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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
エリオ編

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第56話:勇者と買い物と女心

 店が立ち並ぶ通りへ入った途端、リリアとセシルの歩く速度が目に見えて上がった。


「カイルさん! あっち見てください!」


「ん?」


「あのお店、可愛くないですか!?」


「……店が?」


「売ってる物ですよっ!」


 リリアが指差した先には、髪飾りや腕輪なんかが並べられた小さな露店があった。


「行きましょう!」


「お、おう」


 返事をするより早く、リリアが俺の腕を掴んで引っ張っていく。


「リリア、待って。私も見る」


 セシルもすぐに後を追う。

 ミナと顔を見合わせると、ミナは小さく笑った。


「楽しそうですね」


「任務ないって聞いてから、ずっとあんな感じだな」


「いいんじゃないですか? たまには」


「まぁな」


 俺たちも二人の後を追った。

 露店へ着くと、リリアは早速、並べられた髪飾りを一つずつ眺め始めていた。


「わぁ……これ綺麗ですね」


「リリア、こっちもある」


「あっ、それも可愛い!」


 さっきまで木剣を振り回していた勇者とは思えないくらい、普通の女の子みたいにはしゃいでいる。

 セシルも隣で、青い石のついた髪留めを手に取っていた。


「セシル、それ買うのか?」


「まだ分からない」


「気に入ったなら買えばいいじゃん」


「そういう問題じゃない」


「じゃあ、どういう問題なんだよ」


 俺が首を傾げていると、隣からリリアが顔を出した。


「カイルさん!」


「今度はなんだ?」


「これとこれ、どっちがいいと思います?」


 リリアの両手には、それぞれ違う髪飾りが乗っていた。

 一つは小さな白い花のついたもの。

 もう一つは、赤い石がついたものだ。


「俺に聞くのか?」


「はい!」


「そういうの、セシルとかミナに聞いたほうが詳しいんじゃないか?」


「カイルさんに聞いてるんです!」


「お、おう……」


 なんでそんな強く言うんだ。

 俺は二つを見比べたあと、白い花のほうを指差した。


「そっちかな」


「こっちですか?」


「あぁ。なんとなくリリアに合ってる気がする」


「……!」


 リリアの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、これにします!」


「決めるの早っ」


「だってカイルさんがこっちのほうが似合うって」


「いや、そこまで言ってないぞ?」


「同じようなものです!」


 違うと思うんだが。

 リリアは上機嫌で店主に代金を払っている。


「……」


 その横で、セシルがじっと俺を見ていた。


「なんだよ?」


「別に」


「なんだその顔」


「なんでもない」


 そう言いながら、セシルはさっき持っていた髪留めを棚へ戻した。

 そして別のものを手に取る。

 少しして。


「……カイル」


「ん?」


「これ」


 セシルが二つの髪留めを俺の前へ差し出してきた。


「どっちがいい?」


「お前も聞くのかよ」


「参考までに」


「参考ねぇ……」


「いいから選んで」


「分かったって」


 一つは青い石。

 もう一つは黒っぽい石がついている。

 セシルの髪を見てから、俺は青いほうを指差した。


「こっちじゃないか?」


「……なんで?」


「髪の色にも合ってるし。セシルっぽい」


「ふーん」


 セシルはそれだけ言うと、青い髪留めを手に取った。


「それ買うのか?」


「うん」


「参考じゃなかったのかよ」


「参考にして決めた」


 その割には一秒だったぞ。

 すると、少し離れたところにいたリリアが、にこにこしながらこっちを見ていることに気付いた。


「……なんですか」


「いえー?」


「その顔やめて」


「何も言ってませんよ?」


「顔が言ってる」


「ふふっ」


「リリア」


「はいはい」


 なんだ?

 こいつら、急に仲良くなったり睨み合ったり忙しいな。


「カイルさん」


「今度はミナか」


「私には選んでくれないんですか?」


「お前まで!?」


 ミナが楽しそうに笑った。


「冗談ですよ」


「勘弁してくれ……」


 店を離れたあとも、リリアとセシルの勢いは止まらなかった。


「あっ! カイルさん、あれ食べましょう!」


「さっき昼飯食ったばっかりだろ」


「甘い物は別です!」


「どこに入るんだよ……」


 リリアが指差しているのは、焼き菓子を売っている屋台だった。

 薄く焼いた生地に果物を挟み、上から蜜をかけているらしい。


「セシルも食べますよね?」


「食べる」


「即答だな」


「カイルは?」


「俺はいいよ」


「えー」


 何故か二人揃って不満そうな顔をした。


「なんだよ」


「せっかく一緒に食べようと思ったのに」


 リリアが口を尖らせる。


「そう」


 セシルまで頷いた。


「いや、俺さっき結構食ったし……」


「じゃあ一個だけ!」


「一個丸々じゃねぇか」


「じゃあ、私の少しあげます!」


「ならそれでいいけど」


「決まりです!」


 結局、三人分を買うことになった。

 リリアは受け取った焼き菓子を一口食べると、すぐに目を輝かせた。


「おいしい!」


「ほんとだ。甘い」


「そんなにか?」


「カイルさんも食べてみてください!」


 そう言って、リリアが自分の食べていた焼き菓子をそのまま俺の口元へ差し出してきた。


「ん?」


「はい」


「……俺が持つけど」


「このままでいいですよ?」


「そうか?」


 俺はそのまま一口かじった。


「お、確かにうまいな」


「ですよね!」


 リリアが嬉しそうに笑う。

 すると。


「……」


 何故かセシルがじっと俺たちを見ていた。


「どうした?」


「別に」


「今日それ多くない?」


「気のせい」


 そう言いながら、セシルは自分の焼き菓子を一口食べた。

 それから少しだけ考えるような顔をして、


「カイル」


「ん?」


「こっちも味違う」


「へぇ」


「食べる?」


「いいのか?」


「うん」


 セシルも焼き菓子を俺のほうへ差し出してくる。


「じゃあ一口」


 かじってみると、リリアのものより少し酸味が強かった。


「こっちもうまいな」


「でしょ」


 セシルはどこか満足そうに頷いた。

 その横では、今度はリリアがじっと俺たちを見ている。


「……なんだ?」


「別になんでもないです」


「お前もかよ」


 今日のこいつら、なんなんだ。


 そんなことを考えながら、俺たちは再び通りを歩き始めた。

 リリアとセシルは相変わらず店先を覗いては、あれが可愛いだの、こっちも見たいだのと忙しそうにしている。

 俺とミナは、その少し後ろを歩いていた。


「楽しそうだなぁ……」


「いいじゃないですか。二人とも、こういう時間は久しぶりなんでしょうし」


「まぁ、それもそうか」


 俺が頷いた、その時だった。


「だから違うって言ってるだろ!」


「じゃあ、なんであんなに楽しそうに話してたのよ!」


 少し先から、男女の言い争う声が聞こえてきた。


「なんでしょう?」


 リリアが足を止める。

 見ると、通りの端で俺たちより少し年上くらいの男女が向かい合っていた。


「ただ店員と話してただけだって!」


「嘘! 私といる時より楽しそうだったじゃない!」


「そんなことねぇよ!」


「ある!」


「……痴話喧嘩?」


 セシルがぽつりと言う。


「みたいですね……」


 ミナも少し困ったような顔をした。

 まぁ、他人の痴話喧嘩に首を突っ込む必要もない。


「行こうぜ」


「そうですね」


 俺たちはその横を通り過ぎようとした。

 だが。


「なぁ、そこの兄ちゃん!」


「……俺?」


 男が突然、俺を呼び止めた。


「兄ちゃんからも言ってやってくれよ! 店の女と少し話したくらいで、こんな怒ることないよな!?」


「知らんがな」


「ちょっと!」


 今度は女のほうが俺を見る。


「この人、昨日ずっと女の店員さんと楽しそうに話してたんですよ!?」


「ずっとじゃねぇ! ちょっとだ!」


「笑ってた!」


「愛想笑いくらいするだろ!」


 ……面倒なところに捕まったな。

 俺は小さく息を吐いて、二人を交互に見る。


「で、あんたはこいつがその店員と話してたのが嫌だったと」


「……はい」


「それは、こいつがその女のことを好きなんじゃないかって思ったから?」


「……そうです」


 女は少しだけ俯いた。


「なるほどなぁ」


 俺は頭を掻きながら、女のほうを見る。


「まぁ、あんたも少しは分かってやれよ」


「え?」


「男ってのは案外恥ずかしがり屋でな。『そんなの言わなくても分かるだろ』って思いがちなんだよ」


「……」


「だから、言ってくれないからって、大事にされてないって思う必要もないだろ。こいつだって、あんたのことがどうでもよかったら、こんな必死に言い訳してないだろうし」


 女がちらりと男を見る。

 男は気まずそうに視線を逸らした。


「……まぁ、それは……」


「でもな」


 今度は男のほうを見る。


「お前も悪い」


「俺も!?」


「当たり前だろ」


「なんで!?」


「好きな女には、ちゃんと『お前が一番大事だ』って日頃から言っとけ」


「えぇ……」


「女心ってのはな、言わなくても分かることでも、言ってやらないと収まりがつかない時があるんだよ」


「……」


 男はしばらく黙ったあと、俺の顔をじっと見つめた。


「……キミ、俺より年下だよな?」


「たぶんな」


「なんでそんなに詳しいんだよ……」


「……って、俺の村の村長が日頃からな」


「受け売りかよ!」


「うるせぇな。役に立つなら誰の言葉でもいいだろ」


 俺がそう返すと、男は呆れたように笑った。

 それから少し照れ臭そうに、隣の女へ顔を向ける。


「……悪かった」


「……うん」


「その……お前が一番大事だから」


「……最初からそう言ってよ」


「恥ずかしいんだよ!」


「ほらな?」


「兄ちゃんは黙っててくれ!」


 なんだよ。

 せっかく仲裁してやったのに。

 二人はまだ何か言い合っていたが、さっきまでとは違い、もう喧嘩という感じではなかった。


「じゃあな。今度から道の真ん中でやるなよ」


「あぁ。ありがとな!」


 男が片手を上げる。

 俺も軽く手を上げて、その場を離れた。


 少し歩いたところで、妙に後ろが静かなことに気付く。


「……なんだ?」


 振り返ると、リリアとセシルが揃って俺を見ていた。


「カイルさん……」


「ん?」


「なんか、そういうことも知ってるんですね……」


「そういうことってなんだよ」


「女心」


 セシルが答える。


「だから村長の受け売りだって言っただろ」


「でも、普通あんなふうに言えないと思う」


「そうか?」


「そう」


 セシルは短く答えると、なぜか少しだけ俺から視線を逸らした。

 リリアも何か考えるような顔をしている。


「……好きな女には、ちゃんと言うんですね」


「ん?」


「い、いえ! なんでもないです!」


 急にリリアが顔を背けた。


「なんなんだよ」


「なんでもないです!」


 今日のこいつら、本当によく分からん。

 俺が首を傾げていると、隣にいたミナが小さく笑った。


「カイルさんは、そのままでいいと思いますよ」


「お前までなんなんだよ……」

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