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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第80話:マンティコアの寝床

 最後の休憩を終えた俺たちは、マンティコアの寝床があるという岩山の頂上付近まで登ってきていた。

 周囲には木の一本も生えておらず、見渡す限り岩ばかり。

 ところどころに俺たちの背丈を遥かに超える大岩が転がっている。


「……居ないな……」


 先頭を歩いていたモリアが足を止めた。

 俺も周囲を見回してみる。

 体長五メートルもあるマンティコアなら、近くにいれば流石にすぐ気付くと思うんだが……。


「狩りにでも出てんのか?」


「わからん」


 モリアはそう答えると、目を細めた。


「…………」


 その瞳に、微かに魔力が集まっていく。

 しばらく周囲を見渡していたモリアが、一方向へ顔を向けた。


「……こっちだ」


「なんか見つけたのか?」


「あぁ。微かだが、魔力の残滓が残っている」


 魔力の残滓?

 俺には何も見えん。

 モリアはそのまま歩き始める。


「……そんなことも出来るんですか……」


 後ろを歩いていたリリアが、感心したように呟いた。


「本来なら、そういうのは高位の魔導士が成せる技なのに……」


 セシルまで驚いている。

 モリアは二人を振り返ると、


「……この世は何もジョブだけが全てじゃない。お前らなら、よく知ってるはずだ」


 そう言った。


「…………」

「…………」


 なぜか二人が俺を見る。


「……そうですね……」


 リリアが妙に納得した顔で頷いた。


「……なんで俺を見るんだよ」


「別に?」


「いや、見てただろ」


 二人の視線を受けながら、俺はため息を吐く。


「……俺は別になんでも出来るってわけじゃねぇぞ」


「誰もそこまでは言ってないよ」


「なら見るなよ……」


 そんなやり取りをしながらも、俺たちはモリアの後を追った。


 魔力の残滓を辿ってしばらく進むと、前方に妙なものが見えてきた。


「……なんだ、あれ」


 巨大な岩をいくつも積み重ねて作られた、ドーム状の何か。

 建物にも見えるが、人間が作ったものには到底見えない。

 巨大な獣が、岩を無理矢理積み上げて作った巣。

 そんな感じだった。


「恐らく、あれが奴の寝床だ……」


 モリアが腰の剣へ手をかける。


「油断するなよ」


「あぁ」


 俺も背中の大鉈へ手を伸ばした。

 リリアたちの顔からも、さっきまでの軽い空気が消える。

 俺たちは警戒しながら、ゆっくりと岩の巣へ近づいていった。


 入口はかなり大きかった。

 マンティコアの巨体でも余裕で出入り出来そうな広さがある。

 俺たちはモリアを先頭に、中へ入った。


「……広いな」


 中は、外から見た以上に広い空間になっていた。

 積み重ねられた岩と岩の間には隙間があり、そこから日の光が差し込んでいる。

 洞窟みたいな暗さはなく、周囲を見渡すには十分な明るさがあった。


 天井も高い。

 マンティコアが翼を広げても、十分に動き回れそうだ。


「…………」


 俺は大鉈へ手をかけたまま、周囲を見回す。

 だが。


「居ないな……」


 肝心のマンティコアの姿がない。


「ここで待ち伏せするか?」


 俺がそう聞くと、モリアは険しい顔のまま周囲を見る。


「……奴の魔力感知能力を考えれば、我々が近づいているのは当然知っているはず……」


「ってことは……」


「…………っ!」


 突然、モリアの顔色が変わった。


「伏せろっ!!」


 叫ぶと同時に、モリアが剣を抜く。

 次の瞬間。

 壁の一部に亀裂が走った。


「なっ!?」


 ドゴォンッ!!

 凄まじい音と共に岩壁が崩れ、大量の石礫が俺たち目掛けて飛んでくる。


「くっ!」


 モリアの剣が炎を纏った。

 そのまま高速で剣を振るい、飛んでくる石礫を次々と叩き落としていく。


 だが。

 石礫が飛んできた方向から、さらに大きな衝撃音が響いた。


「っ!?」


 何かが来る。

 そう思った時には遅かった。

 崩れた岩壁の向こうから、巨大な何かが飛び込んできた。


「まずいっ!」


 モリアが叫び、聖剣の炎がさらに大きくなる。

 だが、間に合わない。

 五メートルはある巨体が、凄まじい速度で俺たちへ突っ込んでくる。


「くそっ!」


 俺は右腕へ魔力を集中させた。

 腕の筋肉が膨れ、血管が一気に浮かび上がる。

 大鉈を握りしめ、そのまま横へ踏み込んだ。


「おらぁぁぁぁっ!!」


 全力で振り抜く。

 大鉈がマンティコアの横っ面へ叩き込まれた。


 ズガンッ!!


 重い衝撃が腕まで響く。

 マンティコアの頭が横へ弾かれ、突進の軌道が僅かに逸れた。

 そのまま俺たちの横を通り抜けていく。


「流石っ!!」


 リリアの声が聞こえた。

 だが。


「……硬ぇなんてもんじゃねぇぞ、こいつ……」


 俺は大鉈を握ったまま、マンティコアを睨む。

 手応えがおかしい。

 斬った感覚がまるでなかった。


 マンティコアはそのまま数十メートルほど進み、ようやく勢いを止めた。

 そして、ゆっくりとこちらへ振り返る。


「…………」


 初めて正面から見るマンティコア。

 人間に似た顔。

 巨大な身体。

 背中から伸びる大きな翼。


 俺がさっき大鉈を叩き込んだ頬には、傷一つついていなかった。

 ただ、僅かにへこんだような打痕だけが残っている。


「嘘だろ……」


 右腕を強化した状態で、全力で叩き込んだんだぞ。

 それでこれだけかよ。


「AAAランクは、ほぼ全ての個体が魔力操作が出来る」


 隣でモリアが苦々しく言った。


「生き物だと思うなよ……」


「…………」


 俺は大鉈を握り直す。


「……マジもんのモンスターってわけだ」


 マンティコアがこちらを睨む。

 その巨体を前に、俺たちも武器を構え直した。


「セシル!」


「わかってる!」


 セシルが両手に魔力を集める。

 ミナもセシルの後方で身構えた。


 すると、先ほどマンティコアが壁を破壊した時に飛び散った石礫が、次々と宙へ浮かび上がった。


「放てっ!」


 ドドドドッ!!

 無数の石礫が、一斉にマンティコアへ向かって飛んでいく。


 マンティコアは大きな翼を前へ回し、自らの身体を覆った。

 石礫が次々と翼へ叩きつけられる。


「今ですっ!」


 リリアが走り出した。

 ほぼ同時に、モリアもその後を追う。

 俺も遅れて二人を追った。


 リリアは走りながら、モリアから受け継いだ剣を抜く。

 刀身が白金色の光に包まれた。


 マンティコアが翼を開く。

 その瞬間。


「はぁぁぁっ!!」


 リリアの剣が、マンティコアの翼へ叩き込まれた。


 ガリリッ!!


 硬いもの同士が削れ合うような音が響く。


「くっ……!」


 それでもリリアは剣を押し込む。

 マンティコアが、人間じみた顔を歪めた。

 そしてリリアを睨みつけ、その巨大な前足を振りかぶる。


「リリアっ!」


 だが。

 その前足が振り下ろされるより先に、横から炎を纏った剣が叩き込まれた。


「ふっ!」


 モリアだ。

 リリアの後を追っていたモリアが、その前足へ聖剣を打ちつけて動きを止める。


「…………っ!?」


 マンティコアの顔に、驚いたような表情が浮かんだ。

 その一瞬。


「今度こそっ!」


 俺は右腕へさらに力を込める。

 そのままマンティコアの懐へ飛び込み、


「おらぁぁぁぁっ!!」


 大鉈を全力で振り抜いた。


 ズガァンッ!!


 凄まじい衝撃と共に、マンティコアの巨体が横へ吹き飛ぶ。

 五メートルもある身体が、数メートル先まで弾き飛ばされ、岩場を削りながら止まった。


「……やった?」


 リリアが剣を構えたまま呟く。


「いや……」


 俺は大鉈を握り直した。

 マンティコアがゆっくりと身体を起こす。


 さっきリリアの剣が当たった翼からは、薄っすらと血が滲んでいる。

 そして俺が再び大鉈を叩き込んだ顔からも、僅かに血が流れていた。


「……これでようやく血が出るのかよ……」


 俺は思わず顔をしかめる。


「……モリア……こいつの尻尾、どうやってぶった切ったんだよ……」


 マンティコアから目を離さずに聞く。


「……奥の手ってやつだ……」


 モリアも剣を構えたまま答えた。


「しかし、以前のように魔法が使えないなら、まだ勝機はある。倒せるぞ……」


「…………」


 マンティコアがゆっくりとこちらを見る。

 いや。

 俺たちじゃない。

 モリアだけを見ている。


 その人間じみた顔が、明らかな憎悪に歪んでいく。


「…………?」


 そして。

 マンティコアが口を開いた。


「ኦ፣ ነበልባል」


「……なんだ?」


 聞いたことのない言葉だった。

 だが、その瞬間。

 セシルの顔色が変わった。


「みんな伏せてっ!!!」


「っ!?」


 モリア、リリア、俺の身体がびくりと震える。

 セシルはその場にしゃがみ込み、地面へ思い切り手のひらを叩きつけた。


「隆起せよっ!!」


 ドゴゴゴゴッ!!

 俺たちの目の前で地面が大きく盛り上がった。

 高さ二メートルはある巨大な土の壁が、一気にせり上がる。


 次の瞬間。

 轟音。

 マンティコアがいる方向から爆炎が飛んできた。


「うぉっ!?」


 土壁へ炎が直撃する。

 壁の表面が一瞬で焼け爛れ、ひび割れが走った。

 そして、耐えきれずに土壁が崩れ落ちた。


「バカなっ!?」


 モリアが目を見開く。


「魔法が使えた尻尾の頭は斬り落としているのに!?」


「…………」


 俺の背筋に嫌な汗が流れる。


「……まさか……」


 隣を見る。

 リリアの顔からも汗が流れていた。


「……変異し始めているということですか……」


 誰も答えなかった。

 崩れた土壁の向こう。

 マンティコアが、憎悪に塗れた顔で俺たちを睨んでいた。

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