第6話:農民だけど、ホーンラビットの革と角を売ってみた。
翌日の昼前。
俺たちは無事に下山を終え、トルカの街に着いた。
ここで俺の代わりの前衛が見つかるといいんだけどなぁ……。
前を歩くリリアたちを、俺はぼーっと眺めながら思っていた。
そんな時だった。
「そこの男、止まれ」
門番が俺に槍を突き出して警戒してきた。
リリアたちは普通に門をくぐってるのに、なぜ俺だけ?
「なんで俺だけ引き留めるんですか?」
思った事を口にした。
門番は毅然とした態度で俺に言い放つ。
「その巨大な棍棒はどこで手に入れた……?」
門番は警戒を解かない様子だ。
「まさか、俺が盗むような人に見えるとでも?」
俺は思ってる事をそのまま口にした。
だが、門番は依然として頑とした態度を譲らない。
「いいから答えろっ!」
「……そんな怪しいかぁ? これ……友人が家の増築に使う際に用意した柱をちょっと加工して作ってくれたんですよ。流石に外を手ぶらで歩くわけにはいかんでしょ?」
俺の答えに門番は呆気に取られる。
「……つまり、それは自家製か……?」
「俺が作ったわけじゃないから、自家製ってわけではないですけど、まぁ似たようなもんかな?」
俺はそう言いながら門番の槍を見つめた。
刃渡り十センチくらいの刃がついた普通の槍。
そんなもんで、モンスターの外皮とかに刃が通るんだろうか……。
まぁ、昨日のホーンラビットくらいなら問題ないだろうけど。
「……ちょっと持たせてもらってもいいか?」
門番は奇異な目で俺の棍棒を眺めながら言った。
「いいですよぉ、減るもんじゃないし」
俺はそう言って門番に渡したが……。
「……ぐっ!? なんだこの重さは……!? キミ! これが本当に武器なのかね? とても振れるようには思えないが!!」
門番は棍棒をどうにか両手で持っているが、先っぽは地面についたままで俺を見た。
……ふむぅ? なんだか意外だ。ゲームの世界だと身の丈の大剣を振り回すなんて普通なんだけど、やっぱゲームの世界ではないんだなぁ……。
ってか、俺が振れて門番さんが振れないって、大丈夫か? この街の警備……。
そう思いながら、俺は渡した棍棒に手を伸ばし、
「普通に振れますよ?」
棍棒を手にした俺は軽く振ってみた。
――ブンッ!
あたりに風が走る。
「……マジかよ……キミ、本当に人間なのか……?」
「門番さん……それ流石に失礼すぎますって……」
驚愕の表情を浮かべながら、何やら人を人外か何かと言いたげな門番に対して、口を閉ざしていたリリアたちが胸を張って答えた。
「どうですか!? すごいでしょ!! うちのカイルさんはっ!」
「確かに馬鹿力ですけど、ちゃんと人間やってます。たぶん」
「うちのパーティーのお母さんは伊達じゃないでしょ?」
リリアは素直に褒めてくれたが、セシル……たぶんってなんだ、たぶんって……あとミナ、俺はお母さんじゃない……。
門番はリリアたちを訝しみながら見た。
だが、
「……その紋章は……! 失礼しました勇者様!!」
そう言うと深々と頭を下げる門番。
「ふふん……わかればよろしい」
リリアは鼻をフンスっとならし自慢げに答えた。
やっぱ勇者って偉いんだなぁ……。
そんな感想をよそに、リリアは俺のほうを見て、
「さっ! 行こう!! 私お腹減っちゃったから早くお昼ご飯食べたくてっ!」
笑顔で俺に言うのだった。
やれやれ……腹ペコ勇者様め……。
「……ってわけだから、入っていいですか?」
俺は門番に一応許可を取ってみる。
「勿論です!! 大変失礼しましたっ!!」
門番が敬礼し、無事俺たちはトルカの街に入ることが出来た。
***
リリアたちは街の看板を確認し、今日の宿屋と飯屋の場所を確認していた。
そんな姿を後ろから見ながら、俺はある事を思いついた。
「あ、そういや、ホーンラビットの革や角があったから、これ売ってくるわ」
昨日の鍋の具材になったウサギの残骸を、素材屋に売りに行くのだ。
「え? それって売れるんですか?」
リリアは意外そうな顔で問いかけてきた。
「ん? 普段は倒したモンスターはどうしてんだ?」
「どうって、討伐した証しとして、ギルドに買い取ってもらっていますよ」
ふむ……なるほど。まぁ、それはそれで手間がかからないだろうが、何割かは抜かれてそうだな。
「それに、ギルドに出すと冒険者としての格が上がっていくんですよ?」
「んー、俺は別に冒険者としてのランクに興味ないしなぁ。まぁ、買い取ってもらえなかったら考えるわ。お前らは先に昼飯行っててくれよ」
ダメ元で交渉する価値はあるだろう。
「わかりました。そしたら、私たちは中央広場にあるごはん屋さんに行ってるので、終わったら来てくださいね」
こうして、俺は彼女らと一旦別れて、素材屋に向かうことにした。
中央広場とは別の方向。武器屋や防具屋などが立ち並ぶ商業区に素材屋はあった。
木の扉をあけて、俺は挨拶した。
「よっ、買い取ってほしいものがあるんだけど」
テーブルの向こうで片肘をつきながら店主らしき男が返事をしてきた。
「何を買い取ってほしいんだ? 兄ちゃん」
そう言われると、俺は背嚢から丸めていたホーンラビットの革と角を取り出した。
「これだ」
「ほぉ……死体ごとじゃなくて、革と角にわけてあんのか……」
店主はまじまじと革と角を見つめた。
「ふむ……こんなもんでどうだい?」
店主は指を二本立てた。
……銅貨二枚か。
猪の毛皮や牙に比べたら、そんなもんかもしれないが、もうちょっと色付けてくれたら助かるんだけどな。
「……安すぎないか? 革の状態や角の状態を見てくれ。普通の冒険者なら、もっとギタギタになってそうなもんだろ。それにこんなに綺麗に解体されてるものをギルド以外から手に入れるのも大変なんじゃないか?」
俺はダメ元でカマをかけてみた。
「わかったわかった。なら、これでどうだ」
店主は指を三本立てた。
「……なら、他をあたるよ。邪魔したな」
イマイチ反応が悪い店主の様子を見た俺は、他の素材屋ならどういう値段で買い取ってくれるか気になって、外に出ようとした。その時だった。
「待ってくれ! その状態で持ってくるやつなんて、そうそう居ねぇから、いくら出すのがいいのか判断に迷ったんだ! 四でどうだっ!?」
ふむ……店主の焦りようから見ると嘘ではないんだろう。
しかし、銅貨四枚か。
大した金額にはならないな。
「んまぁいいだろう。その金額で」
俺は了承して、革と角を渡し、店主からコインが入った革袋を受け取った。
「またそれが手に入る機会があれば、ぜひうちで」
店主が営業スマイルをしてるのを見て、次からは交渉しなくても、最初から最大値で買い取ってくれるかもしれない。それだけでも収穫だろう。
「あぁ、その機会がありゃぁまた頼むよ」
俺は返事をして店を出て、リリアたちと合流しに中央広場の飯屋に向かった。
中央広場の一角にある大きな大衆飯屋の、外にあるテーブル席でリリアたちは食事をしている様子で、俺は見つけて彼女らに近づいた。
「待たせたな。……ってか、凄い量だな……」
「おふぁえりなふぁい」
口をもぐもぐと動かしながらリリアは返事をした。
「おふぁえり」
セシルも同様に口を動かしながら答えた。
二人の前には山盛りの炒飯と色々なオカズが並べられていた。
席に座りながら、俺は隣のミナに声をかける。
「いつもこんなに頼むのか?」
「はい……リリアもセシルも身体に似合わず大食なので、食費が大変ですよ……。勇者手当だけだと足りない現状ですね」
「……なんか大変だなぁ」
俺はミナに同意しつつ、先ほど受け取った革袋からコインを出して、山分けしようとした時だった。
革袋から出てきたのは、銅貨ではなく銀貨四枚だった。
「え!? 銀貨ですかそれ!?」
「そのようだな」
てっきり銅貨かと思ったら、まさか銀貨だとは……。
ミナも驚きを隠せず、リリアとセシルも食べながら驚いている顔をしていた。
「な、何を売ってきたんですか?」
「だから、ホーンラビットの革と角だよ。とりあえず四枚だし、一人一枚ずつか? それともパーティーで財布当番とかいるのか?」
俺は事実をそのまま告げて、誰に銀貨を渡せばいいか尋ねた。
「その役目は私がやってますけど……でもモンスターの素材ってそのまま売れるんですね……っていうか、額で言えば、素材にして売ったほうが儲かるかも?」
「ま、ギルドの取り分やら、ギルドで解体するときは解体屋とか雇うとか。そういう手間賃を省けば当然差額で儲かるだろうな」
自身の考えを言いながら、飯屋のメニュー表を見て店員に注文した。
その様子をリリアとセシルがじーっと見つめてきているのがわかった。
「……さっきからなんだよ。俺の顔になんか付いてるか?」
「……前衛も家事も出来て、更にはお金稼ぎまで出来るんですね……」
リリアは何やら感心した様子だ。
これはあんまりいい流れではないかも……。
「……カイルの代わり、見つかるのかしらね」
セシルが俺が今一番気にしてることをさらっと述べた。
「だ……大丈夫だろ……戦える家政婦兼商人みたいな人だって探せば……」
自分に言い聞かせるように言ってみたが、
「そんな人いたらフリーでいるわけないですよね」
ミナがさらっと言ってのけた……。
そうだなぁ……変にこの子らの好感度上げてどうすんだ俺は……。
これは本当に数ヶ月この子らと一緒に旅にでることになるんだろうか……。
俺がスローライフを取り戻すのは、果たしていつになることやら……。




