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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第73話:AAAランク相当の農民

「いや、そこで俺かよ!?」


 思わず声を上げると、支部長は俺のことをまじまじと見つめてきた。

 なんだよ。

 そんな珍しいものを見るような目で見るな。


「……なるほど」


「な、何がです?」


「報告書にあった一般人とは、君のことだったか」


「報告書?」


「あぁ。ローデン支部から届いたサイクロプス討伐の報告書だ。勇者二隊と共に戦った一般人がいたと記されていた」


 支部長は顎に手を当てながら、なおも俺を見る。


「正直、少々眉唾物かと思っていたのだが……」


「いや、そんな疑うような目で見なくても……」


 なんだ、この空気。

 俺が何か悪いことでもしたみたいじゃないか。


「少なくとも、嘘ではないな」


 モリアが横から割って入った。


「なんせ、リリアたちが影を追うので精いっぱいだったブレードパンサーの動きを、彼は初見で捉えていた」


「……は?」


 支部長の目がさらに鋭くなる。


「いやいや、別に見切ってなんかいねぇよ」


「ほう?」


「最初は速えなって思いながら、目を凝らしてたら、徐々に見えるようになっただけで……」


 最初は黒い影みたいにしか見えなかった。

 けれど、目で追い続けているうちに、少しずつ輪郭が見えるようになった。


 目に身体強化を使っていたとは、モリアにも言われた。

 けど、俺の感覚としては、目を凝らしていただけなんだよな。


「……ふむ」


 支部長が顎に手を当てる。


「AAランクほどの身体強化を目に集中させなければ、影を追うのが精いっぱいと言われるブレードパンサーの動きを……目を凝らしているうちに認識できた、と」


「まぁ……そうなるのか?」


 なんでだろう。

 説明したら余計に変な顔をされた。


「その動体視力強化も、自然と出来るようだ」


 モリアがニヤリと笑った。


「おい、モリア」


「事実だろう?」


「いや、そうかもしれんけどさ……」


 モリアは俺の抗議など気にする様子もなく、支部長へ向き直った。


「彼は一般人ではあるが、冒険者ランクに喩えるなら、いくつくらいになると思う? 支部長」


「俺を勝手に冒険者扱いするなよ……」


 だが、二人とも聞いていない。

 支部長はしばらく唸りながら俺を見た。


「……信じられませんが」


「うん?」


「今のお話がすべて事実ならば、AAAランク相当でしょうな」


「……はい?」


「AAAランクです。冒険者全体でも、上位数%しか到達できないと言われる領域です」


 聞き間違いじゃなかったらしい。


「いやいやいや」


 俺は思わず首を横に振った。


「それは流石におかしいだろ」


「しかし、実績だけを見れば……」


「だってAAAだぞ? そんな大層なもんじゃねぇって」


 俺は普通の農民だ。

 畑を耕して、狩りをして、薪を割って。


 多少身体が丈夫なのは認めるが、それでAAAランクになるなら、世の中の農民はもっと評価されてもいいはずだ。


「とは言ってもよ」


 俺は隣にいるリリアを見る。


「俺から見ると、リリアもめちゃくちゃ速いと思うけどな。そのリリアより上ってのは、どうなんだろうな」


「……カイルさん」


「ん?」


 リリアが俺をじっと見る。


「カイルさんに、私の動きってどこまで見えてるんですか?」


「どこまでって……」


 急に聞かれても困る。

 俺はこれまでの戦いを思い出す。


「うーん……」


 確か、リリアが本気で動く時は。


「まず、一回姿勢を低く構えるよな」


「はい」


「それで……あれは太もも辺りに魔力を集中させてるのか?」


 リリアの目が少し見開かれる。


「その状態で地面を踏み抜くように蹴って、一気に距離を詰めるか……蛇行するように走り回って、相手を攪乱してる」


 ロックベアと戦った時もそうだった。

 真正面から突っ込むように見えて、左右へ細かく進路を変えていた。

 爪が振るわれる直前には身体を沈め、次の瞬間には別の場所へ移動している。


「……とか、かな」


「おー……」

「おー……」


 何故かセシルとミナが拍手を始めた。


「なんだよ」


「いや、普通に凄いなと思って」


「私もです」


「何が?」


 俺が首を傾げると、リリアが困ったように笑った。


「……その動作、限りなく短くやってるんですけど」


「そうなの?」


「そうですよ。戦ってる最中に、いちいち長く構えてたら狙われちゃいますから」


「まぁ、そりゃそうか」


「それ……見えてるんですね……」


「見えてるっていうか……普通にやってるのが分かるだけだぞ?」


 なんかまた空気がおかしくなった。

 俺は若干戸惑いながら、セシルとミナを見る。


「……もしかして、お前らはあの動き見えてないのか?」


「見ようと思えば出来るんだろうけどね」


 セシルが肩を竦める。


「一瞬の動作すぎるから、気が付いた時には大体リリアが一気に距離詰めてる」


「私も同じです」


 ミナも頷いた。


「……マジか」


 俺には普通に見えていたんだが。


「それだけ確認できれば、十分だろう。カイル」


 モリアがそう言って、話を打ち切った。


「いや、俺としては全然十分じゃないんだけど……」


「気にするな」


「気になるわ」


 なんで俺だけ置いていかれてるんだよ。

 モリアは俺を無視して支部長へ向き直る。


「これで異論はないな?」


「……」


 支部長は俺を一度見たあと、リリアたちにも視線を向けた。

 そして、しばらく考え込んだ末に深く頷く。


「……わかりました。モリア様」


「あぁ」


「今一度、貴女様にマンティコアの討伐を依頼致します」


 その言葉を聞いた瞬間。

 モリアの目に、何か覚悟を決めたような光が宿った。


「……承知した」


 短い返事だった。

 けれど、その表情を見ていると。

 俺は素直に安心することができなかった。


 マンティコアを倒した後のことを、モリアは考えられないと言っていた。

 だからこそ。

 この依頼が、こいつにとって最後の戦いになるようなことだけは避けたい。


「しかし……」


 支部長はそんなモリアを、まだ心配そうに見つめていた。


「本当に大丈夫ですか? モリア様」


「何がだ?」


「今、このギルドには……前回貴女様に貸し出し、マンティコアとの戦闘で吹き飛ばされた聖銀の剣に代わる名剣はございません」


「あぁ……」


 モリアは僅かに目を細めた。


「……問題ない」


「ですが」


「それよりも、失くして悪かった」


 モリアが素直に謝る。

 すると支部長は少し驚いたあと、優しく笑った。


「構いませんよ」


「……そうか?」


「聖銀の剣は、また作ればいい」


 支部長は静かに続ける。


「それよりも、希少な高ランク勇者を失うほうが、王都にとっても損害は大きいです」


「……」


「ですから今回は、くれぐれも無理だけはなさらぬよう」


「善処しよう」


「そこは『分かった』と言っていただきたいところなのですが……」


 支部長が苦笑する。


「モリアにそれを期待するのは難しいと思うぞ」


 俺が横から口を挟むと、


「お前に言われたくはないな」


「なんでだよ」


「自覚がないのか?」


「何の?」


 モリアは呆れたように俺を見る。

 なんだよ。

 俺は別に無茶なんかしてないぞ。

 たぶん。


「……とにかく」


 支部長が咳払いを一つする。


「討伐へ向かわれるのは、明日ですかな?」


「あぁ。そのつもりだ」


「でしたら、本日はもう遅い。今夜の宿はこちらで手配しましょう」


「いいのか?」


 俺が聞くと、支部長は頷いた。


「もちろんです。ギルド御用達の宿がありますので、そちらをお使いください。宿泊費はこちらで負担致します」


「おっ、そいつはありがたい」


「ありがとうございますっ!」


 リリアが嬉しそうに頭を下げる。


「長旅でお疲れでしょう。今日はゆっくり身体を休めてください」


「そうさせてもらう」


 その後、マンティコアが今も山から離れていないことや、最近の目撃情報について軽く話を聞いた。

 今のところ、周辺の村や街道に被害は出ていないらしい。

 どうやら本当に、傷を癒すため山に籠もっているようだ。


「では、明日の朝に」


「あぁ」


 俺たちは支部長へ礼を言い、部屋を出た。

 受付で宿の場所を教えてもらい、そのままギルドの外へ出る。


「うわ、もう真っ暗じゃん」


 外へ出ると、日は完全に沈んでいた。

 街灯の明かりが道の両脇を照らし、昼間とは違った街並みが広がっている。


「お肉出るかなぁ……」


 セシルがぼそっと呟く。


「肉厚なお肉がいいよねぇ」


 リリアも楽しそうに続いた。


「ほんとお前ら肉ばっかだな……飽きないのか……?」


 俺が呆れて聞くと、リリアはきょとんとした顔をした。


「お肉って、飽きるものなんですか?」


「お肉に飽きるなんて概念は存在しないんだよ、カイル……」


 セシルが、何故か悟ったような表情で言う。


「ハハ……そうかい……」


 俺は呆れたように笑った。


「出るといいな、肉……」


「「ハイッ!!」」


 妙に元気な返事を聞きながら。

 俺たちは今夜泊まる、ギルド御用達の宿へ向かうことにした。

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