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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第82話:隻眼の勇者と魔獣

 片翼を焼き切られたマンティコアが、凄まじい絶叫を上げた。


「グォォォォォォッ!!!」


 だが、モリアはその背中から降りようとしない。

 炎を纏った剣を握り直すと、そのままマンティコアの首へ振り下ろした。


 ガキィンッ!!


「……っ!?」


 剣が弾かれた。

 首の表面が魔力で硬質化されている。

 あれだけの炎剣を喰らっても、刃が通らないのかよ……。


「ちっ!!!」


 モリアが舌打ちした。

 その時だった。


「…………?」


 マンティコアの周囲の空気が、ぐにゃりと歪んだ。

 なんだ?

 さっきまでとは違う。

 何かが起きる。


「離れろっ!!」


 俺が叫んだ直後。


 ドゴォォォンッ!!!


 マンティコアを中心に、凄まじい爆発が起きた。


「うぉっ!?」


 爆風が岩場を駆け抜け、土煙が一気に広がる。

 その中から、何かが吹き飛んできた。


「モリアッ!!」


 俺は咄嗟に駆け出し、その身体を受け止めた。


「ぐっ……!」


 勢いを殺しきれず、足が地面を滑る。

 なんとか踏みとどまると、モリアを地面へ降ろした。


「おい、大丈夫か!?」


「……油断した……詠唱無しで、無理やり発動するとは……」


 モリアが苦しそうに息を吐く。

 俺は土煙の向こうへ目を向けた。

 徐々に煙が晴れていく。


「…………」


 マンティコアは、まだ立っていた。

 だが、その身体は無事じゃない。

 ところどころの皮膚が爆ぜ、血が滲んでいる。


 こいつ、自分まで巻き込んで爆発を起こしたのかよ……。

 どこまで無茶苦茶な奴なんだ。


「……奴はどうなった?」


「……あちこちに自爆のダメージはあるが、致命傷には程遠いな……」


「……そうか……」


 モリアが大きく息を吐いた。

 ぜぇぜぇと、苦しそうな呼吸が続いている。


「……動けるか?」


「……どうにかな……」


 そう言いながらも、モリアはなかなか立ち上がろうとしない。


「……お前なら、さっきの爆発も避けられたんじゃねぇのか?」


「……無茶をしたツケだな……」


「無茶?」


「……翼を落とすために、身体強化を切った」


「……は?」


 モリアは炎の消えた剣へ目を落とした。


「あの硬さだ。身体強化に回していた魔力まで、ありったけ剣に注がんと斬れん……」


「……だから、あの爆発を避けられなかったのか」


「あぁ……身体を守るために魔力を回す余裕もなかった……」


「…………」


 あの一撃を入れるために、そこまでやってたのかよ。

 そういや、リリアは……?

 あの壁の向こうへ吹き飛ばされたままだ。

 確かめに行きてぇが、今は……。


 モリアが剣を支えに、どうにか立ち上がった。

 俺は改めて、片翼を失ったマンティコアへ目を向けた。


 マンティコアは、俺の隣にいるモリアを忌々しそうに睨みつけていた。

 残った翼を広げ、姿勢を低くする。

 今にも飛び掛かってきそうだ。


「来るぞ……」


 俺はモリアをちらりと見た。


「……あぁ……」


 モリアが剣を構え直す。

 再び刀身に炎が宿った。


 だが、その足を見て、俺は思わず顔をしかめた。


「…………」


 足が痙攣している。

 さっきの爆発が相当効いてるんだ。

 こいつ、まともに動ける状態じゃねぇぞ。


 その瞬間。

 マンティコアが地面を蹴った。


「っ!!」


 一直線に俺たちへ迫ってくる。

 いや、狙いはモリアか!


 モリアは剣を握りしめ、迎え撃とうとしていた。

 避けようとしない。

 ……違う。

 避けられないんだ。

 身体強化と聖剣の出力を上げて、正面から受け止めるつもりなのかよ!


「くそっ!!」


 俺はモリアの前へ飛び出した。


 ドゴンッ!!


「ぐぉっ!?」


 マンティコアの巨体を、俺の身体で受け止める。

 足が地面を削り、全身が軋んだ。


「……っ!? 何してる!?」


 後ろからモリアの声が聞こえる。


「止められないって言ってたろうが!! 何する気だったんだっ!!」


 俺は足を踏ん張る。

 だが、マンティコアの前進が止まらない。


「ぐっ……!」


 このままじゃ、まとめて押し潰される!


「っ!! これならどうだっ!!」


 俺は右腕に力を込めた。

 握っていたのは、さっき刃が砕けた大鉈の柄。

 折れた先端が鋭く尖っている。


「おらぁぁっ!!」


 その先端を、爆発で皮膚が裂けたマンティコアの首筋へ思い切り突き立てた。


 ブスッ!!


「グォォォォォッ!!!」


 マンティコアが絶叫した。

 突進の勢いが弱まる。

 そして、大きく後ろへ飛び退いた。


 大鉈の柄は、マンティコアの首筋に刺さったままだ。


「……っ、はぁ……!」


 助かった。

 そう思ったのも束の間。

 マンティコアが残った片翼を広げた。


「避けろっ!!」


 モリアが後ろから叫ぶ。

 翼から、何本もの爪が射出された。


「くそっ!!」


 咄嗟に後ろを見る。

 モリアはまだ動けない。

 このまま避けたら、あいつに当たる!


 俺は身体強化した右腕を振るった。


 ガンッ!!


 爪の側面を拳で叩き、軌道を逸らす。

 続けて二本目。

 三本目。


 だが。


「ぐあっ!?」


 一本の爪が、俺の左肩へ突き刺さった。


「っ……この野郎っ!」


 俺は右手で爪を引き抜いた。

 だが、その直後だった。


「…………?」


 視界がぐにゃりと歪んだ。

 足に力が入らない。


「ぐっ……!」


 思わず片膝をつく。

 なんだ、これ……。

 いや。

 これが神経毒かっ!!


 左腕の感覚が、どんどん鈍くなっていく。

 くそっ……。


 俺は顔を上げた。

 少し離れたところで、マンティコアが雄叫びを上げている。

 その口が開いた。


「…………っ!?」


 舌が……。

 さっきの爆発で傷ついた舌が、少しずつ元に戻っていく。


 こいつ、再生まで出来るのかよ!

 クソッ……このままじゃ、また魔法が飛んでくる……!


 俺は全身へ魔力を巡らせた。

 右腕だけじゃない。

 身体中に魔力を流し込み、無理やり身体強化の出力を引き上げる。

 左肩の傷を治せば、まだ動けるはずだ。


「……っ、くそ……!」


 だが、上手くいかない。

 魔力を流しているのに、傷の治りが始まらない。

 左腕もまともに動かせない。

 毒のせいか……?


「……やべぇな……」


 俺はなんとか立ち上がろうとした。

 その時だった。


 俺の前に、一人の人影が立った。


「…………」


 モリアだ。

 炎剣を構え、俺とマンティコアの間に立ちふさがっている。


「……お前はそこで休んでろ……」


「おい、モリア……!」


 モリアは振り返らなかった。

 その足は、まだ小さく震えていた。


 マンティコアが俺たちを睨みつける。

 モリアは剣を握り直すと、聖剣の出力を引き上げた。

 刀身を包む炎が大きくなる。


「……来い。串刺しにしてやる」


 モリアがそう言うと、マンティコアが飛び掛かった。

 巨大な右前足が振り下ろされる。


 ガギィンッ!!


 モリアは炎剣でその一撃を受け流した。

 足元の地面が削れ、砂埃が舞い上がる。


 だが、マンティコアは止まらない。

 続けて左前足を振り上げる。


「ぐっ!」


 ガァンッ!!


 モリアはギリギリで剣を合わせ、再び受け流した。

 踏ん張った足元から、さらに砂埃が上がる。


「…………っ!」


 まずい。

 まずいまずいまずいっ!


 モリアは明らかに限界だ。

 あの足じゃ、いつまで避け続けられるかわからない。


 俺は右手を地面についた。

 立てっ!!

 立ち上がれっ!!

 守るって決めたんだろ!!


 身体中へ魔力を巡らせる。

 動け。

 動けよっ!!


 だが、身体に力が入らない。


「くそっ……!」


 その間にも、マンティコアがモリアへ噛みつこうとした。


「っ!」


 モリアが身をよじってかわす。

 そのままマンティコアの頭へ炎剣を振り下ろした。


 ガキィンッ!!


 ……またかよ!

 魔力で硬質化された毛皮に阻まれ、剣が弾かれる。


「……くそが」


 モリアが悪態をついた。

 その瞬間。


「雷光よっ!!」


 セシルの声が響いた。


 バチィィッ!!


 後方から放たれた電撃が、マンティコアへ直撃する。


「っ!?」


 俺は思わずセシルを振り返った。


「やめろ!! そっちに注意がいっちまう!!」


 セシルは俺の声に、泣きそうな顔を向けた。


「嫌だっ!! このままじゃ二人とも殺されちゃう!!」


「だからって、お前の魔法じゃマンティコアにダメージを与えられないだろっ!?」


 あいつがセシルを狙ったら、今の俺じゃ助けに行けねぇんだぞ!

 だが。


「いや、十分だっ!」


「……え?」


 モリアが獰猛な笑みを浮かべた。


「硬質化が解けたっ!」


 マンティコアが電撃を受け、身体を強張らせている。

 その頭へ向けて、モリアが一気に踏み込んだ。

 炎剣の出力が、再び全開まで引き上げられる。


「はぁぁぁっ!!」


 ザシュッ!!


「グォォォォォッ!!!」


 マンティコアが絶叫した。

 顔から血が噴き出す。

 そのまま大きく後ろへ飛び退いた。


「……っ、はぁ……」


 モリアが剣を構え直す。

 その顔には、疲れ切っているくせに、笑みが浮かんでいた。


「……ふははっ……これでお揃いだな」


 俺はマンティコアの顔を見た。

 片目が深く切り裂かれ、血が流れている。

 マンティコアは、モリアと同じ隻眼になっていた。

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