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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
モリア編

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第59話:勇者と赤熱の剣

 俺たちは前を歩くモリアの後をついて、森の奥へと進んでいた。

 この辺りはブレードパンサーの出現によって、一般人の立ち入りが禁止されている区画らしい。

 本来なら、いつモンスターが飛び出してきてもおかしくない場所だ。

 だというのに。

 森の中は、不自然なくらい静かだった。

 鳥の鳴き声すら聞こえない。

 風が吹くたびに木々の葉が擦れる音だけが、やけに大きく聞こえる。


「……静かですね」


 ミナが小さな声で呟いた。


「あぁ」


 俺も周囲へ目を向ける。

 モンスターどころか、小さな獣の気配すらほとんどない。

 理由は、たぶん考えるまでもなかった。


 俺たちの少し前。

 一人で歩き続けるモリアから、さっきと変わらない異様な殺気が漂っている。


「……これじゃ、何も近寄ってこないんじゃないですか?」


 リリアが困ったように言う。


「私もそう思う」


 セシルも頷いた。

 その声が聞こえているのかいないのか。

 モリアは振り返ることもなく、そのまま森の奥へと歩き続けていた。


 俺はしばらくモリアの背中を見ていたが、思い切って声をかけた。


「なぁ、モリア。ちょっといいか?」


 モリアは振り返ることもなく、言葉だけを返す。


「なんだ、カイル」


「……なぁ。そんなに殺気を放ってたら、目当てのモンスターまで逃げちまうんじゃないか?」


 俺がそう言うと、モリアは歩きながら口元を少し吊り上げた。


「大丈夫だ。Aランク以上のモンスターは、そう簡単に人を恐れない」


「そういうもんなのか?」


「あぁ。むしろ私が面倒なのは、先ほどのようなBランク程度の相手をしている間に、ブレードパンサーにこちらの存在を勘づかれることだ」


「……なるほど」


「戦っている音を聞かれ、逃げられては面倒だからな」


 モリアは自信ありげにそう言うと、そのまま歩き続ける。

 だからブラックボアとも戦わなかったのか。

 しかし、AAランクのモンスター相手に逃げられる心配をするとは。

 普通は逆なんじゃないだろうか。


 その時だった。


「――グオオオオオオッ!!」


 突如、森の奥からけたたましい咆哮が響き渡った。


「っ!」


 リリアが咄嗟に身構える。


「この雄叫びは……っ!」


 セシルも緊張した面持ちで、声のしたほうへ目を向けた。


「……ブレードパンサー……?」


 だが、モリアだけは冷静だった。

 足を止めると、咆哮の聞こえた方向を見据えながら、ゆっくりと剣の柄へ手を置く。


「……いや、この鳴き声は」


 そう言った時だった。


 バキッ!

 少し奥に生えていた木が、突然横へ倒れた。

 続けて、その隣の木も。

 何か巨大なものが、木々を次々と薙ぎ払いながらこちらへ向かってくる。


「なんだ……?」


 俺が目を凝らした直後。

 森の中から、全長五メートルほどの熊型モンスターが姿を現した。


「熊野郎!?」


 思わず声が出る。


「……うそっ」


 ミナが目を見開く。


「こんなところに、Aランクのアッシュベアが生息しているなんて……」


「アッシュベア?」


 俺が聞き返す間にも、そいつは低い唸り声を上げながら、こちらを睨みつけていた。

 ……また熊かよ。


 咄嗟にリリアが叫びを上げた。


「出ますっ!! 援護をっ!!」


 言うや否や、リリアは聖剣スキルを起動した。

 身体強化されたその足で地面を蹴り、アッシュベアへ一直線に突き進む。


「グオオオオオッ!!」


 アッシュベアが吠えながら、巨大な右腕をリリア目掛けて振り下ろした。


「リリア!」


 ミナが声を上げる。

 だが、リリアは止まらない。

 大きな腕が直撃する寸前、地面を蹴って一気に軌道を変えた。

 振り下ろされた腕をかわしながら、そのまま剣を振り抜く。


 ザシュッ!


「グアアアアアッ!!」


 アッシュベアの右腕が大きく切り裂かれ、血が飛び散った。


「セシルッ!!」


 気付けば、俺の身体も前へ出ていた。

 背中の大鉈を抜き放つ。


「分かってるっ!!」


 セシルがアッシュベアへ手のひらを向ける。

 その周囲に魔力が集まり始めた。

 俺は背中越しにセシルの魔力を感じながら、そのままアッシュベアへ突っ込む。


「おおおおっっ!!」


 大きく一歩踏み込み、その反動を使って大鉈を振り抜いた。

 狙うのは、リリアが傷つけた右腕とは反対側。

 アッシュベアの左腕だ。


 バスンッ!


 肉を大きく切り裂く感触が、手元に走った。


「グオオオオオッ!!」


 アッシュベアが再び絶叫する。


「イケるッ!!」


 俺は大鉈を振り抜きながら、思わず声を上げた。


「あのロックベアほど硬くねぇ!!」


 その時だった。


「いい連携だ」


 モリアが静かに声を上げた。

 大きな声ではない。

 だが、その声は不思議と森の中に響いたように感じた。

 俺は反射的にモリアへ顔を向ける。


「……っ」


 いつの間にか、モリアは剣を抜いていた。

 古びた鞘から抜かれたその剣は、刀身そのものが赤く熱を帯びている。

 ……あれが、モリアの聖剣スキルか?

 離れている俺のところまで熱気が伝わってくる。

 モリアの周囲だけ、明らかに空気の温度が違った。


「グオオオオオッ!!」


 両腕を傷つけられたアッシュベアが怒り狂ったように咆哮する。


 その次の瞬間。

 モリアが地面を蹴った。


 ドンッ!!


 蹴り出した地面から大きな土煙が立ち上がる。

 あれだけの速度で身体を前へ飛ばすのに、いったいどれだけの力で地面を蹴っているんだ。

 瞬く間に、モリアとアッシュベアとの距離が消えた。


「フッ!!」


 短い声と共に、モリアが剣を振るう。

 その瞬間。

 剣から爆炎が溢れ出した。


 ゴォォォォッ!!


「うおっ!?」


 凄まじい熱と爆風が辺りに吹き荒れる。

 思わず腕で顔を覆った。


 炎が消えたあと。

 モリアはすでにアッシュベアの横を通り抜けていた。


「……終わりだ」


 静かな声が聞こえる。


 直後。

 アッシュベアの首が、ゆっくりと胴体からずれた。

 切断面から煙を上げながら、その巨大な頭が地面へ落ちる。


 ドスンッ!


 続けて、首を失った巨体もその場へ崩れ落ちた。


「……」


 俺は大鉈を構えたまま、その光景を見つめる。

 ……Aランクを、一撃かよ。

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