第7話:俺の代わりが見つからない…
昼食を取り、飯屋から出た俺は、リリアに声を掛けた。
「なぁ、リリア。とりあえず街についたし、戦士を見つけにいかないか?」
すると、リリアは不満そうな顔で俺を見た。
「えー? カイルさんは、私達と一緒なのは嫌なんですかぁ?」
それを聞いたセシルとミナまで、さらに畳みかけてくる。
「酷いわ、カイル。私達って貴方にとって、そんな軽い存在だったのね」
「失望しました」
いや、セシルとミナのその重い反応はなんなんだ……。
「嫌とかそういうわけではなく、ちゃんとした前衛を見つけましょうって話だよ……。セシルもミナも後衛なんだから、リリア以外に優秀な前衛がいたほうがいいだろ」
俺はもっともらしい理由をつけて、セシルとミナに話しかけた。
少なくとも、農民である俺より、本職の人が仲間になったほうが安心だろう。
だが、セシルとミナの反応は鈍かった。
「それが簡単に見つかったら苦労はしない」
「カイルさんがそこまで言うなら、とりあえずギルドを見に行きますかぁ」
二人の期待薄そうな反応に加え、リリアまで深いため息を吐く。
「仕方ないですねぇ……」
俺は不安に駆られながらも、リリアに先導されて冒険者ギルドへ向かった。
中央広場から少し進んだ先の開けた場所に、大きな木製の建物が見えてくる。リリアは迷うことなく、その重厚な扉を開いた。
中には中央カウンターにギルド職員がおり、側面の掲示板には依頼表らしきものが貼ってある。
リリアはそのままツカツカと奥へ進むと、胸の紋章をギルド職員に見せつけながら話しかけた。
「勇者リリアです。今、前衛を探しています。登録者から協力を仰ぎたいのですが」
ギルド職員は紋章をまじまじと見つめ、少ししてから返事をした。
「確認しました。探す前衛の条件などはございますか?」
「んー……少なくとも、今連れている彼よりも強くて頼りになる方、とかいらっしゃいませんか?」
リリアのあまりにもざっくばらんな聞き方に、ギルド職員は苦笑いを浮かべていた。
俺も思わず溜息をついてしまう。
「……はぁ……リリア、ちゃんと探す気あるのか……? もっと具体的な聞き方とかあるだろ……」
「えー……具体的な聞き方ですかぁ……? えーと……料理洗濯ができて、経済力があって、持ち家で……」
それを聞いたギルド職員は、さらに苦笑いを浮かべながら口元を引きつらせた。
まぁ、そうなるだろうよ……。
「……理想のご結婚相手探しなら、どうぞ別の場所で……」
リリアの出した条件に、危うくギルド職員からお引き取り願われそうになった、その時だった。
リリアが、ふぅ……と軽く息を吸い、今度は真面目に答える。
「ブラックボアを、槍などの投擲で一撃で倒せる人がいいです。もしくは最低でも、ホーンラビットを素手で潰せる人が良いです」
リリアは、今まで俺がしてきたことを具体例として出してきた。
少なくとも、これで多少は見つかりやすくなることだろう。
そう思ったのだが、ギルド職員は顔をしかめ、重そうに口を開いた。
「……魔王領近くのギルドなら、そんな方もごく稀にいるかもしれませんが、この辺境都市周辺でそんな逸材はおりませんよ……。というか、その方がそれをできるのなら、わざわざ手放す理由はないのでは?」
「ごもっともでございます……」
リリアは苦笑いで返した。
いかん……。これでは、戦士探しをやめて、正式にこの勇者パーティーに登録されてしまう……。
「そんなすぐに諦めないでっ!? もうちょっと条件下げればいいでしょうがっ!? それに、その戦士の今後の成長に期待すればいいわけだし!」
俺がどうにか食い下がって提案すると、リリアは遠い目をしながら腕を組み、顎に手をあてて、深く考えているような素振りを見せた。
「……とは、言われてもですねぇ……」
そんな時だった。
突如、後ろから声を掛けられる。
「戦士をお探しかい? 嬢ちゃんたち」
振り返ると、屈強そうなヒゲ面の筋肉マッチョな男が、自慢げに立っていた。
おぉ、まさに救世主とはこの事よ。
「おぉ!? あんた戦士か!? 丁度良かった! 今、勇者パーティーの為に戦士を探してたんだ! あんた、このパーティーに入ってやってくれないか!?」
俺は思わず、熱の入った勧誘を行った。
「……えー……私はカイルがいい」
「男は強さだけじゃないと思うんですよ」
セシルとミナは、なぜか反対気味である。
男はカラカラと笑うと、俺に話しかけてきた。
「なんでい、兄ちゃん。気に入られてんじゃねぇか。なら、無理に抜ける必要もねぇんじゃねぇか?」
「とは言っても、俺、農民だからなぁ。勇者たちの今後を思うと、俺はここで道案内だけ済ませて、さっさと村に戻ったほうがお互いの為だよ」
俺が自分は農民であることを明かすと、男は少し態度を変えた。
「なんでぇ、兄ちゃん、農民か。可哀想にな。それで、慣れ親しんだ勇者パーティーから自分で離れようって寸法か……。まぁ、そのハリボテの棍棒じゃあ、見掛け倒しにしかなんねぇからなぁ」
どうやらこの男は、俺の棍棒の中身を、スッカスカの空洞でできた威嚇用の何かだと思っているようだ。
そこへ突然、リリアが話に割って入ってきた。
「……戦士さん。カイルさんが持っているその棍棒、振れますか?」
リリアの急な提案に、男は貸してみろと言わんばかりに俺のほうへ手を差し出した。
俺はおとなしく棍棒を渡し、男がしっかり握ったのを確認してから手を離す。
「……っ!? なんだこの重さっ!? 中身は空洞じゃねぇのか!?」
男は思わず驚愕の声をあげた。
だが、リリアは淡々と答えるだけだった。
まるで、そうなるとわかっていたかのように。
「……それ、振れますか? 少なくとも三十分は素振りできるくらいの筋力がないと困るんですけど」
男は困惑した表情を浮かべた。
「……筋力強化のスキルを使って五分が限度かもな……。それ以降は、動くこともできねぇだろうな……。兄ちゃん、自分がただの『農民』だなんて、嘘言っちゃいけねぇよ」
「……一応、本当に農民なんだけどねぇ……」
俺はそう言いながら、男から棍棒を回収した。
男はそれ以上何も言わず、バツが悪そうに去っていく。
するとリリアが、なぜか胸を張って言い始めた。
「こうなるって私、最初からわかっていたんですよ!!」
セシルとミナも、うんうんと頷きながら続く。
「流石、私のカイル」
「いや、あんたのじゃないから……。でも、私も慣れている人のほうが安心しますわ」
二人から、謎の安堵感が滲み出していた。
……いや、俺は困るからね?
そんな様子を終始見ていたギルド職員が、興味津々といった顔で話しかけてきた。
「カイルさん、と言いましたか? どうですか? 冒険者登録などは?」
「いえ! お断りしますっ!」
間髪入れずお断りするも、ギルド職員は諦めなかった。
「じゃあ、せめてスキル鑑定だけでもっ!」
「昔、村に立ち寄った人に鑑定してもらったら、無スキルと言われたのでっ!」
それでも、ギルド職員は諦めない。
……なんだろう。
家に来る宗教勧誘みたいなこの熱量は……。
「じゃあ、せめて実力テストだけでもっ!」
ふむ……実力テストか……。
「それなら、一応受けておこうかな……。勇者様の旅路に俺がついていけるか、勇者様自身に判断してもらったほうが早いしな」
俺がそう言うと、リリアは、
「またまた、ご謙遜を……」
と、何故かジト目でこちらをじーっと見てくるのだった。
いや、本当になんでこんな事になったんだろうか。




