↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/106

第78話:今度、教えてくれ

 魔導馬車に揺られること一日。

 日が暮れる少し前になって、俺たちは岩山に一番近い村へ到着した。


「ここか」


 馬車を降りて周囲を見渡す。

 そこまで大きな村ではない。

 家が何軒か並び、その向こうには畑が広がっている。


 そして、さらに遠く。

 村の向こうには、大きな岩山が見えていた。


「あれがマンティコアのいる山か?」


「あぁ」


 モリアが岩山を見ながら頷いた。


「ここから徒歩で半日ほどだ」


「じゃあ、今日はここで一泊か」


「そうだな。今から向かう必要もない」


 モリアはそう言うと、近くにいた村人へ声をかけた。


「すまない。一晩泊まりたいんだが、五人で使える場所はあるか?」


「あぁ、それなら空いてる家が一軒あるよ。旅人にも貸してるところだ」


「助かる」


 モリアは財布から銀貨を適当に掴むと、そのまま村人へ渡した。


「こ、こんなにっ!?」


 銀貨を受け取った村人が目を丸くする。


「ちょっと待ってくれ! 今、夕食用と朝食用に良い食材持ってくるからっ!」


 そう言うと、村人は慌てて走っていった。


「…………」


 俺はモリアを見る。


「……お前……いくら払ったんだよ……」


「適当に手づかみで渡したから……五枚程度か?」


「お前……金銭感覚……」


「ふん」


 モリアが鼻を鳴らした。


「高ランク勇者を何年やってると思っている?」


「すごいですっ! さすがモリアさん!」

「高ランク勇者ってそんなに稼げるんだ……」


 リリアとセシルが尊敬の眼差しをモリアへ向ける。


「お前ら、そこ尊敬するところか……?」


 しばらくすると、さっきの村人が戻ってきた。

 その両腕には、肉や野菜、卵なんかが大量に抱えられている。


「これ、使ってくれ! 朝の分も十分あるから!」


「おお……」


 思っていたよりずっと豪華だ。


「……うぉ……今夜はご馳走だな」


「やった! 今夜はご馳走作ってくれるって!」


 リリアが嬉しそうにセシルを見る。


「楽しみ!」


 セシルまで手を叩いて喜んでいる。


「…………あ」


 二人を見て、ようやく気付いた。


「……作るの俺か……」


 案内された空き家は、村の端にあった。

 中には机や椅子、それに簡単な寝具も置いてある。

 一晩泊まるには十分だ。


 俺は村人から貰った食材を使って夕食を作った。

 せっかく良い肉まで貰ったんだ。

 いつもより少し豪華に作ってやると、リリアとセシルは当然のように何度もおかわりしていた。


 夕食を食べ終えたあと。

 俺は残っていた糖蜜を見ながら、ふと思いついた。


「久しぶりに作るか」


「何をですか?」


「カルメ焼き」


「おおっ!」


 リリアが嬉しそうに声を上げる。


「久しぶりだね」


 セシルも俺の手元を覗き込んできた。


「近い近い。膨らむまで待ってろ」


「はーい」


 糖蜜を熱して、頃合いを見ながら混ぜる。

 しばらくすると、ぷくっと膨らみ始めた。


「こういう菓子も作れるのか」


 モリアが俺の手元を覗き込む。


「簡単なもんだけどな」


 出来上がったカルメ焼きを人数分に分ける。

 モリアも一つ手に取り、少し齧った。


「…………」


「どうだ?」


「美味いな」


「そりゃ良かった」


 モリアはもう一口食べると、手元のカルメ焼きを眺めた。


「今度、私にも作り方を教えてくれ」


「ん?」


 俺は一瞬、モリアを見る。


「駄目か?」


「いや。別にいいぞ」


「そうか」


 モリアはそれだけ言うと、またカルメ焼きを口へ運んだ。


 …………今度、か。

 前にこいつは、仇を討った後のことなんて何も考えていないと言っていた。

 それが今は、自分から今度なんて言葉を使っている。


 もしかしたら、こいつも少しはこの先のことを考えられるようになったのか?


「カイルさん?」


「ん?」


「どうしました?」


「いや、なんでもねぇよ」


 俺も残っていたカルメ焼きを口に放り込んだ。


 夜。

 俺は村にある共同浴場から、借りた家へ戻る途中だった。


「いやぁ……やっぱ風呂はいいなぁ……」


 この村では、借りた家に風呂は付いていない。

 代わりに村の共同浴場を使うようになっていた。

 久々にゆっくり湯に浸かった俺は、そのまま夜道を歩いていた。


「ん?」


 借りた家の裏手に、人影が見えた。

 モリアだ。

 遠くに見える岩山を、一人でじっと見つめている。


 俺が少し近づいた、その時だった。


「……待ってろよ」


 小さな声が聞こえた。


「二人の仇は必ず……」


「…………」


 声をかけようとしたが、やめた。

 なんか空気が重い。

 ……これは声かけないほうがいいやつだな。


 俺はそのまま静かに立ち去ろうとした。


「……そこにいるのは誰だ?」


「…………」


 気付かれた。

 このまま黙って行くか。


「……怒りはしないから、出てくるといい」


 そう言ってるくせに、明らかに殺気が飛んできてるんだが。


「……すまん。風呂から戻る途中で、モリアを見かけてな」


 諦めて姿を見せる。

 モリアがこちらを振り返った。


「……なんだ、お前か」


 その瞬間、さっきまで感じていた殺気が消えた。


「なんだとはなんだよ……」


「てっきり知らない奴が隠れているのかと思ってな」


「だからって殺気飛ばすなよ……」


「怒りはしないと言っただろう」


「説得力皆無だったぞ」


「ふっ」


 モリアが小さく笑った。


「とりあえず、モリアも風呂入ってきたらどうだ? 看板には夜十時には閉まっちまうみたいだし」


「……そうだな。もう少ししたら私も行こう」


「あぁ。決戦前夜なんだから、ゆっくり休んでおいたほうがいい」


「……確かにな」


 モリアはそう言うと、俺を見る。


「カイル。ちょっとこっちに来い」


 手招きされた。


「なんだよ?」


 俺が近づくと、モリアは俺の顔をじっと見る。


「お前、そういえばスキルらしいスキルがなかったんだったな」


「そうだよ。生粋の一般人の農民だよ」


「だが、お前も魔物除けの石に魔力を込められた」


「それがどうしたんだよ?」


「既存の職に適したものを持っていないだけでは? と思ってな」


「は?」


 そう言うと、モリアは腰の剣を抜いた。


「おい、何すんだよ」


「見ていろ」


 次の瞬間。

 モリアの剣に炎が纏った。

 赤い魔力の炎が、刀身を包んでいる。


「いきなりなんだよ」


「勇者が使う『聖剣』というスキルは、私たちの魔力を放出し、それを剣に固定することで成り立っている」


 モリアは炎を纏った剣を見ながら淡々と言う。


「話してしまえば、なんの造作もない」


「造作もないって……それ発動するだけでもリリアは毎回息切れしてんだから、造作なくなんかないだろ?」


「……端的に言えば、リリアはまだ魔力が十分に練れてない」


「…………」


 そう言われて、今までのリリアの戦いを思い出す。

 確かに聖剣を使った後は、何度も息を切らしていた。


「……で? それが俺とどう関係するんだ? 原理を教えてもらったところで、俺に出来ると思うか?」


「……そうだな、確かに」


 モリアは苦笑すると、聖剣を解除した。

 そのまま剣を鞘へ戻す。


「なんだよ。やっぱ無理なんじゃねぇか」


「だが、お前は魔力だけは勇者に匹敵するか、それ以上にある。適性がなくとも……」


 そう言いながら、モリアが俺の腕を掴んだ。


「ん?」


 次の瞬間。


「……っ!?」


 身体の中から、魔力が一気に吸い上げられた。

 この感覚……前にもあった。

 サイクロプスと戦ったあと、リリアに魔力を吸い出された時と同じだ。


 だが、今回はあの時よりもずっと強い。

 全身の魔力が腕へ引っ張られ、そのまま根こそぎ抜かれていくような感覚が走る。


「……っ! やめろ!」


 俺は慌てて腕を振り払った。


「何すんだよ!」


「今の感覚を覚えておけ」


「はぁ?」


「固定化できなくても、魔力の放出部分だけならお前でも出来るはずだ」


「……んな突然言われても俺に出来ると思うか? 最近ようやく多少、自分で身体強化を使えるようになった程度の俺に」


「手札は多く持っていたほうがいい」


 モリアは真面目な顔で俺を見る。


「AAAランク相当のサイクロプスと互角以上に殴り合えたところで、元からAAAランクのモンスターがさらに変異してSランクになれば、それでも不足だからな」


「…………」


 それを言われると、何も言い返せない。


「……かもな。でも俺にあんま期待すんなよぉ。これでも人畜無害な農民なんだからよぉ」


「……よく言う」


 モリアは笑った。


「まぁ、期待はしないが、信用はしている」


「…………」


 真正面からそんなことを言われると、妙にむず痒い。


「……なんか面と向かって言われると恥ずかしいな」


「……ふっ」


 モリアは小さく笑う。


「さて、私も風呂に入ってくるか」


「あぁ。そうしろ」


「お前も一緒にどうだ?」


「さっき入ってきたわ。寝言は寝て言え」


「ふっ……そうか」


 モリアは満足そうな顔で笑うと、そのまま共同浴場の方へ歩いていった。


「まったく……」


 俺はその背中を見送る。

 それから、もう一度岩山の方へ顔を向けた。


「…………」


 元からAAAランクのマンティコア。

 純粋なAAAランク相手にどう転ぶかなんてわからない。


「……元からAAAランクか……上等だ」


 俺は両手の拳を、一度強く打ち鳴らした。


 リリアも、セシルも、ミナも。

 それにモリアも。

 俺が守れるところは、守ってやる。


 明日は、いよいよマンティコアとの戦いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。