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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第66話:勇者と森の昼休み

 北門を抜けた俺たちは、そのまま鬱蒼と木々が茂る森の中を北へ進んでいた。

 一応、道らしきものは残っている。

 ただ、何年も整備されていないのだろう。

 地面には雑草が伸び、所々から木の根が顔を出していた。

 人の気配もほとんどない。

 聞こえてくるのは、乾いた葉が地面をカサカサと転がる音くらいだった。


 北門を出てから、凡そ二時間ほど経っただろうか。

 その間、俺たちは一度もモンスターに襲われることなく、順調に真っ直ぐ北へ進んでいた。

 何故、二時間も歩いているのにモンスターが一匹も近づいてこないのか。

 その理由は、もう俺だけでなくリリアたちにも分かっていた。


「……やっぱり、モリアさんですよね」


 リリアが小さな声で呟く。


「だろうな……」


 先頭を歩くモリアから、相変わらず殺気が滲み出ている。

 森にいる弱いモンスターたちは、それを事前に察知して近づいてこないらしい。


「ここまで何も出てこないと、逆に変な感じですね……」


 ミナが周囲を見回しながら言った。


「楽ではあるけど……」


 セシルも少し複雑そうな顔をしている。


「そうなんだよなぁ……」


 襲われないのはありがたい。

 ありがたいんだが。

 しばらくその静けさの中を歩いていると、俺はどうにも落ち着かなくなって、つい口を開いた。


「……なぁ、モリア。それ、疲れないのか?」


 モリアが横目で俺を見る。


「何がだ?」


「いや……」


 俺は少し気まずくなって、頭を掻いた。


「その殺気だよ、殺気。ありがてぇっちゃありがてぇんだけどさ。ずっと出してて疲れねぇのかなぁ、と」


「あ……」


 俺が聞くと、リリアも何か気になっていたのか、モリアへ視線を向けた。


「確かに……ずっとですもんね」


 ミナとセシルも、何も言わずモリアを見る。


「……」


 そう言われたモリアは、僅かに目を細めた。


「……心配してもらっているようだが、あいにく心配は無用だ」


「そうなのか?」


「あぁ」


 少しだけ間を置く。


「……昔からの癖だ」


「……癖、ですか」


 リリアが小さく呟いた。

 モリアはそれには答えなかった。

 一瞬だけ、何かを隠すような表情を浮かべる。

 俺だけじゃなく、リリアたちもそれに気付いたようだったが、誰もそれ以上は聞かなかった。


「……さっさと進もう。時間が惜しい」


「お、おぅ」


「はい」


 モリアはそれ以上何も言わず、再び前を向いて歩き始めた。

 俺も少し気にはなったが、わざわざ聞き返すことはしなかった。


 俺たちはそのまま、森の中を進み続けた。

 しばらくして、俺は眩しさに手をかざしながら空を見上げる。

 木々の隙間から見える太陽は、ちょうど真上辺りまで昇っていた。


「なぁ、モリア」


 先頭を歩き続けていたモリアへ声をかける。

 今度は振り返ることもなく、そのまま前を向いたまま答えた。


「なんだ、カイル」


「次の村まで、あとどれくらいで着くんだ?」


「……そうだな」


 モリアは少しだけ空を仰ぐ。


「このまま歩き続ければ、夕刻前には着くだろうな」


「……夕刻!?」


 その答えに、リリアが思わず声を上げた。


「お腹減った!!」


 ほぼ同時に、今度はセシルまで叫ぶ。


「……」


 俺は二人の顔を交互に見たあと、少し苦笑した。


「……なぁ、軽く昼飯にしないか?」


 そう言ってモリアを見る。


「夕刻前が夕刻になっても、別に構いやしないだろ」


「……」


 モリアは足を止めると、俺以外の三人を順番に見渡した。

 リリアとセシルは、露骨に期待した顔をしている。

 ミナも少し困ったように笑っていた。


「……そうだな」


 モリアは小さく息を吐く。


「そうするか」


 俺たちは道の脇に少し開けた場所を見つけ、そこで昼飯を取ることにした。

 俺は背嚢を下ろすと、中から干し肉と野菜、それからパンを取り出す。


「今日は干し肉と野菜のスープ。それとパンでいいだろ」


「「大盛りでっ!!」」


「お前らなぁ……」


 いつものこととはいえ、迷いがなさすぎる。

 俺は鍋を取り出しかけて、ふと手を止めた。


「……そういや」


 モリアを見る。


「なぁ、次の村で食料の買い足しって出来るのか?」


「ん?」


 モリアは少し考えるように顎へ手を添えた。


「旅人がその日に食べる分くらいなら、分けてもらえるとは思うが……」


「道中の分は?」


「難しいかもしれんな。あの手の村は、普段は決まった行商人相手に物を売って生活していることが多い」


「なるほどなぁ……」


 俺は背嚢の中に残っている食料へ視線を落とした。

 三日分として買ってきたとはいえ、途中でまとまった量を補充出来ないとなれば、あまり好き勝手に食うわけにもいかない。

 俺は顔を上げると、リリアとセシルを見る。


「……ってわけだから、今回は大盛りなしな」


「えぇっ!?」


「……そんな」


 二人が露骨に肩を落とす。


「大盛りにして食料足りなくなったら困るからな。ここは村に着くまで我慢してくれ」


「……はい」


「……仕方ない」


 二人が渋々引き下がる。

 横でミナが呆れたようにため息を吐いた。


「食料がなくなったら困るんだから、我慢しなさい」


「分かってますよぉ……」


「……分かってる」


 俺はそんな二人を放っておき、まず干し肉を薄く切った。

 そのまま食える干し肉ではあるが、かなり硬い。

 おまけに保存が利くよう、塩も強めに使われている。

 小鍋に水を張ると、切った干し肉を入れてしばらく置いておく。


「すぐ煮ないんですか?」


 リリアが隣から鍋を覗き込んできた。


「このまま煮ても硬いし、塩辛いからな。少し水を吸わせる」


「へぇ……」


「その間に野菜切るぞ」


 買ってきた野菜を食べやすい大きさに切っていく。

 しばらくすると、干し肉も最初より少し柔らかくなっていた。

 俺は一切れ摘まんで硬さを確かめる。


「……こんなもんか」


 戻した干し肉を一度鍋から取り出す。


「水、捨てるの?」


 今度はセシルが聞いてきた。


「全部は使わねぇよ。塩気が強すぎたら飲めたもんじゃないからな」


 少しだけ残し、あとは新しい水へ入れ替える。

 そこへ干し肉と切った野菜を入れ、火にかけた。

 沸いてきたところで、表面に浮いたものを軽くすくう。

 あとは弱めの火で煮るだけだ。

 少し経つと、干し肉と野菜の匂いが辺りに漂い始めた。


「……いい匂いしてきました」


「まだだぞ」


「何もしてませんよ?」


「鍋に近いんだよ、お前」


 リリアを少し離しながら、俺はスープを一口すくって味を見る。


「……うん」


 干し肉から十分塩気が出ている。

 岩塩を足す必要もなさそうだ。


「塩、入れないのか?」


 見ていたモリアが聞いてくる。


「干し肉に元から結構入ってるからな。先に塩入れると濃くなりすぎる」


「なるほど……」


 最後にパンを火の近くへ置き、表面だけ軽く炙る。


「よし。出来たぞ」


「待ってましたっ!」


「ご飯」


「だから普通の量だからな?」


 念を押しながら、それぞれの器へスープをよそっていく。

 モリアは受け取った器を少し眺めてから、まずスープを一口飲んだ。


「……」


「どうだ?」


「……美味いな」


「だろ?」


 干し肉自体は大した食材じゃない。

 けど、ちゃんと戻して野菜と煮れば、それだけでも十分飯になる。

 モリアはもう一口飲むと、炙ったパンを手に取った。


「なるほど」


「ん?」


「リリアたちが、あれだけ食材に執着する理由が少し分かった」


「でしょうっ!」


「……カイルのご飯は重要」


「お前らが胸張ることじゃねぇだろ」


 俺も器を手に取り、ようやく昼飯にありついた。


 食事を終えると、俺たちは簡単に片付けを始めた。


「ミナ、悪い。頼めるか?」


「はい」


 ミナが鍋や器へ手を向ける。


「クリーンアップ」


 淡い光が広がり、こびりついていた汚れが綺麗に落ちていった。


「相変わらず便利だなぁ、それ」


「完全に洗ったわけではないので、軽く拭いておいてくださいね」


「分かってるよ」


 俺は布で鍋と器に残った水気を拭き取ると、一つずつ背嚢へ仕舞い込んでいった。


「よし。これで終わりっと」


 最後に背嚢の口を締め、俺は再び背負った。

 片付けを終えた俺たちは、再び森の中を北へ進み始めた。

 昼飯を食ったからか、さっきより足取りも軽い。


「そういえば、次の村ってどんなところなんですか?」


 歩きながら、リリアがモリアへ尋ねた。


「どんなところ、と言われてもな……普通の村だ」


「普通の村ですか」


「あぁ。畑があって、家畜を飼っている家もある。それくらいだな」


「それなら、何か美味しいものあるかな」


 セシルがぼそりと呟く。


「お前、昼飯食ったばっかだろ」


「夕飯は別」


「まだ何時間も先だぞ……」


「カイルさんだって、村に着いたら何食べるか気になりません?」


「まぁ、そりゃ多少は気になるけどよ」


「ほら」


「なんで勝ち誇ってんだよ」


 リリアが得意げな顔をする横で、ミナが小さく笑った。


「でも、こういう小さな村なら、その土地で採れたものが食べられるかもしれませんね」


「おっ。それはちょっと楽しみだな」


「カイルさん、結局食べ物の話に乗ってるじゃないですか」


「うるせぇな」


 そんな取り留めのない話をしながら、俺たちは森の中を進んでいった。

 相変わらずモンスターが襲ってくる気配はない。

 時折、鳥の鳴き声や草むらから小動物が逃げていく音が聞こえるくらいだ。

 何度か短い休憩を挟みながら歩き続ける。


 そして、太陽が少しずつ西へ傾き始めた頃。


「……お」


 木々の隙間から、開けた場所が見えた。


「もしかして、あれですか?」


「あぁ」


 モリアが頷く。


「今日泊まる村だ」


 森を抜けると、その先には畑が広がり、さらに奥には何十軒かの家が並んでいた。

 畑ではまだ何人かの村人が作業をしており、遠くから家畜の鳴き声も聞こえてくる。


「やっと着いたぁ……」


 リリアが大きく背伸びをした。


「夕飯」


「お前はそれしかねぇのか」


「大事」


「はいはい」


 俺は苦笑しながら、背中の背嚢を背負い直す。

 第二王都を出て、最初の村。

 予定より少し遅くはなったが、空が暗くなる前にはどうにか辿り着けたらしい。


「さて」


 俺は村を眺めながら、小さく息を吐いた。


「まずは、今晩泊めてもらえる場所を探すか」


 俺たちはそのまま、村の中へと足を進めた。

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