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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
エリオ編

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第55話:休暇と過去

 大訓練場を出た俺たちは、そのまま街中を歩いていた。

 さっきまで動き回っていたせいか、外の風がやけに気持ちいい。

 俺は隣を歩くリリアへ顔を向けた。


「そういや、リリア」


「はい?」


「それで、今回の王都からの依頼は?」


 俺が聞くと、リリアは何故か得意げな顔をした。


「ふふんっ!」


「……どうした? 風邪引いたか?」


「違いますよっ!」


 リリアは少し頬を膨らませたあと、すぐに嬉しそうな表情へ戻る。


「なんと今回、勇者隊宛の任務、なかったんです!」


「え? ないの?」


「はいっ!」


 リリアは大きく頷いた。


「なんでも、隻腕の勇者さんが一人で片っ端から片付けてるそうで!」


「モリアが?」


「そうです! だから、今のところ私たちに回せる任務はないって言われました!」


「そりゃまた、ずいぶん働く人だな……」


「本当に助かります!」


 リリアは心の底から嬉しそうだった。


「つまり、久々の休暇!」


 セシルも嬉しそうに声を上げた。


「ね! 何する? 何する?」


 リリアもすぐに食いつく。


「何しよ! 何しよ!」


 二人は顔を見合わせながら、すっかり浮かれた様子ではしゃいでいる。

 その様子を見ていたミナは、呆れたように小さくため息をついた。


「まったく、二人とも……」


 だが、すぐに少しだけ表情を緩める。


「まぁ、当分のお金も前回の任務でたんまりありますしね……」


「そうですよ!」


「遊べる!」


「お前ら、急に元気になったな……」


 俺は二人のやり取りを眺めながら、なんとなく呟いた。


「何すっかぁ……土いじり……は、今畑ないしな」


「農民……」


 リリアがぽつりと言う。


「農民……」


 セシルまで続いた。


「根が完全に農民ですね……」


 最後にミナまで、妙に納得したような顔で頷く。


「なにおう!?」


 俺は思わず三人を見る。


「土いじりは奥が深いんだぞ? なんせそれで次の収穫量がなぁ」


「休暇の話してるんですよ、カイルさん」


「だから休暇に土いじりするんだろ」


「やっぱり農民……」


「農民だよ!」


 すると、リリアがふいに首を傾げた。


「でも、カイルさんって、なんでそんなに農民であることを誇らしげにしてるんですか?」


「なっ!?」


 俺は思わず目を見開いた。


「……うちのリリアが急に悪口を……あたしの教育のせいかしら……」


 口元を手で押さえ、ほろほろと泣く真似をしてみる。


「ち、違いますよっ! 悪口じゃないです!」


 リリアが慌てて両手を振った。


「だって、カイルさんってそんなに身体も頑丈ですし、魔力の才覚がないとは言っても、意識せずに身体強化を発揮できてるじゃないですか」


「……なんか急に褒められ始めたな」


「それに、歳も私たちとそんなに変わらないのに、妙にコミュ力高いじゃないですか?」


「妙にってなんだよ」


「だって、初対面の人とも普通に話しますし、前なんてギルドの支部長さんに説教までしてたじゃないですか」


「……あれは、ちょっと腹立ったからだよ」


「普通、腹が立っても支部長さん相手にあそこまで言えませんよ?」


「まぁ……そうかもしれないけど」


「だったら、仕事の当てなんかいくらでもありそうじゃないですか?」


 リリアは不思議そうな顔で俺を見る。


「なのに、カイルさんって何かあるたびに『俺は農民だから』って言いますよね」


 リリアの言葉を聞いて、俺は少しだけ黙った。

 仕事なら、確かに探せばいくらでもあるのかもしれない。

 でも、俺が農民であることにこだわる理由は、それとは少し違う。


 ふと、前世の記憶が頭に浮かんだ。

 戦争が終わって間もない頃の日本。

 俺は昔から身体が弱かった。

 それでも、生きていくために死に物狂いで働いていた。

 朝から晩まで働いて、身体がきつくても無理をして。

 そんなある日、会社で突然倒れた。

 気が付いた時には病院のベッドの上だった。

 そのまま入院することになったが、結局、身体は良くならなかった。

 そして、そのまま俺は死んだ。


 ……前世の自分について、はっきり覚えているのは、そのくらいだ。

 家族がいたのか。

 一人で暮らしていたのか。

 その辺りは、どうしても思い出せない。

 前世の記憶は、ところどころ抜け落ちている。


 だからこそ、この世界に生まれてから、この身体には何度も感謝した。

 走っても倒れない。

 重いものを持っても平気。

 畑仕事を一日やったくらいじゃ、どうってこともない。

 そんな当たり前のことが、俺には嬉しかった。


 それに、俺はこの世界では孤児だった。

 そんな俺を拾って育ててくれたのが、ラウム村の村長だ。

 ザックみたいな友達もできた。

 畑の耕し方も、作物の育て方も、全部あの村で覚えた。

 だから俺にとって、農民っていうのはただの仕事じゃない。


「……まぁ、色々あるんだよ」


「色々、ですか?」


「あぁ」


 俺は少し笑った。


「この身体で元気に働けることも嬉しいし、俺を育ててくれたのもラウム村だからな」


「……」


「だから俺は、自分がラウム村の農民だってこと、結構気に入ってるんだよ」


 リリアは少し意外そうな顔をしたあと、ふっと笑った。


「そうだったんですね」


「おう。だから、農民を馬鹿にするのは禁止な」


「してませんよっ!」


 リリアが慌てて否定する。


「ならいいけどな」


 俺が笑うと、リリアはまだ少し不満そうに頬を膨らませていた。


「それより、せっかく久しぶりのお休みなんですよ?」


「そうだよ。土いじり以外のことしようよ」


「お前ら、そんなに土いじり嫌いかよ」


「嫌いじゃないけど、休みの日にやることではない」


 セシルがきっぱりと言う。


「じゃあ、何するんだ?」


 俺が聞くと、リリアとセシルは顔を見合わせた。


「買い物!」


「買い物したいです!」


 ほぼ同時だった。


「……息ぴったりだな、お前ら」


「せっかく第二王都まで来たんですから、ゆっくりお店を見て回りたいです!」


「昨日も今日も、ほとんど用事ばっかりだったし」


「まぁ、それはそうか」


 俺も買い出しには出たが、食材や必要な物を買っただけだ。

 第二王都には店もかなり多いし、見て回るだけなら暇潰しにはなるだろう。


「ミナは?」


「私も賛成ですよ。せっかくのお休みですし」


「決まりですね!」


 リリアが嬉しそうに声を上げる。


「じゃあカイルさん、行きましょう!」


「おう。って、引っ張るなって」


 リリアに腕を引かれながら、俺たちはそのまま第二王都の店が集まる通りへ向かうことになった。






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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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