第49話:第2王都
俺たちを乗せた馬車が、第2王都の門前に到着したのは、その日の夜だった。
馬車から降りると、俺は固まった身体を伸ばした。
「ようやく着いたな……」
「……ですね」
リリアも疲れているのか、いつもより声に元気がなかった。
「……お腹減った」
セシルはそう言いながら、お腹を押さえていた。
「もうこんな時間だと、お店も閉まっちゃってますかね……。とりあえず、今日は宿を見つけましょう」
「そうだな。街を見るのは明日にするか」
俺たちは荷物を持つと、そのまま第2王都の中へ入った。
夜だというのに、門の周囲には鎧姿の兵士が何人も立っていた。
街へ入ってからも、武器を携えた兵士や冒険者らしき姿がちらほらと目につく。
ローデンとは、少し雰囲気が違うな。
「兵士、多くないか?」
「第2王都ですからね。北へ向かう兵士や勇者が、ここに集まるんです」
「……なんか怖そうな人、多い」
セシルが、通りを歩いている大柄な男たちを見ながら呟いた。
「お前も十分そっち側だろ」
「失礼」
「見た目の話だよ」
「もっと失礼」
セシルがむっとした顔で俺を見る。
「まあまあ……」
リリアが苦笑しながら間に入った。
とはいえ、夜ということもあり、通りを歩いている人そのものは少なかった。
近くにいた兵士に宿屋が集まっている場所を聞き、俺たちは街の中を歩いた。
しばらくして、ようやく宿屋が何軒も並んでいる通りを見つけた。
俺たちはその中から、まだ明かりのついていた宿屋に入った。
「すみません。一人部屋と三人部屋を一つずつ借りたいんですけど、空いてますか?」
「ああ、空いてるよ。二部屋で大銅貨五枚だ」
俺たちは宿代を払い、一人部屋と三人部屋を一部屋ずつ借りた。
一人部屋は俺が使い、三人部屋にはリリアたちが泊まることになった。
部屋を決めたあと、俺たちは受付へ戻った。
「すみません。厨房と、何か食材を使わせてもらうことってできますか?」
「厨房を?」
「はい。食事は自分で作るので」
宿の女将は少し考えたあと、答えた。
「大銅貨二枚でいいなら、好きに使っていいよ。ただし、使ったあとは片付けておくれ」
俺は女将に大銅貨二枚を支払い、リリアたちと一緒に厨房へ向かった。
用意してもらったのは、安いくず肉と玉ねぎ、卵。それから少し固くなったパンだった。
くず肉とはいっても、筋が多かったり形が悪かったりするだけで、食べられないわけではない。
細かくしてしまえば問題ないだろう。
俺は太い筋を取り除くと、包丁で肉を細かく刻んでいった。
「カイルさん、何を作っているんですか?」
「挽き肉の厚焼きだ」
細かくした肉に、刻んだ玉ねぎと卵、砕いたパンを加える。
あとは塩と香辛料を加えて、しっかりと混ぜ合わせた。
「カイルさんって、本当に料理が得意なんですねぇ」
俺が肉を丸めていると、リリアが感心したように言った。
「一家に一台欲しいね」
セシルまで、そんなことを言ってくる。
一家に一台って、俺は調理道具か何かか。
「料理して、荷物持って、モンスターも倒せる」
「便利ですねぇ」
リリアまでセシルに同意するように頷いた。
「お前ら俺を何だと思ってんだよ」
「カイル」
「おい…名前の話をしてんじゃねぇ…」
セシルはどこか満足そうに頷いた。
「別にこんなん、誰でもできるだろ……」
「私、料理ってあんまりしたことがなくて……」
「私も……」
リリアに続いて、セシルも小さく手を挙げた。
こいつら、今までどうやって旅をしてきたんだ。
形を整えた肉をフライパンに並べ、両面を焼いていく。
挽き肉の厚焼きが焼き上がると、俺たちは厨房の隣にある食堂へ移動した。
食堂といっても、それほど広くはない。
四人掛けのテーブルが三つ並んでいるだけの、小さな部屋だった。
もう遅い時間だからか、ほかに客の姿はなかった。
俺たちは四人掛けのテーブルを囲み、挽き肉の厚焼きを食べ始めた。
「二人とも、料理くらいできないと、将来家庭を持ったときに困るよ?」
ミナが少し呆れたように言った。
「確かに、今まで野宿するときは、ミナが作ることが多かったよね」
リリアの言葉を聞いて、俺は少し気になった。
「ちなみに、ミナはどんな料理を作ってたんだ?」
「あはは……」
なぜかミナは苦笑いを浮かべた。
「乾燥肉を炙って、塩をかけただけ」
横からセシルが、挽き肉の厚焼きを食べながら答えた。
「ちょっと、セシル!」
「本当のことだから」
「……それ、料理なのか?」
「ちゃんと火を使ってます!」
「料理の基準そこなの?」
「食べられればいいんですっ!」
ミナが少し頬を膨らませる。
それは料理と言っていいのだろうか。
どうやらミナも、人のことは言えないらしい。
食事を続けながら、俺は明日の予定を聞くことにした。
「それで、明日はとりあえずどうする?」
「私とセシルは、ギルドに第2王都へ到着したことを報告しに行きます」
「私は教会に立ち寄りたいです」
リリアに続いて、ミナが答えた。
「また王都から、何か依頼が来てるんかねぇ」
第2王都に着いて早々、また討伐依頼というのは勘弁してほしい。
しかし、俺の予想に反して、リリアは明るい顔をしていた。
「第2王都には、ほかの勇者隊もいるはずです。なので、ほかの街にいるときよりも、私たちに回ってくる依頼は少ないと思います」
「そうなのか?」
「はいっ! もしかすると、久しぶりに休暇を満喫できるかもしれませんっ!」
リリアは珍しく嬉しそうな顔で言った。
どうやら勇者も、休みが欲しいらしい。
「それなら、俺は食材やら調味料やらを買いに行こうかな」
ここへ来るまでに、持ってきた食材もかなり使ってしまった。
第2王都なら、今まで見たことのない食材も売っているかもしれない。
その後、俺たちは食事を終えると、それぞれの部屋へ戻った。
翌朝。
身支度を終えた俺たちは、宿の前で別れることになった。
「それじゃ、俺は買い出しに行ってくる」
「カイル」
セシルに呼び止められ、俺は振り返った。
「知らない女の人に、ノコノコついていったらダメだよ?」
「なんでだよ」
「確かに、第2王都には綺麗な人も多いですからね……。ついていったらメッですよ、カイルさん」
今度はリリアまで、そんなことを言い出した。
「子供か、俺は!?」
俺が言い返すと、リリアとセシルは楽しそうに笑いながら、ギルドへ向かっていった。
「楽しそうですねぇ、二人とも」
二人の後ろ姿を見ながら、ミナが言った。
「ったく……お母さんと呼ばれたり、子供扱いされたり……なんなんだ、あいつら」
俺が呟くと、ミナはくすりと笑った。
「さあ? なんででしょうね?」
そのあと、ミナも教会へ向かい、俺は一人で買い出しへ向かうことになった。




