↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/106

第75話:夢と魔鋼の剣

 夢を見ていた。

 誰かに抱き上げられている。

 目の前には、見覚えのない男の顔があった。


 ……なんだ、これ。

 たぶん夢なんだろう。

 でも、こんな夢は今まで見たことがない。

 この人は……誰だ?


 男は俺のことを見ながら、優しそうに笑っていた。

 少なくとも、悪い人には見えない。


 そんなことを考えながら、なんとなく自分の手を見る。

 小さい。

 いや、小さいなんてもんじゃない。

 どう見ても、赤ん坊の手だった。


 ……なんで俺、赤ん坊なんだ?

 そもそも、こんな頃のことなんて覚えているはずがない。


 そう思っていると、男のところへ別の男が近づいてきた。

 何かを耳打ちしている。

 俺には何を言っているのか聞き取れなかった。


 話を聞いた男は、少し悲しそうな、残念そうな……それでいて、どこか安心したような顔をした。


「そうか……この子には才能がないのか」


 男は俺を見ながら呟く。


「残念だな……魔王を討つ切り札になれるかと思ったが」


 そこで、目が覚めた。


「…………」


 見慣れない天井。

 いや、昨日泊まった宿の天井だ。


「……なんだったんだ、今のは……」


 俺はベッドの上で身体を起こした。


 夢。

 たぶん夢だ。

 なのに、妙に頭に残っている。


 あの男。

 俺を抱き上げて、笑っていた男。

 俺は村長から、赤ん坊の頃に村の近くへ捨てられていたと聞いている。

 なら、あいつは……。


「……俺の親父か……?」


 いや、分からない。

 そもそも親父の顔なんて覚えていない。

 ただ……。

 子供を捨てるような男の顔には、とても見えなかった。


「…………」


 それに、魔王を討つ切り札ってなんだよ。

 なんで覚えているはずのない赤ん坊の頃のことが、夢に出てきたんだ?


「……わけ分かんねぇ」


 考えれば考えるほど、頭がこんがらがってくる。

 結局、何一つ分からないまま、俺はベッドから降りた。


 朝。

 俺たち五人は、宿の近くにあった飯屋で朝食を取っていた。

 テーブルの上には焼いたパンと卵料理、それと野菜の入ったスープが並んでいる。


「そういや、みんなに話しておくことがあるんだけど」


 俺がそう言うと、リリアたちがこちらを見る。


「昨日、モリアを第38勇者隊に誘った」


「えっ?」


 リリアが目を丸くした。


「モリアさんをですかっ!?」


「あぁ」


「私は構わないぞ」


 モリアは何でもないことのようにスープを口に運んでいる。


「ほ、本当ですか!? これからも一緒に来てくれるんですかっ!」


「あぁ。そのつもりだ」


「それは嬉しいですっ!」


 リリアは素直に喜んでいた。

 セシルとミナも特に反対する様子はない。


 よかった。

 勝手に誘った手前、嫌だと言われたらどうしようかと思っていたんだが……。


 そんなことを考えていると、リリアの動きが急に止まった。


「…………」


「どうした?」


「カイルさん」


「ん?」


「も、ももも、もしかして……」


 なんだ?


「昨日の夜、二人の間で何かあったんですか!?」


「は?」


 突然何を言い出すんだ、こいつ。


「あっ」


 セシルまで何かに気づいたような顔をした。


「そういえば、こないだの村の宿でも二人きりだったよね」


「いや、あれは――」


「も、もももしかして……」


「違う違う! 何もねぇよ!」


 俺が慌てて否定する。

 なんで勇者隊に誘っただけでそういう話になるんだ。


 すると、隣でモリアが平然と言った。


「確かにカイルはいい男だ」


「なっ!?」

「や、やっぱり……!?」


 リリアとセシルの顔が一気に青くなった。


「モリア! お前、余計なこと言うな!」


「何が余計なんだ? 事実を言っただけだ」


 モリアは首を傾げる。


「だが、私にも相手を選ぶ権利くらいはある」


「…………」


「カイルがいい男なのは認めるが、好みかと聞かれれば正反対だ」


 モリアは俺をちらりと見る。


「若すぎて、そそられん」


「…………」


 リリアとセシルが固まった。


「お前もお前で、朝っぱらから何言ってんだよ……」


「聞かれたから答えただけだろう」


 こいつ、本当にこういうところだけ妙に冷静だな……。


 朝食を済ませた俺たちは、そのまま宿の近くにある武器屋へ向かった。

 店の中には剣や槍、鎧なんかが所狭しと並べられている。


 まず必要なのは、モリアの剣だ。

 マンティコアとの戦いで聖銀の剣を失ってしまったからな。


「何かいい剣はあるか?」


 モリアが店主に聞く。


「どういった物をお探しで?」


「魔力を通して使う。多少荒く扱っても耐えられる物がいい」


「でしたら……少々値は張りますが、こちらでしょうか」


 店主が奥から一本の剣を持ってきた。

 鞘から抜かれた刀身は、普通の鉄剣より少し暗い色をしている。


「魔鋼の剣です」


「魔鋼?」


 俺が聞き返す。


「魔力を通しやすい特殊な鋼ですね。魔力を武器に流して戦う方には非常に相性がいいですよ」


 なるほど。

 モリアが剣を受け取り、軽く握る。


「悪くないな」


「お値段は金貨十枚になります」


「たっか……」


 思わず声が出た。

 剣一本で金貨十枚かよ。


 リリアも興味があるのか、魔鋼の剣を覗き込んでいる。


「リリアもこういうのにしたらどうだ?」


「いえ……私は無理だと思います」


「そうなのか?」


 リリアが頷く。


「モリアさんみたいに、剣へ上手く魔力を流し続けられませんから。私が使っても、値段ほどの性能は出せないと思います」


「そういうものなのか」


「魔鋼は誰が持っても強くなる剣ではないからな」


 モリアが言う。


「魔力をきちんと流せなければ、少し上等な剣と大して変わらん」


 なるほど。

 金貨十枚も出して普通の剣と大して変わらないなら、そりゃ買う意味はないな。


 モリアはそのまま魔鋼の剣を買うことにした。

 そして俺も、自分の防具を探す。


 今着ているのは、ベルクスで買ったブラックボアの革鎧だ。

 今まで随分世話になったが、これからマンティコアと戦うことを考えると、さすがにもう少し良い物にしたほうがいいだろう。


「ん?」


 鎧が並んでいるところを見ていると、一つ気になる物があった。


「ロックベアの革鎧かぁ……」


 前に戦ったことのある魔物だ。

 かなり頑丈そうだし、これなら今の革鎧よりはずっとマシそうだ。


 俺は値札を見る。


「…………金貨二枚!?」


 思わず二度見した。

 たっか!

 革鎧だぞ!?


「そちらは少々特殊な作りになっておりまして」


 店主がニコニコしながら近づいてきた。


「急所を守る部分には、革の間に上質な黒鉄を仕込んでおります。見た目ほど重くありませんし、動作にも支障は出ませんよ」


「黒鉄まで入ってんのか……」


 そりゃ高いわけだ。

 とはいえ金貨二枚か……。

 さすがにちょっと悩むな。


 俺が革鎧と値札を交互に見ていると、


「店主」


 モリアが声をかけた。


「その剣と、それもくれ」


「え?」


 俺はモリアを見る。


「それって、この革鎧か?」


「あぁ」


「いやいや、俺のは自分で払うって」


「別に構わん」


 モリアはあっさりと言った。


「それで生存率が上がるなら安いものだ」


「いや、でも金貨二枚だぞ?」


「知っている」


 そう言って、モリアは本当にそのまま買ってしまった。


「…………」


 後ろにいたリリアたちも、ぽかんとモリアを見ている。

 そして、


「……カッコいいです」


 リリアが小さく呟いた。


「うん……今のはカッコいい」


 セシルも頷く。


「男前ですね……」


 ミナまで感心したように言った。


「…………」


 俺は買ってもらった革鎧を見下ろした。


「……ありがとな、モリア」


「気にするな」


 モリアはそれだけ言うと、買ったばかりの魔鋼の剣へ視線を戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。