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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第83話:勇者の意地

 片目を斬られたマンティコアが、怒り狂ったように絶叫した。


「グォォォォォォッ!!!」


 その身体から、どす黒い魔素が噴き出す。


「……なんだ?」


 魔素は全身にまとわりつき、傷ついた皮膚や、残った片翼まで覆っていく。

 前足を覆う黒い層も、さっきより分厚くなっていた。


 さっきまでとは明らかに様子が違う。

 まさか、まだ変異するってのかよ……。


「……まずいな」


 モリアが小さく呟いた。


「あぁ……」


 俺は地面についた右手を握りしめた。

 このまま座り込んでる場合じゃねぇ。


 右腕を持ち上げ、自分の太ももを思いきり叩く。


 バシンッ!!


「動けってんだよっ!!!」


 もう一度。


 バシンッ!!


「くそっ……!」


 何度か叩いているうちに、どうにか足に力が入った。

 俺は右手を地面について、ゆっくり立ち上がる。


「……っ、はぁ……」


 立てた。

 だが、身体がふらつく。

 左肩を中心に、痺れが全身へ広がっていた。

 このままじゃ、まともに動けねぇぞ……。


 俺は大きく息を吸った。

 思い出せ。

 サイクロプスの時を思い出せ……。

 身体をエンジンに見立てて、魔力を燃料に見立てる。

 あの感覚をっ!


「……っ!!」


 俺は全身へ魔力を流し込んだ。

 身体の隅々まで魔力を巡らせ、無理やり活性化させていく。


 だが。


「……うっ!?」


 急に吐き気が込み上げてきた。

 視界が揺れる。

 足の痺れも、さっきより酷くなっている。


 まさか……。

 身体を活性化させたせいで、毒の回りまで早まったのか!?


「うぐっ……!」


 俺はその場に膝をつき、吐いてしまった。


「……っ、くそ……」


 口元を拭い、どうにか顔を上げる。

 駄目だ。

 全身を強化しようとしたら、余計に動けなくなる。


 なら……。

 俺は右腕に意識を集中させた。

 全身へ巡らせていた魔力を、右腕の周辺へ集めていく。

 せめて、こいつだけでも……。


「……っ、はぁ……はぁ……」


 右手を握り込む。

 指は動く。

 まだ、やれる。


 その時、隣に人影が立った。


「……はぁ……はぁ……まだやれるな? カイル」


 モリアだった。

 爆発のダメージが抜けていないのか、足取りはまだ不安定だ。

 こいつも、とっくに限界のはずなのに……。


 俺はモリアを見て、ニヤリと笑った。


「……当たり前だろ。俺を誰だと思ってやがる……諦めてたまるかよ」


 震える右腕を、どうにか抑え込む。


 マンティコアは、全身に魔素を纏ったまま俺たちを睨んでいた。

 あの硬質化した身体に、今の俺の攻撃がどこまで通じるかはわからない。

 だが、さっきモリアが斬った目なら……。


「あの野郎が突っ込んできたら、ダメージ覚悟で残った目ん玉ぶち抜いてやる……」


「……ふっ……」


 モリアが笑った。


「……頼もしいやつだよ、お前は……」


「そりゃどうも……」


 俺は息を整えながら、右拳を握り直した。


 マンティコアが姿勢を低くする。

 残った片翼を大きく広げ、開戦を告げるような雄叫びを上げた。


「グォォォォォォッ!!!」


「来やがるな」


 俺は右腕を構えた。

 だが、その時だった。


「……私が時間を稼ぐ」


「……は?」


 隣から聞こえた言葉に、俺はモリアを見た。

 その瞬間。


 ドンッ!!


「ぐおっ!?」


 モリアに蹴り飛ばされた。

 不意を突かれた俺は、まともに踏ん張ることもできず、後方へ吹っ飛ぶ。


「モリアッ!?」


 地面を転がった俺のすぐ近くに、ミナとセシルがいた。


「ミナッ! カイルを癒せ!!」


「……っ!」


 ミナは一瞬、モリアのほうを見た。

 そして、何かを悟ったように頷いた。


「……はいっ!」


 すぐさま俺の左肩へ手を伸ばし、治癒魔法を使い始める。


「おいっ! モリア!!」


 俺は身体を起こし、怒鳴った。


「んな事してたら、お前はどうすんだよ! お前だってボロボロだろうがっ!!」


 モリアは振り返らない。

 今にも突っ込んできそうなマンティコアを見据えたまま、剣を握り直した。


「言っただろ。奥の手があるって……」


「奥の手って……!」


 さっきの一撃か。

 身体強化を切って、その分の魔力まで聖剣に注ぎ込む。

 確かに、あれならマンティコアの翼を斬り落とせた。

 だが、今のモリアがもう一度やったら……。


「その奥の手ってのは、身体強化捨てた聖剣スキルだろうがっ! 一発でお陀仏だぞっ!」


「……ふっ」


 モリアの口元が吊り上がった。


「……まだ最後にもう一つある……」


「……え?」


 もう一つ?

 そこまで考えたところで、俺はエリオのことを思い出した。

 あいつがサイクロプスとの戦いで見せた、あの力。

 まさか……。


「お前……それってまさかっ!?」


 モリアの身体から、凄まじい魔力が噴き上がった。


「っ!?」


 なんだ、この魔力量は……!?

 さっきまでとは比べ物にならない。

 モリアの足元から炎が立ち上り、全身を包み込んでいく。


「一か八かだっ!」


「やめろぉぉぉぉっ!!」


 俺の叫びも聞かず、モリアはさらに魔力を引き上げた。


 ゴォォォォッ!!!


 炎が勢いを増す。

 その中で、何かが形を作り始めた。


「…………っ!?」


 モリアの左肩から、炎の魔力が伸びていく。

 肘。

 手首。

 そして、五本の指。

 失ったはずの左腕が、魔力の塊となって現れた。


「……嘘だろ……」


 モリアは新たに現れた左手を握り込み、マンティコアを睨みつけた。


「行くぞ化け物がぁぁぁぁぁっ!!」


 地面を蹴る。

 今度はモリアのほうから、マンティコアへ向かって突っ込んでいった。


 モリアがマンティコアの懐へ踏み込み、全力で炎剣を振るった。

 マンティコアも硬質化させた前足を振り上げる。


 ガギィィンッ!!


 剣と爪が激突した。

 その瞬間。


 ジュッ!!


「……っ!?」


 硬質化された爪の表面が、炎剣に触れた部分から溶けていく。

 あの硬さを、溶かしたのかよ……!


 だが、マンティコアも怯まない。

 尻尾を斬り落とされた恨みが忘れられないのか、憎悪に満ちた目でモリアを睨みつけている。


「グォォォッ!!」


 焼ける前足など気にも留めず、再び魔力を纏わせて爪を振るった。

 モリアも一歩も引かず、炎剣を振り上げる。


 ガァンッ!!

 ジュウッ!!


 互いの一撃がぶつかるたびに、剣と前足を覆っていた魔力が吹き飛ぶ。

 だが、次の瞬間にはもう、両者とも魔力を纏い直していた。


「…………」


 なんだよ、あれ……。

 一撃ごとに魔力を消し飛ばされてるってのに、間髪入れずに次を繰り出してやがる。

 あんな戦い方、いつまで続けられるんだよ……!


「ミナッ! 傷の治療はしなくていい!! 神経毒だけを抜いてくれ!!」


 俺の左肩に手を当てていたミナが、こくんと頷いた。


「わかりました……」


 ミナはそれだけ言うと、治療を続けた。

 その隣で、セシルがぽつりと呟いた。


「……死んじゃやだよ、カイル……」


「…………」


 俺はセシルに笑いかけた。


「……お前ら置いて、先に逝かねぇよ。……そういや、リリアは?」


 セシルは、リリアが吹き飛ばされた方角へ目を向けた。


「……大丈夫。リリアも生きてるよ。ちゃんとリリアの魔力は感じ取れるから」


「……そうか」


 俺は小さく息を吐いた。


「その言葉を聞いて、少し安心したよ」


 マンティコアが振り下ろしてきた前足の爪を、モリアが炎剣で弾き飛ばした。


 ガキィンッ!!


「グォッ!?」


 マンティコアの体勢が一瞬崩れる。

 モリアはその隙を逃さず、さらに炎剣の出力を引き上げようとした。


 だが。

 マンティコアが残った片翼を大きく広げた。


「……っ!」


 翼から無数の爪が射出される。


「邪魔だっ!!」


 モリアは魔力でできた左腕を突き出した。

 その腕がぐにゃりと形を変え、目の前に炎の壁となって広がる。


 ジュジュジュッ!!


 飛んできた爪が、炎の壁に触れた瞬間から焼き尽くされていく。


「……は?」


 なんだよ、今の……。

 腕をそんなふうに使えるのかよ!?

 マンティコアもぎょっとしたように目を見開いていた。


 その正面で、モリアが獰猛な笑みを浮かべる。

 だが、次の瞬間だった。


「グォォォォォォッ!!!」


 マンティコアが絶叫した。

 周囲の空気が、ぐにゃりと歪む。


「モリアッッ!!」

「「モリアさんっ!!」」


 俺たちが叫んだ直後。


 ドゴォォォォンッ!!!


 再び、凄まじい爆発が起きた。


「くそっ!! またかよっ!!」


 爆風が岩場を駆け抜け、モリアとマンティコアの姿が土煙に呑み込まれる。

 直後、その中からマンティコアが飛び出してきた。


 全身に大小さまざまな傷を負い、あちこちから血を流している。

 自分まで巻き込むあの爆発を、また使いやがったのか……!


 マンティコアは爆発の勢いを利用するように、後方へ飛び退こうとしていた。

 だが、その時だった。


「……っ!?」


 土煙の中から、巨大な腕が伸びてきた。

 炎の魔力でできた左腕だ。

 さっきまでとは比べ物にならないほど大きくなっている。


 その手が、マンティコアの残った片翼をがっしりと掴んだ。


「捕まえた」


「…………っ!?」


 土煙の中から、モリアが姿を現した。

 防具は砕け散り、身体のあちこちからおびただしい血が流れている。


「おい……嘘だろ……」


 あれだけの爆発をまともに喰らって、まだ立ってるのかよ……。

 だが、モリアの顔から獰猛な笑みは消えていなかった。


「ふんっ!!」


 巨大な左腕が、マンティコアを強引に引き戻す。


「グォォォッ!!」


 マンティコアは必死に身体をよじり、モリアから離れようとした。

 地面を蹴り、残った片翼を羽ばたかせる。

 だが、魔力の腕はびくともしない。


「……そんなに私から離れたいか?」


 モリアが炎剣を構え直した。

 刀身が、眩しいほどに輝き始める。


「ならっ!!」


 炎剣が振り下ろされた。


 ザシュッ!!


「グォォォォォォッ!!!」


 マンティコアの残った片翼が、根元から斬り落とされた。

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