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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第72話:目的地アルゼン

 翌朝。

 目を覚ました俺たちは、荷物をまとめて空き家を出た。

 昨日の祭りの名残なのか、村の中央にはまだ片付けられていない屋台がいくつか残っている。


「腹減ったなぁ」


「私もですっ!」


「リリアは起きてすぐそれかよ」


「朝ご飯は大事ですよっ!」


「昨日あんだけ食ったのにな……」


「昨日は昨日です!」


 元気なことで。

 俺たちは村に一軒だけあった食堂へ入り、朝飯を取ることにした。

 出てきたのは、焼いたパンと卵、それに野菜の入ったスープ。

 昨日の祭りで随分食ったこともあり、朝飯としてはこのくらいで十分だった。


「お待たせしましたー!」


 食堂の主人らしき男が、追加のパンを持ってこちらへやって来る。


「ありがとうございますっ!」


「いやいや。昨日の祭りは楽しんでもらえ――」


 主人の言葉が途中で止まった。


「……ん?」


 何事かと思って見ていると、男はリリアの胸元をじっと見つめている。

 正確には、そこにある紋章を。


「……あの」


「はい?」


「も、もしかして……勇者様……ですか?」


「え?」


 リリアが自分の胸元を見る。


「あぁ……はい。そうですけど」


「や、やっぱりっ!?」


 主人が盛大に声を上げた。

 その声に、食堂にいた村人たちまで一斉にこちらを見る。


「勇者様!?」


「昨日祭りにいた子たちだろ!?」


「なんで誰も気付かなかったんだ!?」


「いや、普通に旅人だと思ってたぞ!」


 朝っぱらから食堂が騒がしくなった。


「す、すいません勇者様! 昨日は知らなかったとはいえ……」


「大丈夫ですよ」


 リリアは慌てる主人へ笑顔を向けた。


「昨日のお祭り、楽しかったです」


「そ、それは良かったです……」


 主人がほっとしたように胸を撫で下ろす。

 別に勇者だと知らなかったからって、何か失礼なことをされたわけでもないんだけどな。

 むしろ銀貨一枚で一軒貸してくれたんだから、十分ありがたい。


 朝食を終えた俺たちは、そのまま村を出ることにした。


「それじゃあ、お世話になりました」


「いえいえ! またいつでもいらしてください!」


 食堂の主人たちに見送られながら歩いていると、


「お姉ちゃん!」


「ん?」


 後ろから声がして、セシルが振り返る。

 昨日の祭りにいたらしい男の子が、こちらへ駆け寄ってきていた。


「お姉ちゃん、また早食い勝負しようね! 今度は僕が勝つよ!」


「ふふん。その時が来たら楽しみにしてるよ」


「うん!」


 男の子は満足そうに手を振りながら、村の中へ走って戻っていった。


「……お前、そんなことしてたんかい」


「祭りなんだから、楽しまないとね」


「ほんと、どこにそんなに入るのよ……」


 ミナが呆れたように呟く。


「昨日も同じこと言ってなかったか?」


「言いたくもなります」


「私は早食い勝負をしただけだよ?」


「だから、その話をしてるのよ」


「……」


 セシルが静かに目を逸らした。


「さぁ、行きましょうっ!」


 何故かリリアが元気よく声を上げる。


「お前も同類だからな」


「なぜっ!?」


 そんなくだらない話をしながら、俺たちは二つ目の村を後にした。


 目的地は、アルゼン。

 ここまで来れば、あと一日もかからないらしい。

 森を抜け、街道をひたすら北へ進んでいく。

 道中は特に何事もなかった。

 モリアの殺気のおかげなのか、モンスターらしい姿も見かけない。

 そのまま歩き続け、昼を少し回った頃。


「そろそろ飯にするか」


「賛成ですっ!」


「リリア、お前さっきから飯の時だけ返事早くない?」


「気のせいです!」


 街道脇の開けた場所を見つけ、俺たちはそこで休憩を取ることにした。

 鍋を出し、残っていた干し肉と野菜を適当に切って放り込む。

 あとは水と塩を入れて煮込めばいい。


「今日は随分簡単だな」


 隣で見ていたモリアが言う。


「昼飯だしな。夜にはアルゼンに着くんだろ?」


「あぁ。この調子なら夕刻を少し過ぎる程度だろう」


「なら、ちゃんとした飯は街で食えばいい」


「私はこれでも十分ですけどね」


 ミナが鍋の中を覗き込む。


「カイルの簡単は、あんまり簡単じゃないよ」


「煮てるだけだぞ?」


「普通、旅の途中で野菜切ってスープまで作らないからね」


「……そうなの?」


「そうだよ」


 セシルに呆れられた。

 まぁ、美味けりゃなんでもいいだろ。


 昼食を済ませ、少し休んだあと、俺たちは再び街道を進んだ。

 そこからも大きな問題はなく。

 空が夕焼け色に染まり始めた頃、遠くに大きな街壁が見えてきた。


「あれがアルゼンか?」


「あぁ」


 モリアが頷く。


「今回の依頼を受けた街だ」


「ようやく着いたかぁ……」


 第二王都を出てから三日。

 途中で二つの村に泊まったとはいえ、随分歩いた気がする。

 街へ入った頃には、日はほとんど沈みかけていた。

 だが、モリアは宿を探すでもなく、そのまま真っ直ぐ歩いていく。


「先にギルドか?」


「あぁ。依頼の状況を確認しておきたい」


「了解」


 俺たちはモリアについて、アルゼンの冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドへ入ると、モリアは迷うことなく受付へ向かう。


「すまない」


「はい。ご依頼でしょうか?」


「仲間は揃った。あの依頼の続きを受けたい」


「……あの依頼?」


 職員は一瞬首を傾げた。

 だが、モリアの顔をよく見ると、すぐに表情を変えた。


「モ、モリア様!?」


「あぁ」


「少々お待ちください!」


 職員は慌てて奥へ走っていった。

 しばらくすると戻ってきて、


「支部長がお待ちです。こちらへどうぞ」


 俺たちはそのまま、ギルドの奥にある支部長室へ案内された。

 部屋へ入ると、机の向こうに座っていた初老の男が立ち上がる。


「モリア殿……!」


「久しぶりだな」


「まさか、また戻ってこられるとは……」


 支部長はモリアの姿を見て、どこか心配そうな表情を浮かべた。


「それで……新しい魔導士と聖職者は見つかりましたかな?」


「あぁ」


 モリアは俺たちへ視線を向ける。


「こちらの者たちに協力してもらうことになった」


 支部長も俺たちを見る。

 リリアが一歩前へ出た。


「第38勇者隊のリリアと申します。こちらが魔導士のセシル、聖職者のミナ。そしてカイルさんです」


「セシルと申します。よろしくお願いします」


「ミナと申します。よろしくお願いいたします」


「カイルです。どうも」


 俺たちがそれぞれ挨拶をする。

 モリアはそんな俺たちを横目に見てから、支部長へ向き直った。


「それより、やつはまだあの山にいるか?」


 その言葉で、支部長の表情が引き締まった。


「はい。調査隊の調べですと、まだやつはあの山で傷を癒しているようです」


「そうか」


「今のところ、山を離れた形跡も確認されておりません」


 モリアは静かに頷く。


「ならば好都合だ」


 だが、支部長は素直に頷かなかった。

 俺たちへ視線を移す。


「第38勇者隊……ですか」


「はい」


「確か、最近AAランクへ昇格されたばかりだったと記憶しておりますが……」


「そうです」


 リリアが答えると、支部長は難しい顔をした。


「……そうですか」


「何か問題でも?」


 モリアが尋ねる。


「いえ……」


 支部長は少し言いづらそうにしたあと、深く息を吐いた。


「出来ることなら、第27勇者隊のルシア様か……第23勇者隊の方がいればと思ったのですが……」


「ルシア様?」


 聞き覚えのある名前に、俺は反応した。


「ルシア様って、あの銀髪のか?」


「そうです!」


 支部長が勢いよくこちらを見る。


「ご存知なのですか!? 今どちらに!?」


「いや、第二王都で会っただけだぞ」


「第二王都に!?」


「あぁ。戦士のダグラスを迎えに来てたみたいでさ。そのあとすぐ、またどっかに行っちまったから、今どこにいるかまでは知らん」


「……そうですか」


 支部長は明らかに残念そうな顔をした。


「そんなに強いのか? ルシアって」


「……はい?」


「いや、なんかそんな強そうには見えなかったんだけど」


 むしろ俺の心配ばかりしていた印象が強い。

 農民なのに勇者パーティーに連れ回されている可哀想な男だと、最後まで疑われていたしな。


「いえ……彼女は現在も残存する勇者隊の中でも、希少なSランクの勇者です。さらに――」


「教会機関初の勇者で、治癒術にも長けたお方です!」


「うぉっ!?」


 突然、隣からミナが割り込んできた。

 見ると、普段あまり見ないほど目を輝かせている。


「というか超有名人です!!」


「そ、そうなの?」


「第二王都にいらっしゃったんですか!? 一度、本物を見てみたかったです!」


「……そんなにか」


「そんなにです!」


 なんか知らんが、ミナの食いつきが凄い。


「そうか……入れ違いか。残念だな」


 モリアも少し惜しそうに呟く。


「第23隊は、残念ながらもっと北にいるだろう……第二王都付近で会えるはずもあるまい」


「やはり、そうですか……」


 支部長が再び息を吐いた。

 そして、しばらく黙ったあと、


「……モリア殿」


「なんだ?」


「再度討伐に向かわれるのは、反対致します」


 部屋の空気が少し変わった。

 モリアは何も答えない。


「以前のモリア殿には両腕、両目がありました。そして何より、長年連携を取ってきた魔導士と聖職者のお二人がいた」


「……」


「その三人が揃って初めて、Sランク勇者隊として認定されていたのです」


 俺は思わず、モリアを見る。

 片腕。

 そして、片目。

 仲間を失った話は聞いていた。

 けれど。


「……マンティコアにやられたのか?」


「あぁ」


 モリアは短く答えた。

 あのマンティコアは、モリアから仲間二人だけではなく。

 片腕と片目まで奪っていたらしい。


「認定上は今もSランクです。ですが、現在のモリア殿お一人の戦力だけを見れば……恐れながら、AAAランクの中でも上位。そう評価するのが妥当でしょう」


「随分と落ちたものだな」


 モリアは淡々と答える。


「それでも並の冒険者とは比べものになりません。ですが、相手は純粋なAAAランクのマンティコアです」


 支部長は続けてリリアを見る。


「かたや、リリア殿率いる第38勇者隊は、最近AAランクへ昇格されたばかりとあります……」


「……はい」


「とてもですが、この戦力で再び討伐へ向かわれるというのは……」


 そこまで聞いたところで。

 モリアが、ニヤリと笑った。


「そこは大丈夫だ」


「……何か?」


 モリアは何故か、俺を見る。

 嫌な予感がした。


「この自称一般人の男を連れて行く」


「……は?」


 支部長も俺を見る。


「その方は……?」


 すると、リリアが待ってましたとばかりに口を開いた。


「Aランクのロックベアを、重傷を負いながら地面にねじ伏せて!」


「AAAランク相当のサイクロプスとも真正面から打ち合って」


 セシルも続く。


「最終的には、そのサイクロプスまで倒した自称一般農民です!」


 最後にミナが胸を張った。

 俺は三人とモリアを順番に見る。


「いや、そこで俺かよ!?」

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