きつけられ、そのまま何度も転がった。


「リリアッ!!」


 くそっ……!

 俺は立ち上がろうとした。

 だが、身体が言うことを聞かない。

 頼むから、動いてくれよ……!


「……っ、はぁ……はぁ……」


 少し離れたところで、リリアがどうにか立ち上がった。

 だが、その足元はふらついている。


 ガランッ!


 硬いものが地面に落ちる音が響いた。

 左手に握っていた剣だ。


 リリアの左腕は、再び力なく垂れ下がっていた。

 右手の聖剣も、白金色の光を失っている。

 ……魔力が、もう残ってねぇのか。


「……くそっ!」


 俺は近くに転がっていた石を掴んだ。

 そのまま、マンティコアの頭目掛けて投げつける。


 ガンッ!!


 石がマンティコアの頭に当たり、砕け散った。

 マンティコアが、俺のほうを見た。


 俺はどうにか立ち上がり、奴を睨みつける。


「……おいっ……女、いたぶって楽しいか? お前の相手は俺だって言ってんだろうが……」


 声を振り絞り、どうにか虚勢を張る。

 だが、マンティコアは俺を睨みつけただけだった。


「グルルルル……」


 そして、リリアのほうへ向き直る。

 ……おい。

 まるで、俺はあいつの次だとでも言いたげじゃねぇか。


「待てよ……!」


 リリアは、ぜぇぜぇと息を切らしながらも、右手の剣を構え直した。

 マンティコアが姿勢を低くする。

 飛び掛かるつもりだ。


「リリアッ!!」


 その瞬間、リリアと目が合った。

 リリアは俺を見て、笑った。


「…………」


 何、笑ってんだよ。

 そんな状態で……。


 その時だった。

 俺の中で、何かが弾けた。


「……っ!!」


 身体中から、どうしようもないほどの殺意が湧き上がってくる。

 気付けば、俺は地面を蹴っていた。


 マンティコアへ向かって、全力で駆け出す。

 間に合うはずがない。

 あの距離からじゃ、どう考えても割って入れない。


 なのに。


「…………?」


 妙だ。

 周りの動きが、やけに遅く見える。


 マンティコアが地面を蹴る。

 リリアへ向かって、前足を振り上げる。

 その動きが、妙にはっきり見えた。


 ……間に合う。


 俺はさらに地面を蹴った。

 マンティコアとの距離が、みるみる縮まっていく。


 そして、奴がリリアへ巨大な前足を振り下ろそうとした、その時。


「おらぁぁぁぁぁっ!!!」


 ズガンッ!!!


 俺の右拳が、マンティコアの横っ面にめり込んだ。


「グォッ!?」


 マンティコアの巨体が、横へ吹き飛んだ。

 地面を転がり、岩壁へ激突する。


 ドゴォォンッ!!


「……はぁ……はぁ……!」


 俺は大きく息を吐いた。

 右腕から、赤黒い煙が上がっている。


「……なんだ、これ……?」


 さっきまで塞がらなかった傷が、じゅくじゅくと音を立てて再生していた。

 肉が盛り上がり、裂けた皮膚が塞がっていく。


 それだけじゃない。

 右腕が赤黒く変色し、筋肉がみるみる膨れ上がっていた。


「…………」


 何が起きてるのか、俺にもわからねぇ。

 だが、今はそんなこと、どうでもいい。


 俺は岩壁のほうへ顔を向けた。

 土煙の向こうで、マンティコアが身を起こそうとしている。


 俺は赤黒く変色した右拳を握り込み、奴へ向かって叫んだ。


「……てめぇ、いい加減にしろよ……!」


 マンティコアが俺を睨みつけた。


「グォォォォォォッ!!!」


 雄叫びを上げると、全身をどす黒い魔素が覆い、再び硬質化していく。

 俺も右拳を構え直した。

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